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気候変動対策における新時代
2025/12/18

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概要

国際司法裁判所(ICJ)は各国が気候を保護し、気候への害を防止する法的義務を負っていると判断しました。このことは、ビジネスや投資にどのような影響をもたらすでしょうか?



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今年7月、気候変動対策は新たな段階に入りました。国際司法裁判所(ICJ)が、各国政府には環境を保護する法的義務があるという画期的な判断を下したのです。

気候変動や自然の喪失、環境問題について政府や企業に説明責任を問うことで高い評価を受けている非営利の国際的法律家集団、クライアントアース(ClientEarth)によると、この判断は各国の政策だけでなく、企業や投資家にも広範な影響を与える可能性があります。

「ICJは、環境保護が人権を享受するための前提条件であると判断しました。これは非常に重要なことです。裁判所はこれは単に気候に関する問題だけでなく、自然全体にかかわる問題であることを強調しました」とクライアントアースのチーフ・プログラム・インパクト・オフィサーであるアダム・ワイス(Adam Weiss)氏は述べています。

「政府が説明責任を負うことで、企業に対する規制執行や、厳格なルールを新たに策定するためのインセンティブが高まります。」

ICJは、その判決の中で「各国は十分な注意を払い、環境に重大な損害を与えることを防止する義務を負っており、自国の管轄または管理下で行われる活動が気候システムや環境の他の部分に重大な損害を与えることを防止するために、利用可能なすべての手段を講じる義務がある1」と述べています。

パリ協定などの気候変動に関する条約は、温室効果ガスの排出削減、気候変動適応策の促進、生物多様性への支援などの問題について、署名国に対して法的拘束力のある義務を定めています。



裁判事例

この判決により、これらの義務が履行されることを確実にするためのさらなる法的措置への道が開かれました。これまでに60カ国で3,000件以上の気候関連訴訟が提起されています。クライアントアースは、その多くに関与してきました。今年だけでも、この動きにより、オランダの航空会社KLMは 気候関連の誤解を招く宣伝を行ったとして責任を問われ、英国政府の気候戦略が目的に適合していないと宣言され、ポルトガルは新空港建設計画を断念する結果となりました。

これまでのところ、裁判の大多数は政府機関を対象にしてきましたが、その状況は変わる可能性があるとワイス氏は述べています。

「基本的に、ICJは気候変動による被害を理由に国家間で訴訟が起こされる可能性を開いたのです」と彼は説明しています。

したがって、理論上は、気候変動の影響に苦しむ低所得国が、環境悪化に大きく寄与した高所得国を訴えることが可能になります。その場合、ICJは訴訟を起こされた国に対し、有害な行動を停止するよう命じる判決を下すことができ、例外的なケースでは賠償金を命じる可能性さえあります。

「ICJの意見は、気候変動の責任を問う訴訟を起こそうとする人々の立場を強化するものだと思います。なぜなら、その意見自体が、理論上そのような訴訟が可能であることを示しているからです」とワイス氏は言います。

しかし、このような訴訟は複雑で裁判所に持ち込むのが難しいため、より起こり得る状況としては、2024年時点では気候関連訴訟全体のうちのわずか20%に過ぎなかった、企業に対する訴訟2が増加することが考えられます。それは金融市場に影響を及ぼすことになるでしょう。

「企業の行動に責任を持つ人々が、その行動が発言と一致しているか、そしてさらに重要なことに、その行動がパリ協定の目標達成に必要な取り組みに見合うものであるかどうかについて、より多くの責任を問われることになると考えます」とワイス氏は述べています。

「私たちは、特定のビジネスモデルがもはや成り立たなくなる状況を目の当たりにするでしょう。もし私が金融機関で働いていたら、化石燃料関連企業への投資が不安定に見え始めるかもしれません。なぜなら、それらの企業の一つが責任を問われ、損害賠償を支払わなければならなくなる可能性があるからです。また、もし私が気候法を明らかに違反している国の債券保有者であるとすれば、そのことについても考えざるを得ないかもしれません。」

中国とヨーロッパが主導

もちろん、ICJの判決が効果的であるためには、それが遵守される必要があります。

しかし、国際法には国内法のように強制力のある執行メカニズムが常に備わっているわけではありません。

現在、特に米国では、政府が気候問題に対して反発する動きが見られるため、この判決が無視される可能性があると考えられるかもしれません。しかしワイス氏は慎重ながらも楽観的な見方をしています。

楽観的である理由の一つは「EUと中国が国際法への関与を強めている」点にあります。中国にとって、これは環境分野におけるグローバルリーダーシップを確立する機会となり得るからです。

もう一つの心強い兆候は、この判決が全会一致で下されたことです。これはICJの歴史の中でも珍しいことで、幅広い国際的な支持を示唆しています。

さらに、ICJの判断は単独ではありません。その判決は、昨年の欧州人権裁判所(ECHR)がいわゆる「Klima事件」で下した判決と一致しています。この事件では、スイス政府が気候変動対策を十分に行わなかったことで国民の権利を侵害したと判断されました。また今年、ECHRはナポリ近郊の地域で有毒廃棄物による汚染に対処しなかったことで、イタリア政府がその地域の住民の権利を侵害したと判断しました。

「これにより、清潔で健康的な環境を享受することが人権であり、各国にはそれを実現する義務があるという考えが結びつけられます」とワイスは話します。「これは人権と気候の関係に関する最も先進的な考え方です。ですから、今後大きな判決が出てくることを期待しています。」

総じて、気候問題に関する規制の強化や監視の厳格化、さらには公共支出の増加に向けた動きが加速しています。

「各国は、温室効果ガスの排出を抑制するために、民間企業の活動を規制することを含め、緩和策を講じる必要があります。そして、それは最善の努力基準に基づいて評価されることになるでしょう」とワイス氏は言います。「この意見がビジネスや投資にとって極めて重要な意味を持つことになるでしょう。」

 



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