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微生物は地球を救えるのか?
2025/12/02

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概要

肉眼では見えない微生物が、気候変動への対策に貢献し、作物の収穫量を向上させ、プラスチックのリサイクルにも役立つ可能性があります。



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肉眼では見えない微生物は、地球上で最も古く多様な生命体です。バクテリア、ウイルス、真菌、藻類は数十億年かけて進化し、生命の循環に不可欠な特性と機能を発達させてきました。天然痘ワクチンやペニシリンなどの画期的な発見により、医学に革命をもたらし、数え切れないほどの命を救ってきました。

近年、微生物学の進歩により、微生物の応用範囲は作物の収穫量の向上、気候変動対策、リサイクルなどにまで拡大しています。

微生物は地球規模の生物循環、特に炭素やその他の温室効果ガスの循環と分布において重要な役割を果たしており、一方で、排出源にもなり得ます。分解過程で、バクテリアは呼吸によって有機物を分解し、副産物として炭素を放出します。藻類は汚染された水域で急速に成長し、酸素濃度を低下させ、他の生物にとって生息不可能な環境を作り出します。

しかし同時に、微生物は地球温暖化ガスを封じ込めることもできます。土壌中の微生物は、有機物を分解する過程で放出される炭素を隔離します。その結果、世界の土壌には大気の2〜3倍の炭素が含まれています。この過程は工業的な農業によって脅かされています。耕うんや耕作などの農業活動は炭素の貯留を妨げ、炭素を大気中に再放出してしまうのです。過去1世紀で農業が集約化されるにつれ、土壌の炭素貯留量は30〜60%減少しました。微生物はこれを逆転させる助けとなる可能性があります。

微生物バイオテクノロジー企業ロームバイオ(Loam Bio)の科学者たちは、土壌の炭素貯留能力を向上させる可能性を持つ特定の種類の真菌微生物を特定しました。真菌は植物の根と広範な地下ネットワーク(菌糸ネットワーク)を形成しており、この関係は4億年以上も続いています。これにより、菌類は根のネットワーク全体を通じて広範囲の土壌と相互作用することが可能になります。「私たちが菌類を選んだのは、植物との共生関係、土壌構造を改善する能力、そして多様な環境条件下での高いレジリエンス(回復力)があるためです」とローム・バイオの最高製品責任者であるロビー・オッペンハイマー(Robbie Oppenheimer)博士は述べています。

ローム・バイオはこれらの真菌微生物を使用して種子処理製品を開発しており、それらの製品は植物が二酸化炭素を貯留するのを助けることを目的としています。この製品を一度土壌に添加すると、微生物が植物の根と共生関係を築き、炭素貯留、栄養分の保持、そして農業の生産性を向上させます。

「私たちは、厳格な実験室での実験や実地試験を含む広範なテストを行い、製品が農家にとって農業成果を向上させる製品であることを確認しています」とオッペンハイマー博士は述べています。

「私たちの研究は、土壌微生物が土壌の健康を改善し、安定した土壌炭素の重要な吸収源として機能する可能性について新たな知見が得られました。これは微生物を活用したソリューションが、他の気候変動緩和戦略を補完する役割を果たすことを示唆しています」



プラスチック廃棄物への取り組み

実際、微生物は他にも多くの環境上の利点を提供します。土壌の肥沃度を高め、合成肥料や殺菌剤、殺虫剤などの必要性を減らし、環境ストレスに対する作物の回復力を強化します。特定の微生物種は、土壌や水からの汚染物質、毒素、その他の汚染物質の除去を行うバイオレメディエーションに貢献することができます。また、微生物は堆肥化による食品廃棄物の処理においても重要な役割を果たしています。例えば、バクテリアは食品や生分解性廃棄物を分解し栄養豊富な土壌へと変えることで、廃棄物を減らし同時に有用なものを生産します。科学者たちは、この原理を最も広く存在する汚染物質の一つであるプラスチックに応用しようとしています。

プラスチックは生分解しないため、環境にとって有害です。日光、酸化、摩擦などにより、どんどん小さな破片に分解されていきます。これらのマイクロプラスチックや最終的にナノプラスチックになった物質は環境中に残り、水や土壌を汚染し、動物に害を及ぼします。科学者たちはこの問題に対処するための新しい微生物学的プロセスを開発しています。

プラスチックはポリマーで構成されており、モノマーと呼ばれる分子単位が繰り返し連なった長い鎖状の構造を持っています。エディンバラ大学のジョアンナ・サドラー(Joanna Sadler)博士と彼女の研究チームは、これらのポリマーが分解されると、遺伝子操作されたバクテリアの助けを借りて、より価値の高い製品に変換できることに気づきました。

「私たちの目標は、プラスチック産業の将来を保証すると同時に、現在のプラスチック廃棄物の中でも得に難しい問題に取り組むことです」とサドラー博士は述べています。彼らの革新的なアプローチは、プラスチックから得られる炭素を細胞の代謝プロセスに取り込むことにあります。細胞のゲノムを操作することで、この炭素を全く異なる物質の生成に利用することが可能になります。これまでに、PETプラスチック分子をバニリン(バニラの香りと風味の元となる分子で、香料の製造にも使用されている)に変換することに成功しています。

「このアプローチにより、プラスチックをグリーン経済の潜在的な原料として捉えることができるようになります。これはプラスチック廃棄物に対する考え方におけるパラダイムシフトです」とサドラー博士は言います。「私たちは、すでにバニリンを作ることができることを証明しました、世界中の研究から、プラスチックがさまざまに興味深い商業的に有用な製品に変換できるという証拠も得られています。これは相乗的な利益をもたらします。」

バクテリアのさらなる利用法は、遺伝子工学を通じて発見することができ、その範囲はわずかな調整から大規模な変更にいたるまで多岐にわたります。サドラー博士は、段階的に変化を加える方が、より良い結果を生むことが多いと指摘しています。「最終的にはバクテリアに何を求めるかによります。もし変更が元の物質からわずかに手を加える程度であれば、比較的簡単に進められる傾向があります。しかし、大規模な合成遺伝子クラスターを導入する場合、バクテリアの生存能力や成長速度が損なわれる可能性があります」と博士は言います。

これらのバイオテクノロジーの進歩は、微生物の驚くべき適応能力を示すだけでなく、環境悪化という差し迫った課題に対処するために、自然に着想を得たソリューションの可能性を浮き彫りにしています。


■投資のためのインサイト

ピクテ・アセット・マネジメント、セマティック・エクイティ シニア・クライアントポートフォリオマネージャー、
ジェニファー・ボスカーディン・チン( Jennifer Boscardin-Ching)


微生物は日常生活に欠かせない存在であり、汚染防止、廃棄物管理やリサイクル、持続可能な農業や林業など、さまざまな環境ソリューションのテーマにおいて重要な役割を果たしています。


ピクテのグローバル・エンバイロメンタル・オポチュニティーズ(Global Environmental Opportunities)チームは、栄養改善からプラスチックリサイクルに至るまで、あらゆる分野を向上させるバイオソリューションへの堅調な需要を見込んでいます。この分野は、防御的な成長機会を提供しており、特に現在の不安定な市場環境において非常に魅力的です。


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