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気候変動適応技術で新たなリーダーとなる新興国市場
2025/10/28

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概要

新興国企業が気候変動適応技術の分野で世界的リーダーになりつつあります。これは持続可能な株式ポートフォリオにおいて、こうした企業がますます大きな存在感を示すことを意味します。



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新興国は気候変動の影響が最も深刻な地域です。アジアは世界平均のほぼ2倍の速さで温暖化が進行しており1、湾岸地域やインド亜大陸の人々は深刻な熱中症のリスクに直面しています。ラテンアメリカでは、干ばつや山火事が農作物を破壊する脅威となっています。

新興国は極端な気象現象の影響を過度に受けているだけでなく2、農業のような気候変動の影響を受けやすい産業への依存、急速な都市化や限られた財政資源のために脆弱性が高まっています。新興国の都市人口はインフラ投資よりも速いペースで増加しており、今後15年間で年間2兆米ドルの資金不足が生じると予測されています3

これらの問題に対して、新興国が自ら解決に向けた取り組みを進める亊例が増えています。新興国企業が手掛ける、世界最先端の気候変動適応技術は、世界中の環境投資家にとって新たなフロンティアとなりつつあります。

冷却技術 : 高まる重要性

アジアは、広大な陸地が周囲の海洋よりも速く熱を吸収・保持するため、地球温暖化の影響を特に受けやすい地域です。この問題は人口密集地域でさらに深刻化します。ヒートアイランド現象により、都市部の気温が農村部よりもはるかに高くなるからです。

これは、エアコンが全人口にとって贅沢品ではなく、生命線になりつつあることを意味します。

エアコンの普及率は、2040年までに世界全体で16倍に増加すると予想されています4。特に、普及率はまだ低いものの生活水準が向上している新興国で、その成長が集中すると見込まれています。


図表1:新興国における所得別エアコン普及率
2020年における地域別中央値

出所:IEA based on Falchetta, G.; De Cian, E.; Pavanello, F.; Wing, I. S. (2024), Inequalities in global residential cooling energy use to 2050

中国では、都市部で100世帯あたりのエアコン所有台数が2023年末に171台と過去最高を記録し、2020年の150台未満から増加しました5。東南アジア全体では、エアコン設置台数は2020年から2040年にかけて9倍に増加する見込みです6

中国、インド、インドネシアだけで、今世紀半ばまでに世界の冷房エネルギー需要増加分の約半分を占めることになります。

興味深いことに、その需要の多くは新興国を拠点とする企業によって賄われています。シンクタンクのエンバー(Ember)によると、中国は世界のエアコン市場をリードしており、販売台数と設置容量における中国のシェアは、2017年の36%から2024年には50%以上に成長しています。

しかし、冷房需要にはコストがかかります。エアコンの使用増加は電力需要の急激な上昇を引き起こし、特に脆弱な電力網を持つ地域では過負荷や停電のリスクを高める可能性がありあります。

これに対応して、新興国のエアコンメーカーは、より革新的な取り組みを進めることで、先進国メーカーに対して競争優位性を高めつつあります。電力システムに負担をかけずに冷却できる、より効率的なモデルを開発している企業も見られます。

例えば、中国のグリー・エレクトリック(格力電器)、ミデア・グループ(美的集団)、オックス・グループ(奥克斯グループ)などは、インバーター技術を搭載したエアコンを開発しています。インバーターエアコンは、必要な冷却量に応じてコンプレッサーモーターの速度を調整する高度な技術を使用しています。これは、オンかオフのどちらかでしか動作しない単一速度のコンプレッサーを採用した従来型モデルとは対照的です。

インバーター技術は、固定速度型のエアコンと比較して電力の損失が少なく、エネルギー消費量とコストを60〜70%節約します7

この技術革新は特に中国で重要です。2024年8月から9月にかけて、冷房による電力需要の伸びが前年同期比で2倍に達したためです。

規制強化もまた、より革新的なエアコンへの需要を後押ししています。中国は2020年にルームエアコン向けの最低エネルギー性能基準(MEPS)を改定しました。これは世界で最も厳しい基準の一つです8

調査によると、中国国内市場では急速に移行が進み、インバーターエアコンのシェアは2017年の53%から2021年には95%にまで拡大しました。

他の地域では、韓国の大手企業であるLGとサムスン(Samsung)も、スマート接続や統合浄化型機能を備えたデュアルインバーターや、AI搭載の効率的な冷房システムを開発しています。

地域冷房システム

主に中東に拠点を置く新興国企業は、もう一つの重要分野である気候変動適応技術、地域冷房システムにおいても世界をリードする存在になりつつあります。

古代ローマにまでさかのぼる技術をモデルにした地域冷房システムは、中央プラントから住宅、オフィス、工場に冷却水を供給します。主な利点は、個別のコンプレッサーを使用する従来のエアコンと比較して、エネルギー使用量を最大50%削減できることです。

また、これらのシステムには、エネルギーや水効率、持続可能性、再生可能エネルギーとの統合といった先進的な技術が取り入れられています。

ドバイのエンパワー(Empower)は、世界最大の地域冷房提供企業として、ビジネスベイ地域冷房プラントなどの大規模プロジェクトを通じて供給能力を拡大しています。このプラントはアラブ首長国連邦全体で188の多目的ビルや超高層ビルに冷房を提供する予定です。同社は、オフピーク時に冷水を生産して電力網への負担を軽減する「熱エネルギー貯蔵」というエネルギー効率の高いソリューションを活用しているほか、淡水化された水の代わりに下水処理水を使用しています。

アジアで最大のオフィス不動産投資会社であるEmbassy Office Parks REIT(EMBA)も地域冷房の利用を検討しています。同社によると、地域冷房は電力消費を削減し、従来の冷却システムと比較して運用コストを40%以上節約できるとしています9

新興国企業が開発しているもう一つの気候変動適応技術に液体冷却があります。この技術は地域冷房と同様の原理で動作し、主にデータセンターや人工知能(AI)インフラなどの発熱システムに使用されます。

台湾のウィイン(Wiwynn)は、AIコンピュータ向けの高度な液体冷却ソリューションの主要開発企業であり、特にNVIDIAのBlackwell Ultra GPUなどの次世代サーバー向けに、より高いパフォーマンスを実現する液体冷却とファンレスのアプローチを特徴とする設計を提供しています。

作物の耐性とインフラの回復力

新興国企業はまた、持続可能な農業技術の最先端にも立っています。

気温の上昇と降水パターンの変化により、2050年までに世界の農作物の収穫量が8%減少すると予想されています。こうした農産物の生産者の多くは新興国に拠点を置いています10

地球温暖化や異常気象の影響に対処するため、新興国企業は気候変動への耐性を高めるための特化型ソリューションを開発しています。

例えば、ブラジルの大手バイオ燃料企業ライゼン(Raizen S.A.)は、水と農薬の使用を監視・管理するデジタル農業機器を開発し、サトウキビ生産者が気候変動に適応しリスクを軽減できるよう支援しています。

新興国はまた、インテリジェント照明、省エネモーター、先進的な危険監視技術、再生可能エネルギーを利用したEV充電ステーションなどのスマートインフラの分野でも世界をリードしています。

例えば、中国の浙江高速道路は、スマート高速道路の設計と建設におけるパイオニアです。

インパクトと成長のための投資

環境投資家は、世界が気候変動に直面する中で、適応技術が緩和技術と同じくらい重要になりつつあることを認識しています。あまり知られていないのは、先進的な適応技術の多くが新興国企業によって開発されているということです。これには先進的な冷却技術、スマート農業、エネルギー効率の高いインフラなどの重要な技術が含まれます。

つまり、持続可能な株式ポートフォリオは、より多くの資本を新興国に配分する必要があるということです。


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