- Article Title
- 新興国における水分野のイノベーターたち:ストレスをソリューションへ
新興国は世界の水ストレスの最前線に立つと同時に、革新的なソリューションが生まれる最先端の地域でもあります。
ジェッダから南へ車で1時間ほど、サウジアラビアの砂漠地帯を抜けると、無数のコンクリート建造物や白い円形の貯蔵タンク群、そして紅海の青緑色の海へ数百メートルにわたり伸びるパイプラインが連なる巨大な工業施設が現れます。
この地域に詳しくない人には、単なる石油精製所のように見えるかもしれません。しかし、この巨大施設内には世界最先端の海水淡水化プラントが併設されており、高効率の太陽光発電を活用して、毎日60万立方メートルの海水を飲料水へと変換しています。これはジェッダとその周辺地域の淡水需要の最大40%を賄うのに十分な量です。
リヤドに本社を置くACWA Powerが所有するこのラビグ(Rabigh)3複合施設の特徴は、ほぼ100%持続可能な技術を採用している点にあります。石油を燃料とする蒸発法による熱処理ではなく、逆浸透(RO)方式を用い、高圧で海水を微細な膜に通過させることで、従来の淡水化方法と比べてエネルギー使用量を80%削減しています。
さらに、今年後半に稼働予定のラビグ4は、日中は太陽光発電で稼働し、夜間のみ電力網から電力を調達する計画です。世界最大級の専用太陽光発電施設によって電力消費量を約45%削減し、生産される水1リットルあたりの炭素強度を低減します。
ACWA Powerはサウジアラビア国内にとどまらず、中東、アフリカ、中央および東南アジアの少なくとも14カ国で淡水化プラントを開発・運営しています。同社は、現在は約3分の2の海水淡水化プラントで採用しているRO技術を、将来的にはすべてのプラントに導入することを目指しています。主要プロジェクトの一つであるアブダビのタウィーラ・プラントは、これまでの最大規模のプラントを40%以上上回る規模を有し、1日あたり約100万立方メートルの水を生産する見込みです1。
民間資本の活用
もっとも、ACWA Powerの目覚ましい業績は、決して孤立した成功例ではありません。ACWA Powerは、新興国を拠点とする世界有数の水関連技術企業が増加する中の一社に過ぎません。
新興国において、水道サービスは伝統的に地方自治体の責務とされてきました。しかし、自治体の財政が逼迫する中、新規接続やネットワーク拡張、インフラ整備に必要となる巨額の資本投資は、現地企業を中心とする民間セクターにとって、水道インフラの資金調達、建設、運営に専門知識と技術を活用する魅力的なビジネス機会となっています。
中東で進んでいるこうした動きは、ラテンアメリカでも同様に見られます。ラテンアメリカでは、官民連携(PPP)による水道サービスを利用する人口比率が、現在の30%から2030年には35%へと上昇する見込みであり、これは世界平均を上回る水準となります(図表参照)。
図表:官民連携(PPP)または自治体によるサービス提供対象人口(推定)
出所:Envisager, 2022
ブラジルのサンパウロ州基礎衛生公社(Sabesp)は、すでに世界最大級の上下水道・廃棄物処理業事業者であり、このトレンドの恩恵を受けている企業のひとつです。
現在、Sabesp はブラジル人口の約15%にサービスを提供しています。同社は今後数年間で設備投資を拡大し、テクノロジーを活用した業務効率の向上を図ることで、全国規模へのサービス展開を目指しており、これが収益成長を後押しすると見込まれます。
Sabespはまた、サンパウロ沖のイリャベラ島にRO技術に基づく先駆的な淡水化プラントを建設しています2。
このプラントは、太陽光発電を組み込み、今年後半の稼働開始後には約8,000人分の飲料水を供給できるよう設計されています。これは、ブラジルの他の沿岸都市だけでなく、水資源に課題を抱える他国にとっても、環境イノベーションのモデルとなるでしょう。
チップスとPFAS
アジアの新興国も、水関連技術が急速に発展している地域のひとつです。欧州特許庁のデータによると、中国と韓国はこの分野の国際特許ファミリーの世界シェアの約5%を占めており、インドも高度な専門性を示しています3。
分析によれば、直近5年間において中国の特許出願者による貢献は、すべての水関連技術分野で増加しており、特に水処理と水害対策分野で顕著です。この傾向は中国が推進する広範な環境政策課題や、水質汚染・水不足といった、問題への取り組みと軌を一つにしています。
深圳証券取引所上場のCRRCグループ傘下、Vontron Technologyは、RO水処理分野における主要な膜メーカーです。同社は水の浄化と処理を専門とし、溶解塩、不純物、汚染物質を水から除去する高品質RO膜を主力製品としています。この技術は工業プロセスで広く使用されており、半導体製造など、不純物を含まない「超純水」を大量に必要とする分野でも活用されています。業界推計によれば、1つの半導体チップの製造には最大30リットルの超純水が必要とされています。Vontronの膜製品は、世界130カ国以上の顧客に供給されています。
中国でこのように先進的な水浄化技術への需要が高まる理由は他にもあります。近年、中国は水質汚染対策として規制を強化し、永久化学物質として知られる特定のPFAS(有機フッ素化合物)を、より厳格な環境管理の対象としています。7月には四川省が、中国で初めて廃水中の特定PFASの排出制限を導入しました。これは、PFAS除去規制の強化において先行していた米国や欧州に続く動きです。
水ストレスは至る所に
水ストレスは新興国だけの課題ではありません。異常気象や降雨パターンの変化により干ばつが頻発、激化している先進国でもインテリジェントな水ソリューションへの需要が高まっています。最近の研究によると、世界の100大都市の半数が水資源に対する高いプレッシャーに晒されており、北京、ニューヨーク、ロサンゼルス、リオデジャネイロ、デリーなどは極度のストレス下にあります。また、ロンドン、バンコク、ジャカルタは高度なストレス状態に分類されています4。
投資家にとって、これは重要な意味を持ちます。水資源の保全は、今や責任ある投資の中核的要素となっています。環境・持続可能性の目標を追求するにあたって、こうしたリスクに取り組む企業を無視することはできません。そして、その多くは新興国に存在します。水分野におけるクオリティの高い企業へ資本を配分することで、気候変動、急速な人口増加、PFASなど汚染物質への懸念により深刻化する水不足に直面する何十億もの人々に対し、長期的な成長と具体的な社会的インパクトの双方をもたらす可能性があります。
サウジアラビアやブラジル、中国に至るまで、新興国は高まる水ストレスに対する革新的なソリューションを先導しており、長期投資家に対して、構造的な成長機会、新たな収益源、そして現実世界への影響力を活用する道筋を提供しています。
[1]https://acwapower.com/en/what-we-do/projects/taweelah-ro-desalination-iwp/
[2]https://www.ilhabela.sp.gov.br/portal/noticias/0/3/13679/prefeitura-de-ilhabela-e-sabesp-unem-esforcos-para-implantar-a-primeira
[3]これは顕在化技術優位性指数(RTA)によって測定される。RTAは、ある国の水関連イノベーションにおける専門性を、その国全体のイノベーション能力と比較して示す指標である。具体的には、特定技術分野における国際特許ファミリー(IPF)の当該国シェアを、全技術分野におけるIPFの当該国シェアで除した値で定義される。RTAが1を超える場合、その国が特定技術分野で専門性を有していることを示す。イスラエルのRTA指数は3.1であるのに対し、インドは1.9であり、EU、米国、日本を上回っている。
[4]https://www.theguardian.com/environment/2026/jan/22/half-world-100-largest-cities-in-high-water-stress-areas-analysis-finds
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
手数料およびリスクについてはこちら
個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。