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- 日本の政治動向が債券投資に与える影響
政府支出の拡大を掲げる首相の選挙での勝利を受け、日本の財政状況が改めて注目を集めています。もっとも、ピクテのマクロ&マルチセクター債券 ヘッドのリンダ・ラッジ(Linda Raggi)は、日本の債務問題や、世界市場への悪影響の可能性に対する懸念は過度であると指摘しています。
日本国債の利回りが上昇している要因は何でしょうか。また、日本の借入コストが持続不可能な水準に達する可能性はあるのでしょうか。
足元の日本国債利回りの上昇は、高市早苗首相が衆議院解散・総選挙を前に食品にかかる消費税を2年間凍結する方針を示したことを背景に生じたものです。これにより、日本の財政健全性に対する懸念が一段と強まりました。高市首相と自民党が強力な政権運営に向けた信任を得たことで、こうした懸念は今後も継続する可能性があります。
債券市場はすでに、政府支出拡大を志向することで知られる高市首相のリフレ政策の見通しに対して、敏感に反応しています。
その結果、日本の債務返済コスト上昇の可能性に市場の関心が集まっています。これは、国債管理政策により長期国債の発行を縮小せざるを得なかった、不調な国債入札の結果にも表れています。
しかし、当社ではいくつかの理由から、こうした懸念は行き過ぎであると考えています。
第一に、日本の財政赤字は縮小傾向にあります。現在の対GDP比0.5%という健全な水準は、先進国平均である約3%を大きく下回っています。
第二に、インフレの定着により税収が増加し、それが名目GDP成長率を押し上げています。
その結果、日本の政府債務残高の対GDP比は、パンデミック期のピークであった約260%から、足元では約226%へと低下しています1。
重要なのは、日本国債の投資家基盤の大半が国内投資家で構成されている点です。日本銀行が約50%を保有し、残りの多くを、銀行、生命保険・損害保険会社、年金基金などの国内民間主体が保有しており、これが資金調達環境の安定に寄与しています。
第三に、日本の公的債務のストック構造から、債務返済コストの上昇ペースは極めて緩やかであると見込まれます。内閣府は、公的債務の利払い費が現在の対GDP比1.5%未満から2028年までに2%程度へ上昇すると予想しています。この非常に緩やかな増加は、既存債務の加重平均金利が0.8%である一方、平均残存期間が9.5年以上と長期にわたることを反映したものです。
これらを総合した債務持続可能性のスコアカードにおいて、日本はスイスやデンマークと並び、最も持続可能性が高いグループに分類される上位4分の1に位置づけられています。
もっとも、新政権の追加的な支出余地は、市場環境次第では想定以上に制約を受ける可能性があります。とりわけ、主要な日本国債保有者である保険会社からは警戒感が示されています。利回りの急上昇により、資産と負債のデュレーション(金利感応度)のミスマッチが拡大し、保有国債の売却を余儀なくされているためです。債券利回りは総じてピーク圏に近づいていると見ていますが、投資家は日本が直面する残存リスクを軽視すべきではないでしょう。
図表: 日本国債利回りが全期間で歴史的高水準に
出所: LSEG, CEIC,
期間 2000年1月1日~.2026年1月1日
日本国債の利回り昇は、米国やユーロ圏など各国の国債市場にどのような影響を与え得るのでしょうか。また、外国債券を保有する日本の投資家は、利回りが上昇している国内証券へ資金を振り向ける動きを強めるのでしょうか。
日本の動向は、世界的に公的債務水準が高止まりするなかで、財政政策の変更が市場パニックを引き起こし得ることを改めて想起させました。これは、リズ・トラス首相が財源の裏付けのない減税を発表した後に英国国債市場で見られた状況と同様です。
日本国債の利回りの急騰は、日本の投資家にとって海外投資の相対的な魅力を低下させました。
一方で、この利回り上昇により、日本の投資家が海外に保有する資産を本国に還流させる動きが強まると指摘するアナリストもいますが、当社としては、急激な変化は想定していません。
日本の投資家は一般的に、日本の実質金利が何十年にもわたって超低水準で維持されてきたことを十分認識しており、そのため、重大な市場ショックがない限り保有資産を大きく組み替える可能性は低いと考えられます。むしろ、日本の投資家が海外資産の分散投資を継続的に追求するなかで、米ドル建て債券から欧州債券へのローテーションが続くと見込んでいます。
もっとも、大規模な資金還流を引き起こし得る要因としては、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など日本の大規模公的機関の動向が挙げられます。市場のボラティリティが落ち着けば、GPIFが海外資産の比率を引き下げ、国内資産への配分を高める可能性があり、その場合には、この動きに追随する投資家が現れることも想定されます。
低利回りの円建て資金を借り入れ、高利回り資産への投資原資とする戦略である円キャリー・トレードが終焉を迎える可能性も指摘されています。仮にそうなれば、これは世界の債券市場にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
多くの大規模なマクロ経済の不均衡と同様に、日本の投資家の行動が変化し、資金還流が強まれば、世界中の債券、株式、通貨の価格に下押し圧力がかかる可能性があります。最初の影響は為替市場に表れ、国内投資家が米ドルやユーロ建て資産を売却することで、日本円が上昇することが想定されます。
もっとも、金利差そのものは今後もキャリー・トレードへの需要を促す要因であり続けるでしょう。円と他通貨との間に金利差が残存する限り、日本円による調達はかつてほど収益性が高くないとしても、資金調達通貨としての役割を当面維持すると考えられます。
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