Article Title
金融市場の見通し(2025年5月)
2025/05/14

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

トランプ米大統領による包括的貿易関税の発表により金融市場は大混乱しましたが、現在では落ち着きを取り戻したように見えます。
この混乱した時代を乗り切るには、大局的な視点を持ち、冷静さを保つことが重要でしょう。



Article Body Text

一時的ではあるかもしれませんが、世界の金融市場は落ち着きを取り戻しました。トランプ米大統領が2025年4月2日に発表した包括的な貿易関税によりもたらされた金融市場の大混乱は、ほとんどの国に対する関税賦課の一時停止と、米中が90日間の関税引き下げに合意したことで一応の収束を見せました。また、一部の製品への例外措置も功を奏しました。しかし、当初の関税発表や、最近では勢いが和らいだものの、トランプ大統領がパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長を強く批判したことで、米国の国際的な評判が傷つき、回復には時間が要すると思われます。

その結果、企業と消費者の双方で信頼感が低下し、市場は不安定さを増して値動きに対して神経質になっています。主要企業は従業員を解雇し、サプライチェーンの問題に直面しており、多くの企業が今後の見通しを示せない状況にあります。先行きの不透明感は米国の家計にも影響を与えており、今後の価格上昇を懸念して買い物を前倒しするケースも見られます。

規制緩和や減税が時間の経過と共に効果を発揮するかもしれませんが、世界最大の経済国である米国は問題を抱えており、景気後退のリスクも依然としてあります。この先行き不透明感により、今年の企業収益は伸び悩むと予想され、リスクの高い資産、特に米国株式への投資には慎重な姿勢が求められるでしょう。一方、ユーロ圏では、物価上昇圧力の緩和により利下げの余地が生まれ、ユーロ投資適格債の魅力が高まっています。

関税問題は世界の経済的枠組みの変化を加速させています。第二次世界大戦後の枠組み、つまり米国が外国資本と引き換えに、経済の安定、安全保障、高い投資リターンを提供するという構図が、米国の政策が世界最大の経済に対する信頼を損なうにつれて崩れつつあります。米国資産に対する外国からの累積投資残高が大きいため、諸外国の米国からの資金引き揚げに対する懸念が高まっています。同時に、ドイツが財政支出に前向きな姿勢を示したことは、欧州全体に影響を及ぼし、融資の伸びと金融緩和に支えられた構造的な景気回復を促す可能性があります。また、中国政府は米国との関税をめぐり、強硬姿勢を貫く構えを見せています。これは、テクノロジー分野での成功によって、米国企業に対して競争力を持つ中国企業が現れたことから、中国が世界的な経済大国としての自信を持つようになったことを示しています。

このように混乱した時代を乗り切るには、大局的な視点を持ち、冷静さを保つことが重要でしょう。


■ 抑えておくべき3つのポイント

1. 混乱の収束

・ 2025年4月2日に発表された米国の関税措置により、世界の金融市場は大混乱しましたが、ほとんどの国に対する関税賦課の一時停止と、早期の交渉によって一応の収束を見せた。

・    米中間で、90日間の関税引き下げを合意。

・    しかし、関税の発表と、最近では激しさが和らいでいるものの、トランプ大統領がパウエルFRB議長を強く批判したことで米国の国際的な評判が傷つき、回復には時間を要する。

・    金融市場の先行きは不透明であり、米国の景気後退の可能性が残る。多くの企業が今後の見通しを示せない状況にある。

2. 世界の経済的枠組みの変化

・ この関税問題は、世界の経済的枠組みの変化を加速している。

・    技術革新が実を結び、米国企業に対して競争力を持つに至った中国企業が見られる。

・    米国の政策が世界最大の経済に対する信頼を損なっていることから、第二次世界大戦後の世界の枠組みが揺らいでいる。

・    米国からの資本の引き揚げリスクが現実的に高まっている。

・    これは米ドルに対する他の通貨の上昇圧力となる。

3. 欧州への選択肢

・ 米国の政策をめぐる不確実性により、リスク資産、特に米国株式に悪影響が及ぶ可能性が高い。

・    一方、欧州全体では、資金の増加、融資の伸び、金融緩和に支えられた構造的な景気回復が進行している。

・    ユーロ圏での物価上昇圧力の低下は米国とは対照的であり、欧州中央銀行(ECB)が利下を行う余地を生み出している。


●当資料はピクテ・グループの海外拠点からの情報提供に基づき、ピクテ・ジャパン株式会社が翻訳・編集し、作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら




関連記事


衰えを知らない中央銀行の金需要

米国離れが進む

AIの経済効果を予想する

新たな世界秩序

2025年5月の新興国株式市場

トランプ政権下での環境投資を語る