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ECB、イラン軍事衝突で次の行動は利上げも視野
梅澤 利文
2026/03/26

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概要

欧州中央銀行(ECB)は政策金利を2.0%に据え置き、エネルギー価格高騰によるインフレ懸念を強調した。イランでの軍事衝突を受け、市場は利上げを予想するが、ECBは慎重な判断と迅速な対応の両立を表明した。今後は経済指標やコモディティ市場の動向、供給制約などを判断する必要がある。イランを巡る軍事衝突を受け、インフレ再加速への警戒から、ECBの次の行動として利上げが視野に入った。




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ECB、政策金利は据え置きながら、不確実性を見守る姿勢にシフトした

欧州中央銀行(ECB)は3月19日に開催した理事会で、市場予想通りに政策金利(中銀預金金利)を2.0%に据え置くことを決定した(図表1参照)。据え置きは6会合連続となる。

ラガルド総裁は理事会後の会見で「イラン戦争によるエネルギー価格の上昇により短期的にインフレ率は2%超に押し上げられる」との懸念を示した。そのうえ、インフレ高止まりが続き、間接的・二次的な波及効果を通じてインフレ率の上昇が広がることに懸念を示した。これまでの据え置きでは「様子見するのに良い位置にいる」としていた。しかし不確実性の高まりを受け、「不確実性を乗り切るのに十分な立場にある」と表現した。

ECBのユーロ圏経済見通しは物価予想を大幅に上方修正した

2月末に発生したイランなどでの軍事衝突(以後、イラン戦争)前、ECBはユーロ圏の経済状況などから政策金利は据え置くのに良い位置にあると表現し続けた。市場も同様の見方をする一方で、次のアクションは利下げとの見方もあった(筆者もそう考えていた)。しかしイラン戦争を受け、市場は次のアクションを利上げへとシフトさせた。今回の理事会は市場の見方に概ね沿った内容だ。しかし、日々情報が錯綜する中、今後の展開を慎重に判断する姿勢も強調しており、情勢を見極めたうえで次を判断することになりそうだ。

ECBの姿勢の変化は四半期ごとのユーロ圏経済見通しに色濃く反映されている。(図表2参照)。ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は26年から28年の各年のインフレ見通しがすべて上方修正されており、物価への懸念が示唆されている。見通し算出の前提である原油や天然ガス価格は市場動向を反映して前回に比べ大幅に上方修正された。例えば、26年の欧州の天然ガス価格は46.4(ユーロ/メガワット時(MWh))となっている。

なお、ECBはステートメントで、今回の見通しを作成するデータの期限(カットオフ)を3月11日と異例に遅い時期での設定にしたと指摘している。イラン戦争の影響を受けやすい市場データなどを、ぎりぎりまで反映させるためであろう。当局の関心の高さがうかがえる。

図表2のインフレ見通しを見ると、エネルギーなど変動の大きい項目を除いたコアHICPの26年の伸びは2.3%と、前回から0.1%の上方修正幅にとどめられた一方、HICPは0.7%と大幅な上方修正となっている。この違いはエネルギー価格の影響度合いを反映しているのだろう。

一方で、26年のHICP以外の上方修正幅は比較的小幅で、エネルギーによるインフレ高止まりが間接的・二次的な波及効果を通じてインフレ率を押し上げる懸念については今後のデータ次第のスタンスと思われる。ラガルド総裁はロシアによるウクライナ侵攻でユーロ圏のインフレ率が2桁台に押し上げられた2022年の経験をトラウマ(?)に、現在のエネルギー高騰がより広範なインフレにつながる恐れがあれば、迅速に行動することを強調した。

行動(利上げのこと)を躊躇しない点について、ラガルド総裁は25日の講演でも同様のコメントをしており、物価安定を重視する姿勢は強いようだ。

ただし、条件反射的な対応については釘を刺した。ラガルド総裁は2022年との違いとして、ウクライナ侵攻時点でインフレ率は6%であったこと(足元は1.9%)や労働市場が当時ほどタイトでないと指摘している。イラン戦争の規模や持続性、そのインフレへの波及について十分な情報が得られる前には行動しないことも強調している。要するに、慎重に判断し、迅速に行動する構えということだろう。

ECBのインフレ再加速回避は明確だが、景気にも注意は払うだろう

したがって、何のデータを見るかが重要となるが、会見でラガルド総裁は注目点を示した。具体的には経済指標として需要を見るうえで購買担当者景気指数(PMI、図表3参照)、労働市場としては賃金トラッカーなどを挙げた。加えて(原油など)コモディティ市場の動向や供給制約の有無なども見る必要があると指摘している。

ウクライナへの軍事侵攻後、ユーロ圏のインフレ率が2%を下回ったのは24年9月と2年以上に及ぶ物価高騰となった。エネルギー価格上昇が他に波及したからで、同じ轍は踏みたくないだろう。

ただし、24日に発表されたユーロ圏のPMIでは、サービス業は3月が50.1と、節目の50に近づき景気悪化の兆しが見られた。ユーロ圏の他のサーベイでも景気への不安感が示されている。ただし、PMIのような調査データは先行性が高いものの、調査時点の状況(イラン戦争)に大きく左右されることもあり慎重な判断が求められよう。

ECBは不確実性を乗り切る立場にあるため慎重に判断を進めるが、インフレ再加速への警戒感から、6月以降の利上げをメインシナリオとしている。ただ、データ次第では4月の可能性もゼロではなかろう。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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