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- トランプ大統領:イスラエルとイランの停戦合意発表
イスラエルとイランの戦闘で、原油価格の急騰や円安進行などが見られた。しかし、トランプ大統領が停戦合意を示唆するSNSへの投稿で市場は安定に向かいつつある。イスラエルが米国から軍事支援を受ける中、戦争の長期化リスクはかえって低下した可能性もある。当然、不測の事態で戦闘が再燃するリスクを完全に排除はできないが、戦争の収束に向けた動きが進む可能性が高まっているようだ。
トランプ大統領、イスラエルとイランが停戦に合意とSNS に投稿
イスラエルが6月13日にイラン中部ナタンズの核施設や軍事施設などへの攻撃に端を発し、両国の戦闘が始まった。21日には米国がイランの3か所の地下深くにある核施設を攻撃した。
市場の緊張は急速に高まり、原油価格は急上昇した。為替市場では様々な憶測があったが、「有事のドル買い」が強まり、1ドル=148円台まで円安・ドル高が進行する局面もあった(図表1参照)。
しかし、トランプ米大統領が23日に自身のSNSに「平和の時が来た」などと投稿し、イスラエルとイランが完全な停戦で合意したとも投稿した。
不安は残るが、市場は楽観的な見方が優勢となりつつあるようだ
トランプ大統領の投稿がどこまで正確なのか現時点(日本時間24日正午)では判断しがたい。また、イランのアラグチ外相は、「イスラエルがイラン時間の(24日)午前4時(日本時間同9時30分)までにイランに対する違法な侵略を停止した場合、反撃を続ける意図はない」とXに投稿した。しかし、報道によると、期限の時刻後にもイランからイスラエルへのミサイル発射が伝えられているなど中東の緊張には流動的な面も残る。
しかし、市場の雰囲気は大きく変わり、原油価格は概ね危機発生前(12日)の水準に戻った。危機に直面して円高なのか円安なのか気迷いも見られた円は、中東の緊張の高まりを受け結局円安が進行したが、こちらも元の水準に戻りつつある。トランプ大統領の投稿に沿って停戦合意が進むのか不安もある中で、紛争長期化のリスクは低下したとの見方が強まっている。その背景を整理する。
まず、戦力格差が明らかなことだ。グローバル・ファイヤーパワーの軍事力ランキングを参照すると世界の軍事力ランキングでイスラエルは15位、イランは16位と大差はない(145ヵ国中)。兵力ではイランが上回っている。しかし、空爆主体となった今回の交戦では、イスラエルが米国の最新鋭機を擁するのに対し、イランの航空機はロシア製が多いことから見劣りする。そのうえ、世界で軍事力トップの米国がイスラエルに加担したことで戦力格差は明確になったと見られる。
なお、イランの支援に回ると見られたロシアと中国も世界有数の軍事力を誇る。両国は22日の国連安保理ではイランを擁護する姿勢を示した。しかし、軍事支援の動きは少なくとも報道されていないようだ。圧倒的な戦力格差のままであるなら、戦争の長期化は見込みにくい。
次に、イランの核保有はイスラエルだけでなく、中東の戦力バランスを崩す恐れが挙げられる。そうなると中東諸国もイラン支持は打ち出しにくい。ストックホルム国際平和研究所によると、世界で「核弾頭」を保有している国は現在9ヵ国とされている。中東ではイスラエル(公式に核保有をみとめていないが)を除けば保有国はない。
イランは長年にわたり核開発を進めてきた。イスラムの盟主であるイランが核保有となれば中東での軍事バランスが崩れる恐れもある。国際原子力機関(IAEA)によると、イランの高濃縮ウランの保有量は400キロを超え、核兵器級に濃縮度を高めれば核爆弾9発分に匹敵すると報告書で指摘している。中東諸国はイランの核開発を阻止するイスラエルの動きを複雑な思いで見ていたとすれば、イランを支援する勢力は中東であっても限られていたのではなかろうか。
米国は長期的な戦闘は望んでいないと思われる
米国が長期的な戦闘を望んでいないとみられることもおそらく楽観的な市場マインドを後押ししたのだろう。過去の地政学リスクを見ても、市場への悪影響があるのは事態が長期化、深刻化したケースであり、短期的なら影響は限られよう。
トランプ大統領の基本的に海外の問題への介入に消極的だ。米国は世界の警察ではないスタンスだからだ。そのうえ、米国内でもイランへの軍事攻撃には民主党だけでなく、共和党にも反対の声があるようだ。イランとの戦争を長期化させることは念頭にないようだ。この点で参考になるのがバンス米副大統領の22日のコメントで、「我々はイランを攻撃したのではなく、イランの核開発計画を攻撃した」と攻撃の意図を説明している。
「イランへの攻撃」の意味ははイランの体制変更との闘いとほぼ同義であろう。体制変更は厄介で、アフガニスタンの例を持ち出すまでもなく、体制変更を求める戦いは長期化が想定される。最悪のケースでは事態が泥沼となる恐れもある。しかし、少なくとも米国のコメントからは、戦闘継続ではなく、交渉へシフトさせたい意向があったことを市場は察知したようだ。
なお、イランはカタールにある米軍基地に向けてミサイルを発射するなど反撃の構えを見せてはいるが、攻撃は限定的であり、基地や米国人への被害がほぼなかったと報道されている。イランとしては強硬派に対するガス抜きの攻撃のようでもあった。このことも、背後ではイランと外交交渉を進めていたのではとの市場の観測を後押ししたようだ。
交渉の前提となる、イスラエルとイランの戦闘停止については情報が錯綜している面もあるが、イランとイスラエルの間で停戦が合意されたと報道されている。不測の事態で戦闘が再開する可能性を排除はできないが、概ね戦闘は収束に向かう方向にかじを切っているようだ。
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