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米9月の消費者物価指数、インフレ圧力は残るが
梅澤 利文
2023/10/13

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概要

米国の9月の消費者物価指数(CPI)は、サービス価格に根強いインフレ圧力が残ることが示されました。米金融当局は高水準の政策金利を長期にわたり維持する必要性が高いことを示唆されたとみています。もっともこれまでの引き締めを受け、緩やかながら物価上昇は減速傾向となっており、インフレ率が再び力強く加速することまでは、今回のCPIでは見通せないように思われます。




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米9月のCPIは緩やかな減速を維持したが、インフレ圧力は根強い

米労働省が2023年10月12日に発表した9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が3.7%と、市場予想の3.6%上昇を上回りました。 8月は同水準でした(図表1参照)。前月比は0.4%上昇と、市場予想の0.3%上昇を上回ったものの、前月の0.6%上昇は下回りました。

変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年同月比では4.1%上昇と、市場予想と同水準でしたが、前月の4.3%上昇を下回り緩やかながら減速傾向が維持されました。前月比は0.3%上昇と、市場予想、前月(共に0.3%上昇)と同水準となりました。物価上昇の再加速懸念は一服となるも、インフレ圧力は根強いことが示されました。

エネルギー価格の上昇圧力は和らぎ、食料品価格に落ち着きが見られた

米9月のCPIは前月比で0.4%上昇と、前月を下回るも依然高水準で、インフレ圧力の根強さが示されました。この前月比の上昇率を寄与度で振り返ります。CPIの構成をエネルギー、食料品、財、及びサービスの各項目に分類し、9月分について各寄与度の要因を振り返ります(図表2参照)。

8月のエネルギーの寄与度は主にガソリン価格の上昇を受け押し上げられました。しかし、8月は前月比で約10.6%と急上昇したガソリン価格は、9月は約2.1%と依然高水準ながら落ち着きを取り戻したことが寄与度低下の主な背景です。なお、全米自動車協会によるガソリンの取引価格を見ると10月はこれまでのところ下落傾向となっています。

次に、自動車やパソコンなどを含む財価格は下落(寄与度はマイナス)しました。中古車は前月比でマイナス2.5%下落しました。食料品価格は前月比で0.2%上昇と落ち着きを取り戻しています。

一方で、サービスの寄与度は前月を大幅に上回っています。サービス価格は前月比で0.6%上昇と、前月の0.4%上昇を上回りました。サービス価格に物価上昇圧力が残っています。

サービス価格にインフレ上昇圧力が残されていることが示された

サービス価格の内容を確認します。サービス価格がCPI全体に占める割合は58.3%ですが、その約6割は住居費(主に賃料と持ち家を家賃換算する帰属家賃)が占め、残りをメディケア(医療)、輸送、娯楽、教育/通信などの各サービスが構成しています。そこでサービス価格を住居費とそれ以外に分けて内容を振り返ります。

住居費は前月比0.6%上昇と、前月の0.3%上昇を上回りサービス価格の押し上げ要因となりました。賃料は0.5%上昇と前月から横ばいでしたが、帰属家賃は9月が前月比0.6%上昇と、前月の0.4%上昇を上回り押し上げ要因となりました。なお、住居費には賃料など以外にホテル宿泊価格も含まれますが、9月のホテル宿泊価格は前月比4.2%と、前月のマイナス3.6%から急上昇という特殊要因もサービス価格を押し上げたとみられます。

住居費の大半を占める賃料と帰属家賃は、新規契約物件の家賃を示すZillow家賃指数に遅行する傾向があるとみられます。Zillow家賃指数はすでに低下していることから、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も賃料の低下を想定していますが、なかなか下がらないことに、気をもんでいるのかもしれません。住居費は当面注視が必要です。

サービス価格でより気になるのはサービス価格から住宅関連やエネルギー価格を除いた(スーパーコア)が前年比では減速傾向となったものの、前月比では約0.6%上昇となり、サービス価格の押し上げ要因であったことです(図表3参照)。

スーパーコアの中で価格が比較的高い伸びを示したのは、メディケア(医療)に含まれる病院代、その他に自動車保険、就学前幼児のデイケアサービス、輸送、娯楽などの幅広い項目に価格上昇がみられました。先日発表された9月の米雇用統計でも医療分野は採用意欲が強い部門の一つであったことを考え合わせても、インフレ圧力が残されていることがうかがえます。

一方で、8月には前月比4.9%上昇となった航空運賃は、9月が0.3%上昇にとどまるなど、落ち着きを見せたものもあります。そこで今後の展開を占うと、スーパーコアに含まれるサービスは人件費の割合が高いことから、賃金動向が今後を左右すると思われます。9月の米雇用統計で平均時給を見る限りでは賃金の減速傾向は続いていますが、ストライキ長期化など賃金動向が不安定となる可能性もあり注視が必要です。

9月の米CPIでは物価への警戒を続ける必要があることが示されました。ただし、物価が力強く再加速することを示唆する材料までは見出し難いと思われます。そうした中、今週相次いだFRB高官による次回米連邦公開市場委員会(FOMC)での政策金利据え置きを示唆する発言をひっくり返すほどのインパクトまではなかったようにも思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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