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AI(人工知能)の真価が発揮される領域~歴史が示す技術の転換点と生産性革命
2026/03/04

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概要

ピクテ・アセット・マネジメントのセマティック・アドバイザリー・ボードのメンバーであるカール・フレイ(Carl Frery)は、AI(人工知能)が世界経済をどのように変革するのかを理解するため、過去の事例に目を向けています。



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AI(人工知能)が雇用を奪うという懸念が高まるたびに、「AIは単なる生産性向上のためのツールにすぎない」という言葉が安心材料として語られます。メールをより速く作成し、文書を要約し、コーディングを迅速化してくれるだけで、恐れる必要はない、私たちがすでに行っていることを加速するだけだと説明されるのです。

しかし、このような見方は、これまでの主要技術が経済をどのように変えてきたのかという、本質的なポイントを見落としています。重要なのは、既存技術が新たに強力な応用分野を獲得したときに何が起こるかという視点です。蒸気機関が重要になったのは、単により優れたエンジンが発明されたからではなく、そのエンジンが鉄道や船舶に搭載されたときでした。電気が世界を一変させたのも、石油ランプを置き換えたからではなく、工場の配線を刷新し、家庭に新しい家電製品を普及させたときです。同様に、内燃機関が経済に大きな影響力を持つようになったのは、自動車、トラック、航空機の原動力となったときでした。

AIが生産性にどのような影響をもたらすのかを理解したいのであれば、その潜在能力そのものよりも、具体的にどの分野で、どのような形で活用されるのかに注目する必要があります。後述するように、朗報なのは、AIにはこれまで生産性が停滞していた分野において、飛躍的な向上をもたらす可能性が秘められているという点です。

蒸気からコンピュータへ

蒸気機関を例に取りましょう。18世紀初頭の蒸気機関は非常に巧妙な装置ではあったものの、その用途は限られており、主に炭鉱から水を汲み上げるために使われていました。馬やバケツよりは格段に優れていたものの、経済全体への影響はごくわずかでした。工場は依然として水車で動き、家庭の暮らしもほとんど変わらなかったのです。もし蒸気機関の利用が炭鉱内にとどまっていたなら、歴史書の片隅に登場する程度で、変革をもたらす存在にはならなかったでしょう。生産性が急上昇したのは、蒸気機関が車輪やレールに載せられたときでした。鉄道は移動時間と輸送コストを大幅に削減し、貿易ルートや労働市場を再構築し、さらには時間の標準化さえ促しました。つまり、蒸気機関が地下の固定ポンプから、地上を走るネットワーク型の輸送システムへと用途を広げたとき、その経済的インパクトは一変したのです。

電気も同じような道筋をたどりました。20世紀初頭、電気は主に既存の手段を置き換える目的で使われていました。つまり、蒸気機関を電気モーターに、ガス灯を電球に交換し、それまでと同じやり方を続けていたのです。もちろん、それ自体も一定の効果はありました。モーターはより柔軟に使え、電球はより安全で清潔でした。しかし、当初の電気はあくまで有用な段階的改良にとどまり、革命的な技術とは見なされていませんでした。真の変革は、電力が生産、都市、家庭を再編成する新たな用途を獲得したときに訪れました。工場では、単一の巨大エンジンの代わりに、小型で分散したモーターを中心に再設計することで、新しいレイアウトと一層の生産性向上が可能になりました。路面電車や地下鉄は電気を都市の移動手段へと変え、通勤可能な距離を伸ばし、都市構造そのものを変化させました。家庭では、安定した電力供給により、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、アイロン、ラジオ、テレビなどが普及しました。これらはいずれも同じ技術の応用例にすぎませんが、その組み合わせが日常生活を大きく変え、広大な新市場を切り開いたのです。

内燃機関も同様の好例です。それ自体は燃料を運動エネルギーに変えるだけの機械にすぎません。有用ではあっても、それだけでは変革的とは言えません。しかし、その真の経済的インパクトは、応用分野の広がりをたどることで明らかになります。最初に自動車を動かした内燃機関は、単に馬車を置き換えただけではなく、人々の居住地や職場を再構築し、郊外の発展を促進し、道路沿いの小売業や新たな通勤形態を生み出しました。同じエンジンはトラックにも搭載され、長距離貨物輸送やジャスト・イン・タイム生産を可能にしました。さらに、そのエンジンは空へと向かい、航空旅行を特別な旅から日常的な移動へと変え、19世紀の観察者には想像もできなかった規模で観光産業を拡大させました。

コンピュータとインターネットも、より短い時間軸で同じ物語を繰り返しています。長い間、コンピュータはバックオフィスに置かれ、給与計算や在庫管理を処理する存在でした。それらは確かに役立つツールでしたが、主な役割は既存プロセスの効率化にとどまっていました。1990年代後半から2000年代初頭にかけて生産性が劇的に向上したのは、コンピュータが新たな形で応用されたときです。オフィスにおけるネットワーク接続されたPCに加え、電子商取引サイト、デジタルマーケットプレイス、検索エンジン、さらにはスマートフォンやアプリストアの登場が、それを象徴しています。



AIはどのような位置づけになるのか?

現在、AIの多くは既存のワークフローの中で、強力なアシスタントとして馴染みやすい形で活用されています。メールの下書き作成、マーケティング文案の校正、コード作成、長文の要約、顧客からの問い合わせ対応などを支援しているのです。これらはいずれも価値ある活用例です。初期のAI活用亊例では、特に定型的なテキスト中心のタスクにおいて、大幅な時間短縮が確認されています。従業員は受信トレイの処理が速くなったと感じており、若手社員はより質の高い初稿を作成できるようになり、サポート担当者は1時間あたりに対応できる問い合わせを件数が増えています。

仮にAIの進化がこの段階でいったん頭打ちになったとしても、その意義は小さくありません。初期の電化やコンピュータ導入に明確な利点があったように、生産性向上ツールとしての今回のAIの波にも明確な利点があるからです。しかし歴史が示しているのは、真の経済的な利益は、長年にわたり生産性向上が難しかった分野に技術が応用されたときに、初めて本格的に生まれる、という点です。

サービス産業について考えてみましょう。何十年もの間、経済学者たちはウィリアム・ボーモル(William Baumol)が「コスト病」と呼んだサービス業の課題を懸念してきました。介護、清掃、接客、小売、物流といった多くのサービス業は自動化が難しく、生産性の伸びも鈍いものでした。教師はいまも教室の前に立ち、ウェイターはいまでもテーブルに皿を運び、介護職は利用者の寝起きを手助けしています。こうした仕事はいずれも不可欠ですが、非常に労働集約的です。その結果として、現代経済の大部分が生産性成長の低い状態のまま停滞してきました。

AIはこの状況を変える可能性を秘めています。それは単に知識労働を自動化できるからというだけでなく、AIをセンサーやアクチュエーター、モバイルハードウェアと組み合わせた、より具体的な応用技術、つまり、ロボットという形で具現化され得るからです。

何十年もの間、ロボットは主に工場で利用され、車体の溶接や電子機器の組み立てといった作業を、綿密に設計された生産ライン上で担ってきました。こうした環境は制御可能で予測もしやすく、従来型の産業用ロボットに適していました。しかし、そうした用途は経済全体のごく一部にすぎません。近年のAIの進歩によって実現しつつあるのは、まったく異なるタイプのロボットです。雑然とした空間を移動し、物体を認識し、自然言語による指示を理解し、変化する状況に適応し、人間と連携できるロボットです。

こうしたロボットがスーパーマーケット、倉庫、病院、ホテル、そして家庭にまで普及するにつれて、AIによる生産性向上効果は、さらに加速していくと考えられます。ショッピングセンターや空港で、人と安全に共存しながら稼働する清掃ロボットは、AIの新たな応用例の一つです。棚への商品の補充、固定レールに頼らない倉庫内での商品移動、介護職員に代わる肉体的に負担の大きい作業の支援といった業務を担えるロボットも同様です。自動走行車や半自動走行車両、配送・点検用のドローン、さらにそれらの機械群を統括するAIシステムを加えると、この技術がサービス経済の中核、これまで生産性が低迷してきた領域にまで深く浸透し得ることが見えてきます。


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