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- 都市の環境課題に取り組む:適応策と強靭化への投資で欠落部分を埋める
適応策と強靭化への投資が、どのように都市環境を変革しているかをご紹介します。ピクテの専門家がクロスターズ・フォーラム2025(The Klosters Forum 2025)で取り上げた、持続可能な成長をけん引する収益性の高いソリューションと革新的な技術をご紹介します。
洪水で流された家屋、猛暑で歪む送電線や道路、そして食料供給を脅かし水資源に圧力をかける干ばつ。こうした自然災害は、今ではあまりにも一般的になっています。そして、莫大な経済的損失をもたらしています。
昨年だけでも、世界では150件以上の異常気象が発生し、推定で3,200億米ドルの世界的な経済的損失をもたらしました。これは過去10年間の年間平均を40%上回ります1。
気候変動や環境悪化の影響が増大するにつれ、適応策と強靭化への投資、例えば雨水ポンプステーションの設置、既存の建物への効率的な冷房設備を設置するための改修、洪水や山火事の早期警報システムの導入などの具体的な対策が、地球温暖化を緩和する対策と同様に重要になっていることは明らかです。
これが今年のクロスターズ・フォーラムの主要テーマでした。このフォーラムでは、建築家、エンジニア、学者、投資家が集まり、企業や都市が厳しい気象に適応する上での課題について議論しました。3日間にわたる会議中、ピクテ・グループの代表者は、適応策と強靭化(A&R)に関する革新的かつ破壊的な技術の例を挙げ、それらが有望な投資機会を提供することを示しながら見解を共有しました。
Illustration © 2025 Menah Wellen
ギャップに注目
適応策への投資は長い間軽視されてきました。
国連の推計によると、適応策には年間300億米ドル強の資金しか集まっておらず、これは緩和策への投資額の半分以下です2。この金額は、今後10年で、年間最大3,870億米ドルに達すると見積もられている資金需要を大きく下回っています。
幸いなことに、ピクテ・グループの代表者によれば、適応策への資金不足は解消されていく見通しです。これは、適応と強靭化がもはや遠い将来の話題ではなく、すでに今日必要とされているためです。
図表1:適応策の資金不足
必要資金額、モデル化されたコスト、およびグローバルな公的資金フローの比較
* モデル化された費用は、部門別モデルに基づく適応費用の見積もりである。適応資金の必要額は、開発途上国による報告に基づいている。
出所: Adaptation Gap Report 2024, UN environment programme,
https://www.unep.org/interactives/adaptation-gap-report/2024/
「適応者のジレンマ」への取り組み
会議でのプレゼンテーションで、ピクテ・アセット・マネジメントのシニア・クライアント・ポートフォリオ・マネージャーであるジェニファー・ボスカルディン=チン(Jennifer Boscardin-Ching)は、企業の意識向上がA&R実践への支出増加につながると予想していると説明しました。
A&R支出に関して信頼できるデータの収集は難しい課題です。特に報告方法や定義がまだ標準化されておらず、非常に初期段階にあるためです。しかしながら、入手可能な最新データや研究によると、これまで政府と消費者がA&Rに最も多くの資金を提供してきており、両者の拠出金額を合わせると企業の金額を大きく上回っていることは明らかです、とボスカルディン=チンは述べました3。
A&Rコンサルタント会社テイルウィンド(Tailwind)が実施した調査によると、異常気象による物理的損害のリスクを軽減する製品やサービスへの投資を具体的に報告している企業はわずか40%です。
90%以上の企業が気候変動をリスクとして認識していることを考えると、この行動の遅れはさらに不可解です。
「意識は最高レベルに達しているのに、意識と行動の間にはタイムラグがあります」とボスカルディン=チンは話します。「これは潜在的なジレンマやトレードオフが影響しているのかもしれません—早く行動すればするほど、不確実性は高まります。企業は知らないことに過剰な投資をしたくないので、様子見をする傾向があります。しかし、待てば待つほど、将来リスクにさらされる可能性は大きくなります。」
図表2:適応策のジレンマ
気候適応に向けた管理アプローチの例
出所: JP Morgan, Building Resilience Through Climate Adaptation, 2025
「しかし、私たちは転換点にいます。A&Rについて話すと、人々の目が輝き始めます。A&Rへの投資の必要性に対する意識がかつてないほど高まっているため、私は前向きです。」
ボスカルディン=チンは、企業や投資家がA&R投資の魅力的なリターンの可能性に気づき始めていると示唆しました。
世界資源研究所(WRI)の調査によると、適応策と強靭化に1米ドル投資するごとに、10年間で10米ドル以上の利益が生み出されます。これは潜在的リターンが1.4兆米ドルを超え、年間平均リターンが27%に相当することを意味します4。
重要なことに、これらは財務的なリターンだけにとどまりません。この報告書はまた、A&Rプロジェクトは通常、財務的リターンに加えて環境的・社会的リターンをもたらす「トリプル配当」を生み出すと説明しています。
WRIの調査によると、A&Rプロジェクトから得られる財務的リターンと非財務的リターンは同程度の規模であることが多いにもかかわらず、それらをまとめてドル数値に換算している投資評価は全体のわずか8%にすぎません。これは、ほとんどの評価がプロジェクトの真の価値を過小評価していることを意味します。
これは、ほとんどの適応策への投資の経済評価において、社会的収益率が大幅に過小評価されていることを示唆しています。
Photography © 2025 Magnus Arrevad
ピクテ・アセット・マネジメントのテーマ株式調査・サステナビリティ責任者であるスティーブ・フリードマン(Steve Freedman)は、公的資金、民間資金、慈善資金を単一の投資スキームにまとめるブレンデッド・ファイナンスのような資金調達構造が効果的であると付け加えました。「これにより複数の利害関係者が一堂に会します。どのグループも単独では投資をしようとしない場合でも、この方法ならA&Rプロジェクトへの資金調達が容易になります。」
歴史的に、A&R投資拡大の主な障害は、気候関連の災害による「経済的損失」を防ぐためにのみ価値があるという認識でした。こうした災害は予測が非常に難しく、大きな不確実性を伴います。
しかし、WRIの調査では、適応戦略による利益の50%以上が、気候関連の災害がなくても発生することが示されました。
ボスカルディン=チンは、多くの取り組みが緩和策と相乗効果をもたらすため、企業は気候災害が発生する前でもA&Rの恩恵を享受できると説明しました。
例えば、アリゾナ州のような乾燥地域にデータセンターを建設・運営するテクノロジー企業は、効率的な冷却技術、スマートな水管理・リサイクルシステム、大型太陽光パネルの設置、そして持続可能で環境に配慮したグリーンビルディングの採用を検討するかもしれません。
これらの対策は、干ばつや熱波のリスクを軽減し、異常気象時でも24時間体制の稼働を確保するだけでなく、排出量を削減、エネルギーと水を節約、地域の電力網や水システムへの負担を軽減し、さらに光熱費の削減につながるはずです。
「投資事例はあるのでしょうか?はい、A&Rへの投資はプラスのリターンを生み出すと言えます。これが顧客や投資家と話す際の最も説得力のある論拠です」とボスカルディン=チンは述べました。
「より広い投資家コミュニティに対して、『損失を避けるために投資している』というのは、非常に魅力に欠ける表現です。この主張をより明確にするには、物語を再構築する必要があります。それはつまり、将来に備えて事業を強化し、事業が継続していくようにするためのものです。」
適応の経済学
多くの環境・適応ソリューションが規模を拡大し繁栄するためには、ビジネスケースが機能する必要がありますが、それが常に当てはまるわけではありません。
ピクテ・オルタナティブ・アドバイザーズのプライベート・エクイティ部門プリンシパルであるニコラ・トーマス(Nicolas Thomas)は、会議出席者に、市場には革新的なA&Rソリューションや技術が数多く存在するが、すべてが商業的に成功するわけではないと語りました。
「夢を売ることはできますが、規模を拡大するためにはユニットエコノミクスが非常に重要です」とトーマスは言います。
彼はエネルギー市場向け経済シミュレーションソフトウェア提供会社であるエナジー・エグゼンプラー(Energy Exemplar : EE)のビジネスモデルを紹介しました。EEのソフトウェアは、高度なモデリング、シミュレーション、計画策定機能を通じて、再生可能エネルギーの電力網への統合と電力網の強靭性向上を支援します。その精密な予測は、24時間未満から最大50年先までの中長期的な将来の電力価格をモデル化することができます。
このようなサービスへの需要は増加しています。特に4月28日にスペインとポルトガル全土で発生した大規模な停電の後、都市は暗闇に包まれ、インターネットや電話回線が切断され、何千人もの人々が電車やエレベーターに閉じ込められ、10時間以上にわたってビジネスが混乱しました。この機能麻痺はスペインの送電網運営会社レッド・エレクトリカ・デ・エスパーニャ(Red Eléctrica de España)が適切な電源構成を算出できなかったことが原因とされ、そのため送電網は電圧の急上昇に対応でませんでした。
EEはすでに90カ国以上に600以上の堅固な顧客基盤を持ち、年間収益成長率は約30%を維持しています。
ボスカルディン=チンとトーマスが紹介した収益性の高いA&R企業のもう一つの例は、米国を拠点とする水関連部品および技術プロバイダーであるザイレム(Xylem)です。ザイレムが提供するサービスの一部は、洪水や雨水の管理、早期警報システム、水質汚染防止を提供することで、水の安全性と強靭性を高めています。
ザイレムは、A&R産業における投資機会がプライベート市場と公開市場の両方にまたがっていることを示しています。
プライベート市場の投資家は、拡大の可能性を持つ技術やソリューションへの資金提供から利益を得ることができます。上場後は、公開市場の投資家が魅力的なキャッシュフローと収益成長を生み出す企業から利益を得ることができます。
「適切なビジネスモデルと経済性を持って気候変動への適応という高まる需要に応えることができる企業は、魅力的な投資機会を提供すると同時に、都市をより強く、より強靭にする本当のチャンスを持っています」とフリードマンは述べました。
1. https://www.munichre.com/en/company/media-relations/media-information-and-corporate-news/media-information/2025/natural-disaster-figures-2024.html
2. https://www.un.org/en/climatechange/raising-ambition/climate-finance
3. Tailwind Climate, December 2024. Government estimates include public budget focused on adaptation in theworld’s largest economies and do not include regional or local governments.
4. https://www.wri.org/news/release-wri-study-finds-climate-adaptation-investments-yield-massive-returns
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