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債券における安全性の追求
2025/11/17

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概要

投資家たちは、これまで安全資産とされてきた国債の実際の安全性について、疑問を抱き始めています。



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フランスは、債券投資家がこれまで安全資産と見なしてきた国債への信頼を失った場合に、どのような事態が起こるかを示す典型的な例となっています。投資家の判断は厳しく、現在では数多くのフランス企業が、政府よりも低いコストで資金を調達できる状況にあります。

フランスは極端な例かもしれませんが、特異なケースではありません。この現象は新興国市場ではすでに一般的であり、主要先進国にも広がりつつあります。英国では、最新の5年物および30年物国債の入札需要が、少なくとも過去2年間で最低となりました。また、日本の最近の2年物国債入札では、2009年以来最低の需要を記録しました。

安全資産とされる国債に対する不安の主な原因は、政治的な問題にあります。フランスの場合、政治的な危機が続いているため、国家財政を適切に管理できる政府を形成することが困難な状況に陥っています。フランスの退職者の年金収入は、平均して現役世代の収入よりも高いにもかかわらず、有権者は労働時間の延長や退職年齢の引き上げといった、どんな小さな給付削減の兆しにも反発します。しかし、それは明らかに持続不可能な状況です。

他の先進国はフランスほど深刻な状況ではありませんが、人口動態の変化も影響し、同じ方向に進んでいます。出生率の低下と平均寿命の延長により、政府は大規模な退職有権者層の要求に縛られています。例えば、米国ではGDP比6%以上の慢性的な財政赤字を抱えており、その大部分は社会支出に充てられていますが、削減の兆しはほとんど見られません。経済成長率が2〜3%程度にとどまる中、債務負担は急速に拡大しています。実際、先進国全体では2017年第4四半期から2025年第3四半期までの間に、公的債務負担がGDP比で10ポイント増加し、117%に達しています。このような状況が続けば、投資家はさらなる国債の購入を躊躇するようになるでしょう。


図表1:フランスにおいて国債以下の利回りで取引されている社債の割合
           (
同満期で比較、%)

出所 : Pictet Asset Management, ICE BofA indices.
期間:2019年10月31日~2025年9月29日

対照的に、多くの巨大多国籍企業の信用力は向上しています。投資適格とされる企業の多くは、堅固なバランスシート、良好な収益見通し、健全で持続可能な利益率を誇っています。そのような格付けの企業へ融資するのは、これまでも非常に信頼性が高く、欧州での過去のデフォルト率は約0.5%前後で推移しています。特に最良格付けの企業については、デフォルトの可能性は極めて低いと言えます。自国通貨を管理している政府は、通貨発行によって実質的なデフォルトを回避できますが、その場合、投資家はインフレリスクに対するプレミアムを要求します。しかし、ユーロ圏のメンバーであるフランスにはこの選択肢がありません。これが一因となり、フランスの社債のうち、同じ満期のフランス国債よりも低い利回りで取引されている銘柄の割合が増加しています(図表1)。

このような状況は新興国では珍しいことではありません。新興国では、グローバルに事業を展開し、安定した外貨調達能力を持つ優良企業の社債が自国政府の国債よりも低い利回りで取引されることがあります。BofA(バンク・オブ・アメリカ)の調査によると、ブラジルの社債の30%以上、メキシコとコロンビアの約10%が、それぞれの国債よりも低い利回りで取引されています。

しかし、これは社債が安全資産としての役割を完全に担うことを意味するわけではありません。

まず、政府は企業に課税する権限を持っています。英国とポーランドはともに、財政拡大の財源として自国の銀行システムへの課税を検討しています。例えば、ポーランドは国防費を賄うために銀行の利益に対する課税を特に強化しようとしています。しかし、バランスを取る必要があります。企業は、より有利な税制を持つ国に拠点を移転させることができるからです。実際、オランダやアイルランドは、このような企業が流入してくることで恩恵を受けています。

政府は、特に銀行のように移転が難しい産業を標的にする可能性が高いと考えられます。一般的には、銀行は近年過剰な利益を上げていると見られており、さらに規制や事業の性質上、国内市場に深く根付いているため、本社を移転するのが難しい状況にあります。それとは対照的に、重工業や製造業は、通常拠点がある地域で多くの雇用を生み出していますが、比較的に利益率が低い傾向にあります。また、サービス業は比較的容易に本社を移転できるでしょう。

政府の課題は、自国経済に大きなダメージを与えることなく、企業にどの程度の負担を課せるかを見極めることです。過度の圧力がかかれば、企業は事業拠点を他国に移すか、収益悪化により事業縮小を余儀なくされるでしょう。しかし現時点では、多くの先進国において、高格付けの社債の方が国債よりも健全に見えます。これは、ポートフォリオ配分において、国債を減らし社債の比率を高めることが理にかなっていることを示唆しています。


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