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イラン戦争とエネルギー危機:クリーンエネルギー投資の新たな潮流
2026/04/03

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概要

地政学的ショックが化石燃料のリスクを露呈させています。再生可能エネルギーがその穴を埋め、送電網や強靭な電力システムへの投資を促しています。



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イラン戦争と中東全域で高まる緊張は、世界のエネルギー市場を混乱させています。世界の石油供給量の約20%が通過するホルムズ海峡の封鎖や、湾岸地域の製油所・処理施設への攻撃を受け、石油・ガス価格は急騰しています。

多くの政府や企業にとって、こうした事態は2022年のロシアによるウクライナ侵攻後のショックを想起させます。安定的で手頃な価格のエネルギー供給の確保が再び最優先事項となり、脆弱な化石燃料の供給ルートからの脱却と、長期的なエネルギー戦略の見直しが急務となっています。

この差し迫った危機の先には、2022年以降、投資家にとって重要な、より根本的な構造的変化が生じています。再生可能エネルギーのコストは大幅に低下しました。均等化発電原価(Levelised Cost of Electricity : LCOE)の基準では、現在、新規の風力・太陽光発電プロジェクトは、ガス、石炭、原子力発電所よりも一般的に安価になっています(図1)。


図1:均等化発電原価(LCOE):再生可能エネルギーが最も安価

過去の平均LCOE値*

* 各年における各技術のLCOE(均等化発電原価)の上限値と下限値の平均値を反映しています。
** 新規原子力発電プロジェクトに関する公開データや観測可能なデータは限られているため、本稿で提示するLCOEは、インフレ調整を施し、当時のボーグル発電所の推定コストに基づいて算出した、Lazard’s LCOE v14.0(2020年)の結果を反映したものです。

出所: Lazard

さらに、こうしたクリーンエネルギーを市場に投入するまでの期間も大幅に短縮されています。大規模な太陽光発電所であれば、建設に要する期間が12ヵ月未満で済む場合もあり、完成までに何年も要する原子力や化石燃料発電所と比べて大幅に短くなっています(図2)。


図2:再生可能エネルギーの見通しは明るい

* 負荷率は、特定の期間における平均負荷(電力消費量)とピーク(最大)負荷の比率を指します。これは電力の利用効率を測る指標であり、負荷率が高い場合は安定した効率的な利用を示し、低い場合は需要が間欠的であることを示します。ここでの推定値は米国市場に基づいています。
出所: Pictet Asset Management, 2025. NextEra 2025 Fourth Quarter and Full-Year 2025 Earnings Presentation.

もちろん、再生可能エネルギーには依然として欠点があります。間欠的な電源であり、太陽が照り、風が吹いている時にしか発電できません。つまり長期的に見ると、設備容量に比べた平均出力は大きく抑えられ、一日の大半を安定して稼働できる従来型発電所と比べて稼働率が低くなります。

しかし、技術革新によって状況が変わりつつあります。

バッテリーやその他の蓄電技術の進歩により、再生可能エネルギーはこの効率ギャップを縮めつつあります。電力システムへの統合がより円滑になり、需要と供給を調整する能力も高まっています。

これは、クリーンエネルギーが抱える「エネルギー・トリレンマ」-手頃さ(アクセスしやすい価格)、安全性(信頼できる供給)、持続可能性(気候変動の影響回避)という3つの相反する課題―のバランスを取る上での転換点となっています。

これまで、化石燃料も再生可能エネルギーも、この問題に十分に対処できていませんでした。

化石燃料は、従来は比較的安価で輸送・貯蔵も容易でしたが、その利用は気候変動を助長します。

一方で再生可能エネルギーはクリーンであるものの、コストが高く補助金に依存し、かつ発電量が不安定であるため、十分な信頼性に欠けていました。

今日、その状況は大きく変化しています。化石燃料価格は変動が激しく、見通しも立てにくくなっています。イラン戦争は、エネルギー輸入国が地政学的に不安定な地域に位置する限られた産油・産ガス国に依存している場合に直面する、根源的な安全保障リスクを改めて浮き彫りにしました。

一方で、蓄電技術や送電網の柔軟性の向上により、再生可能エネルギーの供給安定性は高まっています。これにより再生可能エネルギーは、エネルギー・トリレンマのあらゆる側面に応え得る独自の立場を獲得し、最終的には化石燃料に代わる標準的なエネルギー選択肢となる可能性があります。さらに、太陽光や風力発電の多くは国内で発電されるため、時間をかけて輸入化石燃料を国産電力へと置き換えていくことができます。

例えば、欧州の電力システムは、2022年以降に輸入ガス依存度を低減し、風力・太陽光の導入を拡大してきた結果、今回の新たなエネルギーショックに直面しても高い回復力を維持しています。欧州では、風力と太陽光による発電量が初めて化石燃料による発電量を上回りました。水力発電を加えると、再生可能エネルギーは電源構成の約50%を占めています。

送電網なくしてエネルギー移行なし

こうした動向は、クリーンエネルギー分野の投資家にとって極めて重要な意味を持ちます。

太陽光パネルや風力タービンそのものへの投資にとどまらず、電化された経済を下支えする電力システムの基盤に資金を振り向けることは、クリーンエネルギー移行に参画する上で、ますます魅力的な手段となりつつあります。

ここには、送電網やネットワークインフラの運営企業、電気部品メーカー、冷暖房システム企業、持続可能な建築資材メーカーなどへの投資が含まれます。いずれも、長期的な構造的成長が最も顕著に見込まれる野です。

例えば、発電事業者から消費者へエネルギーを届ける送電網は、確立されたビジネスモデルに基づいて運営される有形のインフラ資産への投資機会を提供します。

送電網は、発電所、送電線、変圧器、開閉装置、遮断器などの配電設備で構成される複雑なネットワークです。

中でも緊急の大規模改修を迫られているネットワークの一つが欧州です。これは、36カ国にまたがる世界最大級のシステムの一つですが、長年の投資不足により、現代の経済を支えられる水準には達していません。

送電網の約40%は設置から40年以上が経過しており、送電線の一般的な耐用年数の終わりに近づいています。老朽化した送電網や相互接続装置は、電力損失を増大させるだけでなく、新規再生可能エネルギー電源の接続拡大を阻むことで停電リスクを高めており、クリーンエネルギー移行における典型的なボトルネックとなっています。

欧州委員会(EU)は、2023年から2030年の間に電力需要が60%増加すると見込まれるなかで、この需要に対応するためには5,800億ユーロ超の投資が必要になると試算しています1

イラン戦争が勃発する以前から、アマゾン(Amazon)、グーグル(Google)、マイクロソフト(Microsoft)などの大手テクノロジー企業は、送電網の混雑や接続速度の遅れが脱炭素化と産業競争力を脅かしているとして、EUに対し電化の加速と欧州の電力インフラ改善を求めてきました2

注目すべきは、こうした課題が欧州特有のものではない点です。米国のインフラも同様に老朽化が進んでおり、EVの普及、デジタル化、再工業化が進むなかで、米国の送電網もまた現代社会の要請に十分応えられていません。

公益事業会社は、進行中の送電網の大規模改修から恩恵を受け得る、投資家にとって魅力的な投資対象になっています。

これは、公益事業会社がこの緊急課題に対応するため、資本をネットワーク事業へと再配分しているためです。こうした動きは、同社の長期的な収益成長を支えることを目的とした、数年にわたる投資サイクルの始まりとなる可能性があります。例えば、スペインのイベルドローラ(Iberdrola)は、設備投資の3分の2をネットワークのアップグレードに充てる計画であり、この投資を「100年に一度の好機」と表現しています。

エネルギーインフラの基盤部品を供給する電気機器メーカーも、この優先順位の転換の恩恵を受けると考えられます。

これらの企業はすでに、送電網を強化・拡張するために必要な変圧器、開閉装置、ケーブルなどに対する構造的な需要増を実感しています。例えば、アイルランドに本社を置く部品メーカーのイートン(Eaton)は、2020年以降、受注残が5倍に増加しており、今後数年にわたり堅調な収益基盤を有していることを示しています。

建物のエネルギー効率の向上

エネルギーコスト高騰への対応として、企業はエネルギー効率の向上にも投資を進めています。これは理にかなった動きです。地域によっては、冷暖房が家庭のエネルギー消費の最大80%を占め、商業ビルでも運営コストの大部分を占めているからです。

エネルギー効率に優れた暖房・換気・空調(HVAC)ソリューションを提供する企業は、クリーンエネルギー投資家にとって、もう一つの有望な投資先となっています。

エネルギー価格が高止まりし、変動も激しい環境下では、エネルギー効率化投資の回収期間が短縮されつつある点は明るい材料と言えます。これは、ニューヨークで最大級の商業ビルである「55ウォーターストリート(55 Water Street)」で最近実施された改修プロジェクトによって実証されています。このプロジェクトを主導したトレイン・テクノロジーズ(Trane Technologies)は、従来の暖房方式に比べて3倍の効率を持つ先進的な熱供給システムを導入しました。その結果、ビル全体のエネルギー消費量は約5分の1削減され、温室効果ガス排出量も抑制され、ビル管理者は年間150万米ドルの光熱費を節約できました3

一方、軽量で持続可能な素材を提供する企業は、再工業化やインフラ整備の波から恩恵を受けると見込まれます。米国だけでも、製造業の国内回帰、データセンターやAIコンピューティング能力の拡大、物理的インフラ強化を目的とした数兆米ドル規模のメガプロジェクトが各社から相次いで発表されています。

イラン戦争が化石燃料への依存がもたらす安全保障上のリスクを露呈させ、再生可能エネルギーの導入コストが低下し、導入までの期間も短縮されるなかで、エネルギー・トリレンマのバランスは変化しつつあります。クリーンエネルギーは今や、低コストで安定性を提供し、政府、企業、投資家にとって明確な選択肢となっています。こうした状況から、現在の危機は、クリーンエネルギーへの新たな投資の波を呼び起こす可能性があります。


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