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事業売却後の起業家向けコミュニティを構築する
2025/09/30

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概要

ルイ・デブジー(Louis Debouzy)氏は最初の会社を売却したとき、虚無感と行き場のない淋しさを感じました。そこで、このフランス人起業家は同じ立場の人々のためのクラブを立ち上げ、現在は新たな投資クラブも開始しています。



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エグジットクラブ(Exit Club)の誕生

ルイ・デブジー(Louis Debouzy)氏は、自分がExit Clubを設立することになるとは思ってもいませんでした。パリを拠点とする招待制のこの組織は、事業を売却して成功した起業家たちを集めています。彼らはしばしば多額の資金を手にする一方で、それまで情熱を注いできたビジネスがなくなり、空白を抱えたように感じています。

彼は2022年7月に最初の事業であるアマビリス(Amabilis)を売却した直後にこのアイデアを思いつきました。それは、フォーブス(Forbes)の「30 Under 30(30歳以下の30人)」に選ばれた翌年のことでした。「売却した瞬間、複雑な感情がありました」と彼は言います。「もちろん、事業を売りたいと思っていました。そしてお金が銀行口座に入金されたとき、とても幸せでした—おそらく、ほんの数秒間だけですが。」

「その時、深い虚無感、アイデンティティの喪失感を感じました」と、彼は続けます。しかし、共感を得ることは難しかったようです。「周りからは『あなたは今お金持ちになったのですよね。会社を売却したのに何が不満なのですか?』と言われました。確かにそうかもしれません。でも、私は本当にこの虚無感を味わっていたのです。」

“多くの人が事業の売却後に実際に身体的な不調を経験します。
パニック発作、動悸、不眠、呼吸困難など。これはとても一般的なことです。”

— ルイ・デブジー(Louis Debouzy)


共感し合える仲間を見つけるために、彼はエグジットクラブ(Exit Club)を設立し、現在は300人の会員がいます。彼らは直接会ったり頻繁に話したりしていますが、誰も会費を払っていません。これは事業を売却し、志を同じくする起業家たちのコミュニティで、デブジー氏によれば、他では支援が得られない人たちが集まっているといいます。

「多くの人が事業の売却後に実際に身体的な不調を経験します。パニック発作、動悸、不眠、呼吸困難などですが、これはとても一般的なことです」と同氏は話します。彼はイグジットクラブに参加することは一種のセラピーだとも述べています。

しかし、デブジー氏は同情を求めているわけではありません。これは彼自身の個人的な事情を考えるとさらに驚くべきことです。彼は8歳のときに衰弱性の治療不可能な筋肉疾患と診断され、21歳から車椅子生活を送っています。実際、彼の起業家としてのキャリアの第一段階と、30歳での事業売却は、彼の個人的な事情を土台にして築かれたものでした。

ベッドから起き上がること、トイレに行くこと、車椅子に乗ることなど、生活の多くの部分に助けが必要なヤングアダルトとして、彼はフランス介護の実情に「衝撃を受けた」と言います。介護者が約束の時間に来ないことが頻繁にあり、午後まで動けずにベッドに閉じ込められた日が何度もあったことを覚えています。帰宅時に手助けしてくれる人がいなかったため、夜に外出することもできませんでした。

売却を選ぶ

デブジー氏は23歳の時、自身の障害体験に着想を得て在宅介護会社アマビリス(Amabilis)を設立しました。

アマビリスはこの分野でのソリューション提供を事業の基盤としており、売却時には従業員数は250人に上りました。デブジー氏は自らの障害が成功の原動力になったと語ります。「私は『車椅子に乗っている』と言われるのは好きではありません。しかし、障害が起業家マインドを育むことを認めます。ドアを開けられない、肉を切れないなどの基本的なことができないとき、別の解決策を見つけなければなりません。それこそが起業家の定義です。起業家とは、対処すべき問題を解決する方法を見つける人のことを指すのです。」

デブジー氏は特定の売却計画を持っていなかったと言います。当初はアマビリスを無期限に経営するつもりでしたが、好条件のオファー、他のことをしたいという願望、そして重度ケアを基盤とする労働集約型の事業を運営する難しさ(従業員が来なければ、利用者が命を落とすかもしれない懸念)が重なり、売却を決意しました。フランスの労働法により、フリーランスを雇えないことも一因だったと同氏は語ります。

“多くの人は、事業を売却する時でさえ、プライベートエクイティが何かを知りません。自分の事業に集中しすぎるあまりに知識が不足しているのです。”

— ルイ・デブジー(Louis Debouzy)


エグジットクラブは仲間同士の共感やアドバイスの機会を提供するだけでなく、実用的な役割もあるとデブジー氏は言います。事業を売却した起業家の多くは、ウェルスマネジメントやファミリーオフィスに接したことがなく、個人資産の運用方法について考えたこともありません。「多くの人は、事業を売却する時でさえ、プライベートエクイティが何かを知りません。自分の事業に集中しすぎるあまりに知識が不足しているのです。」

オーグメント(Augment)の立ち上げ

エグジットクラブは実用的なアドバイスやガイダンスと共に社交イベントも企画しています。しかし、それを営利事業にするつもりはありません。デブジー氏は現在、最新の企業であるオーグメントを立ち上げました。これは、同氏によれば「人間をより賢く、より速く、より強くする技術」に投資する投資クラブです。オーグメントは長寿化やヘルステックに関するテクノロジー、そして軍事・宇宙技術での用途を想定したAIの開発に注力し、いずれも人間がこれまでできなかったことを可能にする進歩というテーマで結びついています。

フィギュアAI(Figure AI)は、デブジー氏が2025年に設立したオーグメントが投資している企業の一つです。同社は人間の身体能力を拡張する人型ロボットを設計しています。

オーグメントが投資している企業の一つであるフィギュアAI(Figure AI)は、AIを搭載し「自律性、バランス、目的」を備えた人型ロボットを設計しています。もう一つの企業であるアルトス・ラボ(Altos Labs)は、細胞若返りの分野のパイオニアで、老化した細胞を再プログラムして若々しい機能を取り戻させる研究を行っています。

2025年に設立されたオーグメントは、自身の身体的な状態を省みたことから生まれたとデブジー氏は語ります。「私自身がオーグメント(Augment:強化)された人間です。車椅子があり、コンピュータがあり、電話があります。100年前でしたら、私のような身体的状態にある人は、事業を構築することはできなかったでしょう。」

現在、デブジー氏はこのような分野のプラットフォームに投資するため、志を同じくする人々から資金を募っています。オーグメントは設立からまだ数ヵ月の初期段階にあり、同氏はこれ以上の詳細を明らかにする立場にありません。しかし、ほとんどの成功した起業家と同様に、彼は身体的状況を理由に次の事業を諦めるような人ではありません。


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