Article Title
よりスマートでグリーンな建物のための技術ソリューション
2024/10/18

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

スマートシティ*の設計担当者は、効率性の向上、二酸化炭素排出量の削減、建築工程の簡素化等を実現するための技術的解決策(テクノロジー・ソリューション)を求めています。


*先端技術を活用し、都市基盤の効率的な整備・管理を行う持続可能な環境配慮型都市



Article Body Text

中国四川省の省都、成都市にあるニュー・センチュリー・グローバル・センター(New Century Global Center:新世紀環球中心)は、高さ100メートル、床面積1.7平方キロメートルの世界最大の建物です。

店舗、住宅、オフィス、映画館、レストラン等が入居するこの巨大な建物は、セメント、鉄鋼、コンクリートの世界の総消費量の約半分を消費した、中国の建設ブームの証拠となる建物です1

もっとも、建材を大量消費しているのは中国だけではありません。

世界の建材の消費量は、2000年の67億トンからほぼ3倍の175億トンに増加し、建物のライフサイクルを通して二酸化炭素を排出し、廃棄物を出しています。

「使用する建築資材を減らし環境に配慮することは、世界の二酸化炭素排出量のほぼ40%を占める建設業界の最優先課題になっていますが、課題の実現のためには、新しい工法に適応し、革新的な技術を導入する必要があります」と話すのは、Carlo Ratti Associati (CRA)の創業パートナーであり、マサチューセッツ工科大学 センサブル・シティーラボ(Senseable CityLab)のディレクターを務めるカルロ・ラッティ(Carlo Ratti)教授 です。

世界の建設業界の生産性は、過去20年間横這いで推移し、同じ期間に効率性を年率3.6%改善した製造業とは対照的です2

ユーロ圏の建設業界は域内GDP(国内総生産)の8%を占める一方で、生産性の伸びを牽引する研究開発費の伸びは、わずか0.8%に留まります。

また、業界慣行も何十年間も是正されておらず、単純な部品を使い、建設現場で複雑な組み立て工程に沿った作業が行われています。

例えば、平均的な建物は7,000個以上の異なる部品を使いパーツを組み立て、それらを機能的な一体として構築する必要があります。

建設業界は、効率性を改善し環境負荷を減らすために、複雑な建築工程を簡素化する方法を見つける必要がありますが、心強いことに、新しい技術的解決策(テクノロジー・ソリューション)が開発され始めています。


新しいテクノロジー

設計を例に取って考えてみましょう。

設計の分野では、新しいビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)・ソフトウェアが、計画、設計、建築工程を一変させることが予想されます。

BIMは、データを使って仮想空間に実際の建物の模型を作り、オープン・クラウド・プラットフォーム上の作業を可能にします。

BIMアプリは、セメントや鉄鋼や木材がどのくらい必要か、二酸化炭素や廃棄物がどのくらい発生するか、などといった、建設業者が行う複雑な見積もりを容易にします。

コンピューター数値制御(CNC)は、特定の建築工程を自動化する有効な技術です。CNCは、「デジタル・ツイン」、即ち、コンピューター上に再現された実物の複製からデータを入手し、圧搾機、旋盤、ドリル、研磨機、ジェット水流、レーザー等を使用し部品を大量生産するための機械へ事前にプログラムを組み込みます。

一方、サプライチェーン管理(SCM)ツールは、デジタル・ツインを併用することで、部品の生産、配送、設置を自動化することが可能です。また、最適化した平箱包装(フラットパック)の建設資材をジャストインタイム方式で配送することで、現場での保管や組み立てに必要な時間や労力を最小限に抑えることが可能です。

拡張現実(AR)も、現場での組み立ての最適化に用いることが可能です。ARは現場で働く建設作業員に、リアルタイムのアドバイスと、設置のための遠隔技術支援を提供することが出来るからです。

ARは、経験の少ない作業員が、設計情報を理解するために必要とする時間を短縮することが可能です。実際に、ARアプリが情報の理解に必要な時間を半減したことを示す研究や、ARを使った工法が意思決定プロセスを77%短縮し、パネルを決定する際の作業効率が改善したことを示す研究結果が発表されています3


建設資材2.0

しかし、たとえ新しい工法を導入したとしても、環境に負荷をかけるセメントや鉄鋼を大量に使い続ける限り、こうした取り組みはほとんど意味をなしません。

建築資材のライフサイクルは、原材料の採取、製造、輸送、建設、廃棄の各段階で構成されますが、セメントや鉄鋼等が建設段階で排出する二酸化炭素は、典型的な建物のエンボディド・カーボン(内包二酸化炭素)のおよそ85%を占めています4

コンクリートは、環境に、特に大きな負荷を加えます。セメント業界が世界の二酸化炭素排出量全体のほぼ8%を排出していることを勘案すると、コンクリートは地球上で最も多く使われ、炭素排出量の観点では、恐らく最も有害な人工の建材です。また、工場で大量生産することが難しいため、通常、建設現場で型枠に流し込まなければならず、固まるまでに時間を要することも問題です。

もっとも、近年では、コンクリートをより効率的で環境に優しいものにするための新しい施工方法を模索する企業がみられます。

例えば、シンガポールを拠点とするプレキャスト・コンクリート社(Precast Concrete)は、工期を短縮するプレキャスト・コンクリートを製造しています。

製造工程のエネルギー効率を高め、耐用年数の長いコンクリートを作るために、化学添加物を使う企業も散見されます。スイスの化学会社シーカ(Sika)は、大量の二酸化炭素を隔離する革新的な工程で、解体コンクリート廃材を再生利用する技術を開発しています。



鉄鋼業界も脱炭素化に取り組んでいます。

鉄鋼は、高精度の特注部品の製造に適していることからCNC加工システムとの相性がよい一方で、大量の二酸化炭素を排出する高炉に依存し、エネルギー集約度が極めて高い素材です。現在、スタートアップ数社が原料炭の代替として、再生可能エネルギーや炭素回収・貯留技術を活用した、環境に優しいカーボンニュートラルな鉄鋼の生産を始めています。

現在、二酸化炭素排出量が極めて少ない溶鉱炉の世界平均は1.8トンですが、環境に優しい溶鉱炉技術、中でも水素を使ったものは、鉄鋼生産時の炭素強度を1立法メートル当たり0.2トン以下に抑えることが可能です

もっとも、課題は生産コストで、20年間で、従来型の鉄鋼生産コストを20~25%程度上回るものと試算されています5

木材も、環境に優しい鉄鋼の代替素材で、サステナブルな建材として信頼度の高い素材です。

木材は耐久性が高いことから、世界中で何世紀にもわたり建材として使われてきたものの、近年では建材全体に占める比率が低下しています。これは、耐久性や腐食耐性に優れ、大量生産が容易だと考えられるコンクリートや鉄鋼が普及したためです。

しかし今日では、次世代型工学技術の進化のお陰で、木材が復活しつつあります。最も将来性が見込まれるものの一つであるクロス・ラミネーティッド・ティンバー(CLT)は、板の繊維方向をクロスさせるように積層接着したパネルで、コンクリートと同等の強度を持ちながら重量はわずか5分の1の低炭素建材です6

「CLTは、複雑な工程を要する工場生産と現場での簡易な組み立てに最も適した素材で、技術の進化と規制の変更を背景に、広い敷地に点在するオフィスビルから高層ビルにいたる、あらゆる種類の建造物に使われるようになると考えます」と、ラッティ教授は話しています。

建物のエンボディド・カーボンは、構造用鋼材やコンクリート平板(スラブ)の代替として、CLTや集成材(断面寸法の小さい木材を接着剤で再構成した構造材)を使用することで、更に削減することが可能です。これは、CLT等の新しい技術が開発され、建材としての木材の人気が増しているお陰です。米国では、マスティンバー(複数の木材を組み合わせた大型の木材部品)を使った建物が2年ごとに倍増しています。2030年代半ばには、その数が24,000件に達することが予想されますが、その時点で、建設業界は、二酸化炭素の回収・貯留が排出を上回るネガティブ・カーボンを達成する可能性があると期待されています7

“CLTは、広大な敷地に点在するオフィスビルから高層ビルまで、あらゆる種類の建造物に使われるようになるでしょう。”


建設業界の未来

世界が「ネットゼロ」を達成するには、建設業界が無駄を削ぎ落し、サステナブルな業界に生まれ変わることが必要です。BIMやCLT等の新しい技術や豊富な代替建材が、業界の変革を助けることになるでしょう。

 

投資のためのインサイト

ピクテ・テーマ株式運用チーム、シニア・インベストメント・マネージャー イヴォ・ヴァイノアール(Ivo Weinohrl)によると


都市化は、21世紀の最も強力なメガトレンドの一つであり、都市開発に関連するあらゆる分野に巨額の投資を呼び込むことが予想されます。同時に、世界は二酸化炭素のほぼ40%を排出する建設業界を中心に、脱炭素化に向けた動きを加速させるものと思われます。


よりサステナブルで効率的な建設ソリューションに積極的に貢献する革新的な製品やサービスは、技術革新の進展に伴い、より速いペースで増え続けるものと考えます。国際エネルギー機関(IEA)は、建物のエネルギー効率改善のための投資額が、2023年の年間2,440億米ドルから、2026年~2030年にはネットゼロ・シナリオ下で、5,370億米ドルに拡大すると試算しています。


ピクテは、建設・設計ソフトウェアから、断熱材、暖房・換気・空調(HVAC)、自動制御・管理システム(コネクテッド・システム)等、よりエネルギー効率の高いソリューションに至る様々な分野で魅力的な投資対象を発掘し、都市化、脱炭素化、デジタル化の3つのメガトレンドを支えに、資産のサステナブルで長期的な成長を実現したいと考えます。

 

 

  1. Huang., B et al (2020) A Life Cycle Thinking Framework to Mitigate the Environmental Impact of Building Materials
  2. McKinsey research
  3. Xu et al (2022) A Review of Using Augmented Reality to Improve Construction Productivity
  4. Modelled on a typical eight-story commercial office building. Source: McKinsey
  5. https://www.mckinsey.com/capabilities/sustainability/our-insights/net-zero-steel-in-building-and-construction-the-way-forward
  6. College of Natural Resources
  7. North American Mass Timber Report: 2020 State of the Industry

●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。




関連記事


主要国のニュー・ノーマル

金:より変動の激しい道を進むのか?

米大統領選:それぞれの選挙公約から金融市場への影響を考える

ハイイールド債:利下げを受けて一息つけるか?

主要国国債: 足元の状況を確かめる

米国:金融政策の正常化か労働市場の救済か?