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- 創薬におけるAI(人工知能)革命
ジェネレート・バイオメディシンス(Generate: Biomedicines)社のマイケル・ナリー(Michael Nally)氏は、機械学習(ML)が新たな治療法を導き出すと語っています。
安定した仕事を辞めてスタートアップに参加するには、何が必要でしょうか。ジェネレート・バイオメディシンス(Generate: Biomedicines)社の最高経営責任者であるマイケル・ナリー(Michael Nally)氏にとって、それはノーベル賞受賞者との出会いでした。
その出会いの相手は、酵素の「指向性進化」を初めて実現し、化学反応のための、より意図的で標的を絞った触媒を創出した功績により、2018年にノーベル化学賞を受賞したフランシス・アーノルド(Frances Arnold)氏でした。
「マイク、自然は地球上のすべての海に存在する潜在的なタンパク質の、ほんの一滴しか調べていないのです」とアーノルド氏はナリー氏に語りました。「そして今、あなたはその海を探索できる技術を手にしているのです。」
当時、この技術は一般的に機械学習(ML)と呼ばれていましたが、現在では生成AI(Generative AI)へと進化しています。アーノルド氏の主張は、このような膨大な計算能力を、DNA配列とタンパク質機能の関連付に応用できるというものでした。タンパク質は生命を形づくる分子の連なりですが、それらが形成するあらゆる鎖の生物学的機能は、いまだ完全には解明されていません。従来、タンパク質の研究は非常に労働集約的な研究に依存しており、こうした関係性に関する知見を新たな治療法へと結び付けることを目指してきました。
ナリー氏はその可能性を見抜き、7万2,000人の従業員を抱える大手多国籍製薬企業での管理職を離れ、2021年に、当時ボストン近郊に拠点を置く30人規模のスタートアップだったジェネレート・バイオメディシンス社に参加することを決断しました。
「多くの人は、私が正気ではないと思ったことでしょう」と彼は振り返ります。「しかしバイオ医薬品業界全体のエコシステムを見渡したとき、業界は本質的に2つの大きな課題に直面していました。1つは研究の生産性が40年連続で低下し続けていたこと、もう1つは、医薬品の価格設定のために十分なアクセスが確保できず、最終的に業界の評判が損なわれていたことです。これらの課題に対処するためには、最終的に研究の生産性における革命が必要だと考えていました。」
創薬:理論から現実へ
これはもはや単なる理論ではありません。同社はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対するモノクローナル抗体(特定の細菌やウイルスを標的にできる人工タンパク質)を特定し、すでに第I相臨床試験を実施しています。また、軽度から中等度の喘息治療を目的とした別のモノクローナル抗体に関する研究においても、初の患者投与を完了しています。
「この技術は、医薬品の創薬プロセスを一変させるでしょう」とナリー氏は語ります。「さまざまな疾患領域において、人間の限界を超える成果をもたらすことになるでしょう。最も胸が高鳴るのは、理論が現実へとつながる影響を実際に目の当たりにできることです。初期の第I相臨床試験の結果は驚くべきものでした。この技術は、人類が直面する最も深刻な疾患のいくつかに対して、多くの解決策をもたらしてくれるでしょう。」
さらに多くの成果が期待されています。たとえば、同社のAIプラットフォームは、従来は薬剤の開発が困難、あるいは不可能とされてきた標的(薬物が作用して効果を発揮する体内の生体構造)に対しても、高い精度でアプローチするために、テンプレートを用いることなく、計算能力のみで分子を完全に生成することができます。この「デノボ(de novo)」抗体の生成と検証のプロセスは、現在9つの異なる標的に対して実証されています。
Chromaと人材獲得
ジェネレート・バイオメディシンス社の研究において興味深い点の一つは、同社が昨年、生成AIモデル「Chroma」の詳細を科学誌「ネイチャー(Nature)」に発表したことです。また、Chromaの基盤となるコードをオープンソースソフトウェアとして公開しました。ナリー氏は、特許が長年重視されてきたライフサイエンス企業において、これは直感に反する決断だったと認めています。
「私たちが直面していた大きな課題の1つは、非常に優秀で希少な人材から選ばれる存在になるにはどうすればよいか、ということでした」と彼は説明します。「最善の方法は、最先端の技術を積極的に取り入れていることを明確に示すことだと考えました」。ナリー氏によると、同社がChromaに関する論文を発表した後、翌年の夏には機械学習分野のインターンシップ枠を5名分設けたといいます。
「その募集枠には2,000件の応募がありました。私たちが持つ技術力や、集まってくる人材が世界でもトップクラスであることを、誰もが実際に確認できたのです。」
「彼らは、学び成長するために、まさにこうした人たちの近くにいたいと考えていたのです。資金力だけを競い合う軍拡競争では、巨大テック企業に対して優秀な人材を獲得することはできません。私たちにできるのは、人々に明確な目的意識を提供することです。自分の仕事が単にウェブサイトのアクセス数を増やすためではなく、実際にがんの解決や治療につながるという事実こそが、特定のタイプの科学者を当社のような企業へと惹きつけるのです。」
こうした次世代の科学者たちを惹きつけ、受け入れ、育成することで、研究はさらに高いレベルへと押し上げることができるでしょう。「私が入社した当時、タンパク質工学と機械学習の融合分野に精通した人材は、世界中で90人しかいませんでした」とナリー氏は語ります。「これまでは、こうした異なる分野ごとに人材を育成してきました。しかし、分野の壁を打ち破り、『本当に素晴らしいことが起こるのは、これらの分野が交わる地点なのだ』と声を上げることはしてきませんでした。」
このような人間の知能とAIの将来的な融合は、AIによって実現可能となるスケールの大きさを考えると、非常に魅力的です。
ナリー氏は、ジェネレート・バイオメディシンス社が設立された当初、同社が実施できる最大規模の実験でも、1つの標的につき約100件のデータポイントを扱うのが限界だったと述べています。「現在、私たちは個々標的に対して100万の定義済みバリアントを含むデータセットを、日常的に扱っています。それらを従来の時間の約4分の1で行うことができます」と彼は話します。
楽観的な見方がある一方で、すべての疾患を「現象として」完全に治すことを語るのは、もちろん時期尚早です。
「生物学を完全に計算だけで解明できる、と言う人の話を聞くたびに、私は少し苦笑してしまいます」とナリー氏は言います。「私たちが本当に必要とする答えを得るためのデータは、まだ全く足りていません。」しかし、ここまでの急速な進歩を踏まえれば、将来に対して少し夢を描いてみる価値はあるでしょう。
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