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インドは電子機器革命の入り口に立っている
2025/11/07

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概要

インドで急成長する電子機器産業は、新興国株式の投資家にとって魅力的な機会を提供しています。私たちは、その最も成長著しい工場を訪れ、詳しく調査しました。

ー ピクテ・アセット・マネジメント、新興国株式チーム、シニア・インベストメント・マネージャー
  チー・ホ・ワン(Chi Ho Wong)



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インドは電子機器革命の入り口に立っています。携帯電話、コンピュータ、家電製品などの製造拠点が急速に拡大しており、新興国株式の投資家にとって魅力的な機会が生まれています。インド国内の工場を視察する中で、私はその進展と、最終的にインドが世界の電子機器市場で中国と肩を並べるようになる可能性を示す証拠を目の当たりにしました。

この急成長には複数の理由があります。人口増加と富の拡大により、電子機器への強い需要が生まれています。同時に家電製品はさらに高度化し、より多くのハイテク部品が必要になっています。

インド政府も支援的です。例えば「デジタル・インディア」計画は、電子機器の使用と製造の両方の成長を促進し、大衆に技術をもたらすことを目指しています。また、生産連動型インセンティブ(PLI)制度は、国内製造業を強化するための財政的インセンティブを提供しています。労働力の利用可能性やコストなどの産業環境も非常に競争力があります。

インドはまた、サプライチェーンの多様化を進め、中国への依存を減らすことでレジリエンスの向上を目指す世界的な流れの中で、特に恩恵を受けている国のひとつです。この傾向は、新型コロナウィルスのパンデミックと、米国の関税をめぐる先行き不透明感によって、さらに強まっています。例えば、アップル(Apple)は現在、iPhoneの15%をインドで製造していますが、これを25%まで増やす計画です。これと同様の傾向が、幅広いテクノロジー分野で見られます。

これらすべてが、インドの電子機器製造セクター(EMS)の爆発的な成長につながっています。過去5年間で、収益は年平均成長率(CAGR)50%増加しました。この期間にインドの上場電子機器メーカー上位5社の収益は8倍近く増加し、約4,800億ルピー(55億米ドル)になりました。

もちろん、急速な収益成長に伴い、モトローラ(Motorola)、サムスン(Sumsung)、シャオミ(Xiaomi)などのスマートフォンを組み立てるディクソン・テクノロジーズ(Dixon Technologies)や、自動車部品などを専門とするケインズ・テクノロジー(Kaynes Technology)などの主要銘柄の株価も急騰しています。しかし、こうした成長を遂げているものの、インドが電子機器製造分野で世界をリードするには、まだ時間がかかるでしょう。インドは世界の電子機器製造の2%を占めるに過ぎず、中国の47%と比べると大きな差があります。

私たちはインドを訪問し、北部と南部にある主要なEMS企業を視察しました。その結果、この成長ストーリーが依然として堅調であり、持続可能であることを示す現地の状況を確認することができました。工場で目にしたものは、その確信をさらに強めるものでした。その理由は主に3つあります。


1.若く豊富な労働力

インドの人口構成の強みは電子機器工場の現場で顕著に表れており、労働力の大半を若者が占めています。新入社員は最低賃金で雇用されますが、業界の急速な拡大により、管理職レベルまでのキャリアアップの機会が豊富にあります。最低賃金は月額13,000~20,000ルピーで、中国南部の主要な電子機器製造拠点である東莞(Dong Guan)の最低賃金よりも20~40%低く、インドの競争力を高める要因となっています。10年前の中国とは異なり、労働力不足を報告する工場はなく、ほとんどの労働者は近隣の地域から通勤しているため、会社が宿泊施設を提供する必要性が最小限に抑えられています。これにより柔軟な運営が可能となり、コストの削減につながっています。これらの有利な条件を踏まえ、インドの電子機器産業における雇用が、現在の600万人から2027年までに1,200万人に倍増する可能性があるとの予測もあります1


2.大規模で幅広い市場潜在力

消費者向け電子機器、家電製品、自動車、データセンター、航空宇宙など幅広い分野にわたり、私が会った経営陣は今後5年間の見通しについて一様に強気でした。インド国内市場は、「デジタル・インディア」計画などの政府の施策や、自動車、家電、産業機器における電子部品の増加に支えられ、急速に拡大しています。ディクソン(前出)やケインズ(前出)などの企業も輸出成長を視野に入れていますが、インド国内の機会だけでも十分大きく、輸出比率は控えめな水準に保たれています。

ある工場を訪れた際、より高い自動化レベルとより大規模な生産能力を備えた新工場への生産移転が進められている例を目の当たりにし、この分野における大きな可能性を実感しました。既存の工場について尋ねたところ、設備が最新ではないにもかかわらず、すでに新たな入居を希望する企業が3社待機しているとの回答を得ました。これは顧客の需要がいかに強いかを如実に示す事例です。


3. 組立から部品・半導体へのシフト

政府の次のPLI計画が付加価値の高い製品を対象としていることを受けて、いくつかの企業は上流セグメントへの投資を進めています。ケインズはパッケージングチップ事業(外部委託半導体組立および試験:OSAT)とプリント基板(PCB)製造事業を拡大しています。一方、ディクソンはスマートフォン画面用のディスプレイモジュールの組立に進出しています。これらの投資は資本集約的であり、規模を拡大するには時間がかかります。しかし、これらはインドのEMS企業がバリューチェーンの上流へと構造的に移行していることを示しています。


4. 高まる自動化レベル

インドの工場は、自動化において依然として中国や台湾に遅れをとっていますが、追いつくペースは加速しています。ディクソンの新型モトローララインとシャオミの組立ラインは、従来のライン(20%)と比較して、大幅に高い(50~70%)自動化レベルを特徴としています。ケインズは年間20%の自動化率向上を目標としており、最終的には台湾レベルの効率性を目指しています。

インドのEMS業界において、潜在成長力の点で際立っている上場企業が3社あります。すでに言及したディクソンとケインズ、そしてネットウェブ・テクノロジーズ(Netweb Technologies)です。

ディクソンはインドの電子機器産業において確固たるリーダーの地位を維持しています。比類のない規模(昨年3,000万台以上の電話を出荷)、堅調な輸出事業(40%が北米向け)を展開しており、高度な自動化施設への投資を継続しています。経営陣は自律的な成長とキャッシュフローの創出に注力しており、タタ・エレクトロニクス(Tata Electronics)以外には有望な地元の競争相手はほとんどいないと見ています。また、ディクソンは、携帯電話のディスプレイ画面やコンピュータモニター、冷蔵庫などの新しい分野にも事業を拡大しています。

ケインズはおそらく「次世代」EMSの代表的な存在であり、OSAT、PCB、半導体組立への戦略的な拡大を、政府の補助金も活用しながら進めています。同社の成長計画は大胆で、2027年までに収益を倍増させることを目指していますが、初期の稼働率や顧客の立ち上げが順調に進まない可能性があるため、OSAT分野での実行状況は注目されるでしょう。しかし、同社が工程の質の向上と自動化に注力している点は、長期的には競争力を高める要因になると考えます。

一方、ネットウェブ(前出)は、ハードウェアとソフトウェアのフルスタック能力、そしてエヌビディア(Nvidia)、インテル(Intel)、AMDなどのグローバルな大手テクノロジー企業との強力なパートナーシップを背景に、インドにおけるデータセンターとAIブームを活用する企業です。強力な受注パイプラインと35~40%の年平均成長率(CAGR)という野心的な目標を掲げており、データのローカライゼーション(国内保管)やAIの波から大きな恩恵を受ける好位置にあります。


今回の訪問を通じて、インドのEMSセクターが堅調な財務基盤と株式市場での好調なパフォーマンスを維持している背景には、実際の構造的な変化があることを確認しました。その要因として、若くコスト競争力のある労働力、国内需要の拡大、バリューチェーンの上流への段階的な移行が挙げられます。特に、ディクソン、ネットウェブ、ケインズなどの有力企業は、規模の大きさ、卓越した運営能力、そして将来への積極的な投資姿勢を兼ね備えており、最も有利な立場にあります。バリュエーションは依然として課題ではありますが、調整が進めば、この構造的成長分野への魅力的な参入機会が生まれる可能性があります。


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