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マグニフィセント7を超えて:次の市場リーダーはどこから現れるか
2025/12/05

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概要

マグニフィセント7だけが株式市場に影響を与える時代が終わる理由について、ピクテ・アセット・マネジメント、マルチアセット&クオンティティブ・インベストメント、シニア・マルチ・アセット・ストラテジリスト、アルン・サイ(Arun Sai)と、同エクイティ、シニア・インベストメント・マネージャー、ゲルジャン・ヴァン・デル・ギア(Gertjan Van Der Geer)が考察しました。



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マグニフィセント7と呼ばれる巨大テクノロジー企業が、これまで株式市場の驚異的な上昇をけん引してきました。その背景を考察すると、魅力的な物語が見えてきます。アルファベット(Alphabet)、アマゾン(Amazon)、アップル(Apple)、メタ(Meta)、マイクロソフト(Microsoft)、エヌビディア(Nvidia)、テスラ(Tesla)の7社は、過去3年間のS&P500種株価指数の上昇分の約50%を占めています。

しかし、さらに詳しく探ると、シリコンバレーの優良企業だけを、これまでの市場のけん引役と見なしてよいのか、あるいは今後もそうであり続けるのかは必ずしも明確ではありません。

株式市場のリターンに大きな影響を与えてきた、そして今後も与え続けると期待される2つの銘柄グループが存在します。

その注目すべきグループは、テリフィック20(Terrific 20)とフォーゴットン(忘れられた)50(Forgotten 50)です。前者は過去5年間にマグニフィセント7に匹敵する株価パフォーマンスを示した超大型株のグループであり、後者はその名が示す通り、非常に収益性が高いにもかかわらず不思議と人気を失った企業の集合体です。

両者は異なる理由で注目に値します。

まず「テリフィック20」から見てみましょう。

このグループ(テクノロジーだけでなく消費財、金融、産業、エネルギーなど幅広い業界で事業を展開する超大型株)の株式リターンは、今年に入ってからマグニフィセント7を約12%上回っています。


図1: 「マグニフィセント7」は過去5年間で最高のパフォーマンスを示したグループではない

マグニフィセント7、テリフィック20、フォーゴットン50、S&P500種株価指数のパフォーマンス比較
出所 : MSCI, LSEG, Pictet Asset Management
期間:2020年12月31日~2025年10月16日

テリフィック20の株価が継続的に上昇していることが、2022年のインフレを背景とする市場の調整局面の後に、S&P500種株価指数のバリュエーションがPER(株価収益率)23倍という景気循環的な高水準に達した主な要因です。一見すると、ポジティブな展開のように思えます。米国株式市場の上昇がエヌビディア、マイクロソフト、そして他の5つの巨大テクノロジー企業だけに依存せず、より幅広い企業に支えられていることを示唆しているからです。

しかし、より深く掘り下げると、異なる状況が見えてきます。

テリフィック20の目覚ましい上昇には懸念すべき問題があります。それは、株価の上昇が収益の改善を伴っていないという点です。

米国企業の収益性は過去と比べて大幅に向上しており、現在S&P500種株価指数のROE(自己資本利益率)は、19%で長期平均の15%を上回っています。しかし、株式の高いバリュエーションは通常、利益成長の加速や収益の持続的な増加を伴う安定した収益性への期待を反映しています。そしてこれらの指標において、少なくとも現時点では、テリフィック20はまだその期待に応えていません。

マグニフィセント7の株価上昇が驚異的な利益成長を伴っているのとは対照的に、テリフィック20の収益はこれまでのところ目立ったものではありません。

テリフィック20のバリュエーションはわずか2年で60%上昇しましたが、S&P500種株価指数の利益に占める割合は、10年前の約20%から15%に低下しています。

さらに、テリフィック20の利益に対するアナリストのコンセンサス予想は、2020年以降、年間15%のペースで上昇していますが、これは市場全体の平均をわずかに上回る水準で、マグニフィセント7の26%には大きく及びません。これらすべてが株式投資家にとって、広範な影響を及ぼします。

テリフィック20の急上昇は、S&P500種株価指数に含まれるかなりの数の企業が、実績として示された収益力と一致しない水準で取引されていることを意味します。当社の試算によると、現在、指数の時価総額の3分の2を占める企業がPER25倍程度で取引されており、これはわずか2年前には3分の1以下でした。

つまり、企業のファンダメンタルズが持続的に改善するという期待のもとで、高いバリュエーションを付けられている銘柄が増えているということです。しかし、その改善はまだ実現していません。このため、もし経済が停滞した場合、米国株式市場は大きな脆弱性を抱えることになります。


図2 :収束するバリュエーション

マグニフィセント7、テリフィック20、フォーゴットン50、S&P500株価指数の12ヵ月先予想PER
出所: LSEG, IBES, Pictet Asset Management
期間: 2016年12月31日~2025年10月16日

しかし、これは必ずしも株式投資家が米国市場から全面的に撤退すべきことを意味するわけではありません。むしろ、ローテーションが始まろうとしている可能性があります。つまり、市場のけん引役が、バリュエーションの高い銘柄グループから割安な評価の銘柄グループへ移るプロセスを意味します。

確かに、テリフィック20の企業がバリュエーションを急上昇させる一方で、それとは正反対の状況にある銘柄が少なくとも2倍は存在します。それが「フォーゴットン50」で、このグループは、将来の市場のけん引役になる可能性を秘めています。

S&P500種株価指数の時価総額、約5%に相当するこれらの企業は、PERが10年間の平均の3分の2まで低下しています。この調整は過度に楽観的な成長予想への反応として始まりましたが、現在では行き過ぎたものに見えます。特に過去5年間で、これらの企業の利益が約200%増加したことを考慮すると、その傾向は顕著です(図3)。


図3:過去5年間で「フォーゴットン50」は堅調な収益を上げてきた

マグニフィセント7、テリフィック20、フォーゴットン50、S&P500株価指数のEPS比較(1株当たり利益率、12ヵ月)
出所 : LSEG, Pictet Asset Management
期間 : 2010年12月31日~2025年10月16日

フォーゴットン50に属する企業は決して無名ではありません。eコマース企業のメルカドリブレ(Mercado Libre)、顧客管理ソフトウェアプロバイダーのハブスポット(HubSpot)、製薬大手のイーライリリー(Eli Lilly)など、非常に成功を収めた企業で構成されており、「クオリティ株」に分類されています(「フォーゴットン50(Forgotten 50):概要」参照)。

このようなクオリティ株は、市場全体と比較して前例のないほどのアンダーパフォーマンスを経験しています。その一因として、かなりの地政学的混乱や貿易の混乱があるにもかかわらず、予想に反して経済が堅調に推移していることが挙げられます。興味深いことに、同じ傾向が欧州市場でも見られます。

市場は成長、インフレ、そして米国の企業の信頼性が引き続き維持されることに対して、ある種の信念を持って動いてきましたが、その結果、株式投資家のマージン・オブ・セーフティ(安全余裕)は低い状態にあります。しかし同時に、フォーゴットン50に含まれるような、安定した収益、高い収益性、低いレバレッジといった実績を持つクオリティ株にとっては有利な環境でもあります。

さらに、クオリティ株は一般的にベータ値が低く、市場全体が下落した場合でも株価を維持する傾向があります。また、長期的な構造的トレンドからプラスの影響を受ける可能性もあります。


図4:クオリティ株はグロース株を異例の幅で下回る

MSCIクオリティ株価指数、MSCIグロース指数株価と米国株式のパフォーマンス比較
出所 : MSCI, LSEG, Pictet Asset Management
期間 : 2010年12月13日~2025年10月29日

当社では、クオリティ株が中期的にアウトパフォームすると期待できる理由がいくつかあると考えています。特にマクロ経済的な観点での根拠は強力です。クオリティ株は経済成長が穏やかな時に特に良好なパフォーマンスを示す傾向があります。そして、当社の予測によると、米国のGDP成長率は長期的な潜在成長率を大きく下回る水準に減速するでしょう。私たちは来年の米国GDP成長率を1.3%と予想していますが、これはコンセンサス予想の1.8%を大きく下回ります。さらに、当社のモデルでは、インフレ率も現在債券市場で織り込まれている水準を上回る可能性があることを示しています。

クオリティ株のバリュエーションは魅力的な水準にあります。この数年間、クオリティ株の株価パフォーマンスは超大型株を非常に大きく下回っていたため、安定した収益を生み出す企業に対して求められるバリュエーションプレミアムは現在、長期平均と同水準にあります。


図5: 広範な市場と比較して、クオリティ株のバリュエーションは長期平均に近い

12ヶ月予想PER:MSCIクオリティ指数 vs MSCI広範指数*
*長期平均は点線で表示

出所 : LSEG, MSCI, Pictet Asset Management
期間 ; 2012年12月31日~2025年10月16日
 


フォーゴットン50(Forgotten 50):概要

将来的に市場のけん引役として浮上する可能性があると考えられる「フォーゴットン50」企業の中には、製薬大手イーライリリー(Eli Lilly,)、ラテンアメリカのeコマース企業メルカドリブレ(Mercado Libre)、ビジネスソフトウェア企業のハブスポット(HubSpot)などがあります。

これらの企業はいずれも、市場で現在十分に評価されていない競争力を備えています。

例えば、イーライリリーは肥満症や2型糖尿病の治療において圧倒的な地位を確立しています。

同社の将来的な商業的成功において非常に重要なのは、新しいGLP-1治療薬の開発です。

これらの治療薬は、現在の肥満症や糖尿病薬に代わる低コストの選択肢を提供する可能性があるだけでなく、依存症、関節炎、免疫不全など、より広範な疾患や病態の治療にも使用される可能性があります。

一方、ハブスポットは、最新の人工知能(AI)技術を活用することで何が達成できるのかを示す好例です。

同社は顧客管理(CRM)プラットフォームにAIを組み込むことで、営業、マーケティング、業務運営のいずれにおいても、企業がより効率的に運営できるよう支援する、よりカスタマイズされた製品を提供することが可能になりました。

当社の試算では、同社が対象とする市場規模は約1,280億米ドルにのぼります。

メルカドリブレは、ラテンアメリカにおける主要なeコマースおよびフィンテック企業としての地位を維持するでしょう。同社は、新技術への賢明な投資の成果を享受しています。

AIを活用した業務運営、業界特化型ショッピング、新しい広告プラットフォームなどのイノベーションが同社の生産性をさらに向上させるでしょう。

同時に、未開拓の市場で支配的な地位を築き続け、物流や金融サービスへの拡大を通じてさらなる商業的成功を収めると予想しています。



これは、マグニフィセント7が投資家の注目から外れることを示唆するものではありません。各企業、それぞれの業界で圧倒的な地位を占めており、その多くがAIインフラの構築において重要な役割を果たしているからです。むしろ、それらの企業のバリュエーションプレミアムを市場全体と比較すると、AI時代においては取引範囲の下限に近い水準にあり、引き続き堅実なリターンをもたらす可能性が高いことを示しています。

また、今後の米国株式の動向を見極めようとする投資家にとって、当社の分析からいくつかの実践的な示唆を得ることができます。

まず、ニュースの見出しを独占する少数の巨大テクノロジー株だけにとどまらず視野を広げることで、鋭い目を持つ投資家が利益を得られるような重要な株価変動が水面下で起きていることに気づくでしょう。市場の目覚ましいパフォーマンスをけん引してきた多くの巨大企業の株式は非常に割高になりつつあるのです。

これは、マグニフィセント7にはまだ完全には当てはまらないかもしれませんが、最近数ヵ月でS&P500のランキングで静かに上位に浮上してきた20銘柄は精査に値します。長期的な視点を持つ投資家は、投資先を米国の超大型株へ絞るのではなく、多様化し始めるべきだと考えます。この戦略は、市場の調整と、新たなけん引役の出現との両方に対しての備えとなるでしょう。

これは、次世代の勝者を代表すると考えられる中型株や、米国以外の優良企業への投資を増やすことを意味します。代替的または補完的なアプローチとしては、株価が過小評価されている優良企業に資本を再配分することが考えられます。

そのような企業は多数あり、その多くはフォーゴットン50に含まれています。これらの企業は、一部の巨大企業が衰退し始めた時に市場の新たなけん引役となる可能性があります。


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