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プライベート市場を通じたヘルスケア分野への投資
2025/12/16

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概要

ミラノで開催されたヘルスケア分野の投資家や起業家との円卓会議を受け、本稿では現在のヘルスケア分野におけるプライベート・エクイティ投資に関して、いくつかの洞察を簡単にまとめました。(執筆:Yann Mauron(ヤン モーロン), Pictet Alternative Advisors, Private Equity- Principal Thematics )



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エグゼクティブサマリー

ヘルスケア分野への投資は歴史的にレジリエンス(回復力)があることが示されてきました。この傾向は、世界的に進む高齢化社会のニーズから、治療法や医療技術のイノベーションの加速に至るまで、継続的な構造的追い風によって今後も続くものと予想されます。しかし近年では、医療は政治的に議論の的となるテーマとなっています。本イベントで議論された知見の一部を要約する中で、今日のヘルスケア分野への投資に関するより具体的な側面について触れていきます。


主なポイント
医療投資の展望(2025年)


1. 人工知能(AI)は医療の特定分野における進歩を加速させる可能性を秘めていますが、投資家はその限界も理解すべきです。

2. 業界は医療に影響を与える米国の政策や規制の変化に適応しつつある一方、中国はより革新的な姿勢を見せています。

3. 医療関連企業や地域を跨いだ分散投資は、リスク管理を行いながら潜在的な上昇余地を維持するのに役立つ可能性があります。


今年10月、ミラノで医療分野の投資家および起業家の方々との円卓会議を開催し、プライベート市場における医療分野への投資に関する知見を共有できたことを嬉しく思います。業界が歴史的に高いリターンを達成してきた実績と、今後もこのパフォーマンスを支えると予想される構造的な追い風についての証拠を示すとともに、これらのポジティブなトレンドに幅広く対応するため、プライベート・エクイティのヘルスケア事業における、さまざまな成長段階に対応した投資アプローチを紹介しました。本稿では、今日のヘルスケア投資におけるより具体的な側面についても触れています。

医療におけるAI

AIは万能薬ではありません。医療画像のパターン認識や臨床試験の最適化などの一部の応用分野ではすでに高い成果を上げていますが、臨床開発のタイムラインを大幅に短縮するまでには至っていません。その多くの技術は新しいものではなく、テキストマイニングのように業界で長い間活用されてきたものです。しかし、タンパク質の折りたたみ構造の解明といった新たな進展は、創薬の分野で重要な役割を果たしていることが証明されています。データの入手可能性もますます重要な差別化要因となっています。これらのアプローチは発見プロセスの初期段階における処理能力を高める可能性はあるものの、商業化までの道のりを大幅に短縮するわけではないことを理解することが重要です。

米国の動向

1. 国内政策

保健福祉省の新体制は業界の規制を混乱させるものと予想されていましたが、提出書類の審査に大幅な遅延や品質低下は見られていません。実際、食品医薬品局(FDA)の承認率は今のところ過去数年と同水準です。ワクチンのような政治的に敏感な分野は潜在的にリスクが高いかもしれませんが、これらは医療業界全体では比較的小さな部分です。薬価引き下げの取り組みが行われている中で、圧力は主に薬局給付管理者などの中間業者のコストにかかっています。図が示すように、この中間業者のコストが医薬品価格の高騰に最も大きく寄与しており、今後もその傾向が続くと予想されています。実際、いくつかの上場製薬会社の株価は、トランプ政権の処方薬直販プラットフォームに積極的に応じることが報道された後に上昇しました。このプラットフォームは患者の経済的負担を軽減しつつ、製薬会社の利益を損なわないと考えられているためです。

出所:IQVIA Institute, 2025年
*卸売コストは卸売取得原価(WAC)、追加コストはWACと純売上高の差額を表す。上記に示された傾向が継続すること、あるいは予測が最終的に実現することを保証するものではありません。

2.貿易政策

トランプ政権は最恵国待遇と関税を活用して、製薬会社に対し米国での製造拡大を促しています。米国内での製造は海外移転よりもコストが高いため、リショアリングはコスト最適化の問題を提起し、このモデルの長期的な持続可能性に課題をもたらしています。実際、主要な製薬会社の多くが、直面する関税を抑えるために米国拠点の開発計画を発表しており、先進的な治療モダリティ(医療用画像機器)のような高付加価値の機器などはすでに米国で製造されていますが、医薬品成分などの大量生産が必要な成分は依然として海外で生産されると予想されています。

ブランド医薬品の大部分(製薬会社が米国内に生産工場を持たない場合、100%の関税が課される)は
すでに米国内で生産されています・・・
出所: JPMorgan Research, 2025.
・・・しかし製薬会社はすでに米国内の製造拠点を積極的に拡大しており、さらにEUからの輸入品でさえ
関税が15%に制限されているため、製薬業界にとって実質的な関税リスクはほとんどありません。

中国のイノベーション

一方、中国は主に製造を担う役割から、より革新的な役割へと移行しています。真の新規イノベーションは依然として主に米国によって推進されていますが、新しいターゲットが臨床的に検証されると、中国のリソース(医薬品候補や製薬技術など)をスクリーニングすることが標準となっています。その結果、中国のバイオテクノロジー市場では取引量が大幅に増加しているのが見られます。

投資への影響



これらの変化が長期的に持続する場合、ヘルスケア業界に永続的な影響を与える可能性があります。特に、研究資金の不足は米国のイノベーション力を弱める可能性があります。そのため、欧州は自らの競争優位性を向上させる機会があるかもしれません。一方で、中国は明らかに潜在的な競争相手としての地位を確立しようとしています。

市場が変動している中で、ヘルスケア分野において異なる企業の成熟度や特性にわたって投資を行うことは、リスクとリターンのバランスを保ちながら、ポジティブなトレンドを捉える方法を提供します。

・ 例えば、後期段階の医療技術(メドテック)への投資は、資金負担の大きい状況へのリスクを制御するのに役立ちます。一方で、バイオテクノロジーへの投資は、収益が発生する前の段階での重要な価値創出の恩恵を受けることができ、製薬会社のM&Aによって支えられています。M&Aは依然としてバイオテクノロジー企業にとって主要な出口戦略であり、公開市場への依存を軽減するのに役立ちます。

・さらに、グローバルな分散投資により、地理的な場所に関係なく、最も有望な企業を選択することができます。


*出所:Capital IQ、2025年。
2025年の数値は年率換算。上記に示されたトレンドが継続するという保証、または予測が最終的に実現するという保証はありません。

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