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2026年世界経済の見通し
2025/12/25

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概要

2026年に向けて、主要な経済圏のポリシーミックスは景気拡大を志向しており、貿易環境に加えて、金融政策や財政政策も総じて成長を後押しする方向へと向かっています。



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2025年に米国が主要な貿易相手国と締結した各種協定により、2025年4月2日に発表された「解放の日」と名付けられたドナルド・トランプ大統領の関税パッケージによって高まっていた貿易上の不確実性は、一定程度緩和されました。現在は、米国と主要な貿易相手国との間でおおむね安定した取り決めが整いつつあり、貿易に関する不確実性もピークを過ぎたとみられます。

米国では、政府機関閉鎖からの正常化と中間選挙を見据えた財政刺激策により、年初の成長加速が見込まれます。欧州では、ドイツの財政出動が景気回復を下支えし、日本も同様の措置を進める見通しです。中国では、貿易を巡る不透明感の緩和と景気刺激策の実施により、年後半の成長加速が期待されます。物価動向については、米国とスイスでインフレ率がわずかに上昇し、中国では物価上昇が見込まれる一方、ユーロ圏、英国、日本ではインフレの鈍化が予想されます。

金融政策も景気を下支えしています。米連邦準備制度理事会(FRB)は、2026年に追加利下げを実施すると見込まれています。これにより、物価上昇圧力のリスクはあるものの、米国の景気回復は一段と広がると考えられます。FRBの独立性とインフレ期待を抑制する能力に対する市場の評価が、今後の重要な注目点となります。5月に就任予定の新議長のもとでは、FRBはインフレ目標の厳格な追求よりも景気支援を優先する姿勢を強めると予想されています。また、他の主要経済国においても、金融政策は景気を下支える方向で運営されると見込まれます。

米国は関税による「配当」を計画

財政刺激策は幅広い分野に及んでおり、今後さらに拡大するでしょう。米国では、11月の中間選挙が共和党にとって「何としても勝たねばならない」局面となります。民主党が下院の過半数を奪還する公算が高まる中、トランプ大統領は何らかの対応策を講じる必要があります。この中間選挙は、「課税は窃盗ではない。資本主義こそが窃盗だ」とかつて発言した民主党のゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)氏が、ニューヨークでの2025年選挙で勝利した後に実施されることになります。かつては異常と見なされた出来事が、次第に日常のものとなりつつあります。こうした状況に対し、トランプ大統領は「アメリカを再び手頃な価格にする」ことを掲げて対応しようとしています。


”最高裁は、トランプ大統領による貿易関税そのものの是非ではなく、その導入・運用の手続きや手法について判断しています。”

— フレデリック・デュクロゼ(Frederik Ducrozet)、ピクテ・ウェルス・マネジメント 、マクロ経済リサーチ・ヘッド

K字型経済の下で、裕福な米国人は大幅な賃金上昇を享受しており、特に、いわゆる「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるテクノロジー株に投資している層でその傾向は顕著です。一方で、最低所得層の米国人は、さまざまな課題の深刻化に直面しています。この層の賃金上昇はごくわずかにとどまり、関税は大きな影響を及ぼしているうえ、「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(OBBBA)」による景気刺激策は、富裕層を不均衡に優遇している状況です。

米国では中間選挙を前に、低所得者を支援するための財政措置が講じられることが予想されます。トランプ大統領は、ほとんどの米国民に対し2,000米ドルの小切手を支給する意向を示しており、これは関税収入を財源とする、いわゆる「配当」と位置づけられています。この措置は、低所得層に相対的に大きな恩恵をもたらすと考えられる一方で、その財源の確保については疑問が残ります。米最高裁判所の判断次第では、関税収入の相当部分が無効とされ、歳入に大きな欠損が生じるリスクがあるからです。しかし、ここで重要な点は、最高裁が審理の対象としているのはトランプ大統領による貿易関税そのものの是非ではなく、その導入・運用の手続きや手法であるという点です。たとえ最高裁の判決により先行きが不透明になったとしても、関税自体は今後も継続されるとの見方を維持しています。

欧州は動き出している

欧州では景気回復が進んでいます。地域最大の経済国であるドイツが先導役となり、長年の財政緊縮政策を経て、現在では財政拡大に踏み切っています。この動きは、フランス、イタリア、スペインにおける財政健全化の流れを相殺する以上の効果が期待されています。さらに、ウクライナで和平合意が実現すれば復興が加速し、欧州経済を一段と押し上げる可能性もあります。

宇宙・防衛技術は欧州における成長分野です。ドイツの財政拡大はインフラおよび防衛関連支出に重点を置いており、イノベーションの促進と経済全体への波及効果の拡大に対する期待を高めています。さらに、金融政策も欧州経済の再生を下支えしています。

欧州連合(EU)の指導者たちは、経済統合のさらなる深化を望んでいます。EUは、2028年を単一市場の完成目標年として掲げています。この目標は単一市場ロードマップによって裏付けられており、競争力を高めるため、エネルギー、金融、通信などの分野に依存する障壁を継続的に解消していくことを目的としています。また、この取り組みの一環として、知識とイノベーションの移動に関する新たな「第5の自由」の導入も予定されています。

日本は財政拡大路線を推進

アジアでは、日本も独自の景気刺激策を打ち出しています。高市早苗氏が2025年の与党・自民党総裁選で予想外の勝利を収め、日本初の女性首相に就任する道が開かれました。これにより、財政拡大の新たな時代が幕を開けました。成長促進を目的とした日本の大規模予算案は、赤字削減よりも経済刺激を優先することで、財政健全化のペースを緩やかにしています。

中国は「内卷化」を超えて未来を見据える

中国では、不動産不況後の経済回復を図るため、政府が不動産以外の分野への投資を進めています。

習近平国家主席は「反内卷化」政策、つまり産業部門の過剰生産能力の削減に注力しています。「内卷化」のもとでは、中国企業は市場シェア獲得をめぐり過当競争に陥り、しばしば積極的な値下げを伴う激しい競争を助長しました。規制当局は、こうした状況が経済に悪影響を及ぼしたと指摘しています。

反内卷化政策は、あらゆる代償を払って市場シェアを拡大しようとする姿勢から、利益率の確保を優先する姿勢への転換を示しています。これにより健全な投資文化が育まれ、企業は持続的に利益を上げられるようになるでしょう。これは、新興国市場に対して前向きな見方を持つ理由の一つであり、米国と中国の企業利益率の格差は縮小すると予想されます。


”宇宙・防衛技術は欧州における成長分野です。”

— フレデリック・デュクロゼ(Frederik Ducrozet)、ピクテ・ウェルス・マネジメント、 マクロ経済リサーチ・ヘッド

このような穏やかな世界経済環境は、2026年の世界経済を下支えするはずです。K字型経済における格差は、所得や資産の下位層から順次解消されていくと見込まれます。



1:消費者支出

米国:年収別の消費者信頼感(モーニング・コンサルト)

出所:Pictet Wealth Management, Morning Consult
期間:2025年11月26日時点

2 :設備投資

AI関連の設備投資の有無による米国民間投資の成長率

出所: Pictet Wealth Management, Bureau of Economic Analysis
期間:2025年11月26日時点

3: マグニフィセント・セブンの市場リターン

S&P 500株価指数とマグニフィセント・セブンのパフォーマンス


出所: Pictet Wealth Management, FactSet
期間:2025年12月15日時点

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