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- 新たな世界秩序
米国の関税政策から新興国の役割の拡大に至るまで、世界は変化しています。
英国、ドイツ、日本、中国でフランス大使を務めた経験を持ち、現在はピクテ地政学アドバイザリーボードのメンバーであるモーリス・グルドモンターニュ(Maurice Gourdault-Montagne)氏が、この変化にどのように対処すべきかを提言しています。
第二次世界大戦以来続いてきた世界秩序が疑問視されています。国連安全保障理事会や世界貿易機関(WTO)などの国際機関も同様に、その存在意義が問われています。これらの機関は機能しているものの、十分であるとは言い難い状況です。グローバル・ガバナンスはうまく機能しておらず、さらに問題なのは、世界の現実に適合できていないことです。新興国は国際舞台でより大きな発言力を持つ必要があり、数百年にわたって続いてきた欧米主導の世界は終わりつつあるように見えます。
このことにより、世界各国がそれぞれの立場を再構築する機会が生まれ、国際的な協調関係に注目が集まっています。BRICS諸国は、成長、資源、人口動態の面で強力なダイナミズムを持っており、この傾向は今後も続くでしょう。
現在、世界で起きていることは、人々が中国やその他のBRICS諸国に同調し結束するのを促進するだけでしょう。今年7月にリオデジャネイロで開催されるBRICSサミットでは、加盟国のさらなる拡大が見込まれています。BRICS加盟国は、穀物やエネルギー分野を含む協力プラットフォームの開発の推進とともに、新開発銀行(NBD)への出資を継続していくと見られ、さらに脱米ドル化も長期的なプロジェクトとして進められています。
BRICS加盟国の中心的テーマは、おそらく米国からの圧力をどのように回避し、西側諸国の制裁が及ばない空間をどのように構築し続けるかになるでしょう。
中国は安定した国家としてのイメージを打ち出し、現在の米国の予測不可能な動向に影響を受けている国々を結束させようとしています。中国は、ロシアに起きた資産の差し押さえや凍結のような事態を恐れており、それを回避できる形で世界を再編しようとしています。「一帯一路」構想がその一例です。この構想の目的は単に過剰生産能力を輸出するだけでなく、非常に良好な関係を築く「友好国」の政治的ネットワークを構築することにあります。これは、中国による二国間ベースによる多国間主義と言えます。また、中国に制裁が課された場合でも、他国が中国との貿易を継続できるようにするための取引手段の整備を優先的に進めています。
通貨に関しては、人民元が米ドルにとって代わるには、中国の資本市場が開放される必要があるため、その可能性は低いでしょう。しかし、米ドル以外の通貨で行われた取引に占める人民元の割合が、ここ数年のうちに1%から3.5%まで増加したことを考えると、人民元の役割は今後さらに拡大していくものと思われます。
G7についての長期的な見通しは不透明ですが、ロシアが復帰する可能性は低いと見ています。G20については、多くのBRICS諸国、G7諸国、その他数か国で構成され複雑さを内包した枠組みという性質もあり、関税、自由貿易、国連憲章の原則など主要課題をどのように管理していくのか、現時点で論じることは難しい状況です。
欧州もまた、新しい世界秩序の中で自らの立ち位置を見つける必要があります。欧州連合(EU)は中国との貿易関係を再開しており、インドなどの国々とより緊密に協力する方法を見つけるかもしれません。再編が進む世界では、多くのことがまだ流動的な状態にあります。
米国がグローバル・アジェンダを手放すとは思いません。トランプ大統領が目指しているのは、米ドル安を進め、米国を再工業化することによって、市場を支配するような形で国際貿易を再構築することです。米国は現在の国際貿易の仕組みに満足していません。米国が孤立主義を望んでいるかどうかはわかりませんが、長期的なニーズを満たすことを望み、そのためには強硬で物議を醸すような手段を取ることも厭わない姿勢でいることは確かです。「米国を再び偉大にする」というスローガンは、米国の支配を意味します。
しかし、米国が再び工業化を進めるには時間がかかるでしょう。その間は、欧州にとって有利な貿易体制を再構築する好機だと思います。
欧州はBRICS諸国よりも米国を警戒すべきなのかという疑問があるかもしれませんが、特定の国や地域を恐れる必要はありません。重要なのは現実を正確に把握し、冷静な判断を行うことでしょう。同盟関係も大切ですが、まずは自国の立場を明確にし、実際に行動することが求められます。欧州はBRICS諸国と建設的な協力関係を模索すべきだと考えています。欧州は自らの成長と利益を見据え、適切なパートナーシップを築きながら国際社会の中でその役割を果たしていくことができるはずです。
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