Article Title
米国予算教書の不安が早くも露呈?
梅澤 利文
2019/03/15

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

大統領が議会に翌会計年度の予算案を示す20会計年度の予算教書がようやく提出されました。インフラ投資などが含まれ景気下支えへの意欲が見られる一方、国境の壁建設予算を20年度に86億ドルを計上するなど、議会の審議は難航が想定されます。予算成立が長引けば、政府機関閉鎖や債務上限の問題も懸念されるだけに、今後の動向に注意が必要と見ています。



Article Body Text

米大統領予算教書:国境警備を盛り込んだ大統領予算案、審議の難航は必至か

米国トランプ政権は2019年3月11日に20会計年度(19年10月~20年9月)の予算教書を議会に提出しました。歳出面では国防費や国境警備の予算増額を10年間で5100億ドル、インフラ投資計画を同1990億ドル予算計上しています。一方で、医療保険制度の無駄遣いや、債務軽減、金利低下効果などで歳出削減も示されています(図表1参照)。

なお、米上院は3月14日の本会議で、トランプ大統領がメキシコ国境の壁予算を得るために行った国家非常事態宣言を阻止する決議案を賛成59、反対41で可決しました。先月の下院に続き、難しいと見られていた上院でも拒否の姿勢が示されました。

ただ、大統領の拒否権を覆すのに必要な67票には届かなかったため、トランプ大統領は初の拒否権行使を行う公算が高まっています。

 

 

どこに注目すべきか:予算教書、ベースライン、財政赤字、壁建設

大統領が議会に翌会計年度の予算案を示す20会計年度の予算教書がようやく提出されました。インフラ投資などが含まれ景気下支えへの意欲が見られる一方、国境の壁建設予算を20年度に86億ドルを計上するなど、議会の審議は難航が想定されます。予算成立が長引けば、政府機関閉鎖や債務上限の問題も懸念されるだけに、今後の動向に注意が必要と見ています。

まず、予算教書の大枠を、米行政管理予算局(OMB)の試算(予想)を元に振り返ります。図表1の2029年度までの財政赤字(したがって、プラス軸は赤字を示す)予想は3つのパーツで構成されています。

ベースラインの赤字額は、現状の政策が続くと仮定した場合に機械的に算出される財政赤字額というイメージです。これに加えて、国防費や壁建設予算、インフラ投資などが「歳出増」として計上され、一方で、医療保険制度の改革や、医療保険制度の無駄遣い、国防費以外の裁量的経費削減(最大の削減項目)が「歳出減」として計上されています。「合計」はベースライン、歳出増、歳出減を合計したもので、各会計年度に想定される財政赤字額となります。

財政赤字の対GDP(国内総生産)比率を見ると、29年度には0.6%にまで低下が想定されています。しかし、財政均衡は「15年以内に解消」と先送りされました。

今回の予算教書にもとづく今後の議会審議では次の点が懸念されます。

まず、歳出を減らす項目は、社会保障や医療保険制度の改革に重点を置いており、社会保障を重視する傾向がある民主党の反発は必至と見られることです。

予算の前提である経済見通しにも疑問があります。例えば経済成長率の前提は3%前後となっており、予想の実現性に疑問が投げかけられる恐れがあります。

もっとも問題となりそうなのが国境の壁建設予算費の計上です。壁建設予算のためトランプ大統領は国家非常事態まで宣言しましたが、共和党からも壁建設には賛成でも、国家非常事態の宣言による議会軽視には反対者も出ています。反対姿勢は直接予算に関係ないとしても、共和党との団結力にほころびが見られる点は気がかりです。

市場の懸念として、9月末までの予算成立が見込みにくい中、場合によっては再度の政府機関閉鎖や債務上限の問題が浮上する可能性も考えられ、注意は必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


東京都区部CPIの注意点と注目点

円安に見る、日銀ゼロ金利政策解除は単に出発点

中銀ウィーク、FRB以外に見られた注目点とは

3月のFOMC、年内3回利下げ見通しを何とか維持

ECB、政策金利の運営枠組み見直しを発表

2月の米CPI、インフレ再加速の証拠は乏しいが