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- 欧州不動産:コア・プラス戦略の機会
世界的に金利の低下が続き、市場の変動も激しい環境下で、欧州不動産のコア・プラス戦略は、投資家に分散投資のメリットと、安定的かつ持続可能な収益源を提供する可能性があります。
投資家にとって厳しい時期が続いています。地政学的な緊張や関税の問題、経済の先行き不透明感により、市場は大きく変動しています。こうした環境下では、効果的な分散投資や安定した収入源がより一層重要になります。私たちはこの両方の観点から、欧州不動産のコア・プラス戦略が最も有力な選択肢の一つになり得ると考えています。この戦略は、すでに実績のある立地に建つ既存の建物へ投資し、開発リスクや運用リスクを最小限に抑えながら、積極的な運用によって収益とリターンの最大化を目指すことができるからです。
不動産は株式や債券との相関が最も低い資産クラスの一つであり、多くの投資家が主に北米に資産を配分している現状において、米国市場ではなく欧州市場に注目することで分散投資の効果がさらに高まります。
また、地域や資産クラスによる分散効果に加え、欧州不動産はリターンの構成要素の面からも分散効果を発揮します。欧州の収益動向は米国とはほぼ逆の動きを示しており、米国で逆風となる要因が欧州では追い風になるのです。
上昇する価格と家賃
基本的に不動産投資からのリターンは2つの要因に左右されます。1つはキャップレート1、2つ目は賃料収入です。
金利の上昇を受けて、近年キャップレートは大きく上昇しました。これはパンデミック(新型コロナウイルスの世界的大流行)以降、不動産市場にとって大きな逆風でしたが、欧州を中心に金利が低下に転じたことで、この逆風が追い風に変わりつつあります。
他の主要資産クラスが依然として高値感があるのに対し、欧州の不動産価格はパンデミック前から20~40%下落しているため、投資家にとって魅力的な投資機会が生まれていると考えられます。
欧州では賃料収入が安定しているか、または好調な方向に動いています(図を参照)。 しかし、その理由は投資家が考えているものとは異なります。通常、景気が悪化すれば同じスペースを求めるテナントが減るため、賃料の上昇は期待できません。しかし、現在の状況はやや異なっており、その背景には需給バランスの不均衡があります。欧州において賃料の動向を左右しているのは、質の高い物件の供給不足なのです。例えば、当社はジュネーブに新しい本社ビルを建設していますが、未利用地の建設許可を得るのに10年以上かかりました。一方、米国では通常6カ月程度で許可がおります。欧州の厳しい都市計画法により供給が極端に制限されているため、景気が低迷している時期でさえ賃料の大幅な上昇がみられてきました。これに対し、米国では都市の税収を最大化したいため、建設計画が認可されやすく、物件が豊富に供給される状況にあります。
その結果、米国の主要都市の多くでは、経済成長が比較的堅調であるにもかかわらず、建物の供給過剰によって賃料が下落しています。これに対して、ロンドンを例にとると、英国の経済成長率が約1%であったにもかかわらず、2024年の住宅賃料は11.5%もの大幅な上昇を記録しました。
安定した収益の確保
欧州における質の高い不動産の不足、および当社の物件選定や付加価値創出の取り組みにより、欧州では経済成長率が1桁台であったにもかかわらず、コア・プラス不動産戦略においては2桁台の賃料上昇を実現することができました。
このことは、最近まで資金をマネー・マーケット・ファンドや債券ファンドに預け、ユーロ建てで約4%、米ドル建てではそれ以上の利回りに満足していた機関投資家からも注目が集まるようになってきました。金利が低下し、それに伴い債券利回りも低下する中で、これらのファンドでは簡単に得られなくなった水準の利回りを、コア・プラス不動産戦略が提供できる可能性が高いからです。
当社のポートフォリオの平均賃貸契約期間は11年であり、将来の賃料収入について、投資家に安心感を与えています。また、このような投資は長期的に安定した賃料収入を享受できるだけでなく、建物のリノベーションや用途変更、再開発などを通じてリターンをさらに高める可能性も備えています。
ロジスティクス(物流)とデータセンター
重要なのは、こうしたリターンを安全に実現できる分野や地域、個別物件を見極めることです。私たちは、コア・プラス戦略において、特にロジスティクス分野に魅力的な投資機会があると考えています。国際貿易が制約を受けるような環境下では、地域のサプライチェーンがこれまで以上に重要になります。つまり、地域ごとにより多くの物流施設が必要になり、空室率が下がれば賃料の上昇圧力が強まることになります。特に重要なのは、物流企業にとって賃料は生産コストの4~7%程度であるため、賃料上昇の影響を受けにくいことです。
もちろん、他の投資と同様に慎重さも不可欠です。例えば、主な輸出先が欧州外であり、関税の影響を受けやすい自動車メーカーに依存している地域への投資は、慎重に検討する必要があるでしょう。
多くの人が有望視している、もう一つの分野がデータセンターです。デジタル化が進む中で、欧州の各国政府がテクノロジー分野の振興に意欲的であることが背景にあります。私たちは、データセンターを極めて魅力的な資産クラスであると考えており、AIが注目される以前から、マドリードとストックホルムにある2つのデータセンターに投資してきました。
しかし、AIの可能性や膨大なデータ需要にもかかわらず、私たちは現在、データセンターへの投資に慎重な姿勢をとっています。第一に、この分野にはプライベートエクイティやインフラ投資家、不動産投資会社など、多くの投資家の資金が流入しています。第二に、多くの投資家にとってデータセンターは比較的新しい投資分野に見えるかもしれませんが、実際にはラック密度の増加や冷却効率の向上、設計要件の進化に伴い、設備が時代遅れになるリスクを抱えていることが見過ごされがちです。さらに、数年後には多くの物件が一斉に売却市場に出回ることが見込まれ、売却(エグジット)の難しさに直面する懸念もあります。したがって、市場の注目が集まる中でも、私たちは慎重な姿勢を崩さず、供給が制約されている主要都市やその近郊にあり、適正価格での投資が可能な付加価値創出の余地がある小規模物件に注力します。
持続可能なリターン
既存物件のリノベーションは、付加価値創出とコア・プラス不動産戦略の重要な柱であり、投資対象物件の環境性向上に重点を置いています。例えば、従来型の暖房設備を冷暖房両用のヒートポンプに交換することや、再生可能エネルギーのみを利用する設備への切り替え、センサーの導入によるエネルギーや水の消費量の最適化、壁や窓の断熱性の強化などが挙げられます。また、木材ラミネートなどの環境に優しい建材の使用や、再生可能エネルギーを生み出す太陽光パネルの設置、さらには廃棄物を一切埋立地に送らないことを目指す取り組みなども含みます。例えば、私たちが所有しているスウェーデンのデータセンターでは、リノベーションに加え、建物の機能や市場での役割を見直すポジショニングも実施し、物件の取得時と比べて二酸化炭素排出量を62%削減することに成功しました。
こうした取り組みは経済的にも効果をもたらします。先進国全体のデータを分析したところ、グリーン認証を取得した物件は、平均稼働率が4.3%高く、賃料も約4.6%高いことが確認されました。また、運営コストが低く、売却価格が高くなる傾向にあります2。
賃料の上昇と金利低下による不動産価値の上昇が見込まれることを勘案すると、現時点で欧州不動産への投資は明らかに魅力的であると言えます。
質の高い不動産へ投資し、戦略的なリノベーションや積極的な運用管理を行うことで、コア・プラス不動産戦略は、他の資産クラスとの相関が低いだけでなく持続可能なリターンを提供できると考えます。
[1] キャップレートは、投資家が不動産投資から得られる期待利回りを示します。通常、「物件の年間収益÷物件の現在価値」で算出されます。
[2] 中央値。出所:Sustainability Review/MDPI「A Review of the Impact of Green Building Certification on the Cash Flows and Values of Commercial Properties」(N.Leskinen他、2020年)
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