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6月毎月勤労統計:実質賃金はプラスに転じたが
梅澤 利文
2024/08/06

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概要

厚生労働省の6月の毎月勤労統計調査によると、名目賃金は前年同月比で4.5%増、実質賃金は1.1%増となりました。好調だった今年の春闘の結果が徐々に反映されている面はあるとみられます。ただし実質賃金のプラス転換については今後の推移にも注意する必要があります。一方、消費支出は物価高などを受け慎重姿勢です。賃金上昇が消費を活発化させるのか今後の展開が注目されます。




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6月の毎月勤労統計で実質賃金はプラス圏に

厚生労働省が8月6日に発表した6月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上の事業所)によると、名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は前年同月比で4.5%増と、市場予想の2.4%増、前月の2.0%増を上回りました(図表1参照)。

名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月より1.1%増と、市場予想の0.9%減、前月の1.3%減を上回りました。実質賃金の増減率がプラスだったのは21年3月以来で、プラスに転じたのは27ヵ月ぶりです。

夏季賞与などが含まれる「特別に支払われた給与」が大きく伸びたことが賃金を押し上げた主な要因とみられます。

実質賃金プラスの背景は賞与上振れの可能性もあり、今後の展開に注意

毎月勤労統計調査では「1人あたりの現金給与総額」と、「実質賃金」が注目されます。6月の前年同月比の数字は、各々4.5%、1.1%と堅調です。ただし、図表1を見ても明らかなように、6月に急速に改善しています。ようやくプラスに転じた実質賃金が、来月以降もプラスを維持できるかについては課題が残されているように思われます。

経団連が5日に発表した春季労使交渉(春闘)の最終結果によると、大手企業の定期昇給とベースアップを合わせた賃上げ率は5.58%と、91年以来の5%超えと好調でした。このような背景から賃金の基調は上昇傾向です。共通事業所ベースによる所定内給与(一般)は6月が前年同月比で2.7%増と高水準を維持しました(図表2参照)。同指数は参考資料の位置づけで、本系列に比べてサンプル数が少ないといった面はあるものの、サンプル替えの影響を受けないという面もあり、日銀も重視する指標です。この共通事業所ベースでみても現金給与総額は前年同月比で5.4%増と、前月の2.6%増を大幅に上回りました。

6月に現金給与総額が4.5%と伸びた背景は、 「特別に支払われた給与」が前年同月比で7.6%増と、前月の0.1%増から大幅に伸びたためです。伸びの背景は6月という時期から夏季賞与などの上振れの可能性が考えられ、7月もこの動きが続くかどうかは現段階では不確実です。7月分のデータを待って動向を判断すべきかと思います。

賃金と物価の好循環が安定的に実現するには、賞与(ボーナス)など変動の大きい要因を除いた基調的な給与(所定内賃金)がインフレ率を上回る姿が望まれます。6月についてみると、所定内給与の伸びは前年同月比で2.3%増でした。インフレ率は消費者物価指数(総合、除く帰属家賃)が3.3%上昇であったことから、実質ベースではマイナスとみられます。

実質所定内給与が改善するには所定内給与の伸びが拡大するか、インフレ率が低下する必要があります。春闘の結果は、例年ですと大半が今頃には反映していることが多く、今後の加速度的な上積みは残されていないかもしれませんが、緩やかな改善は続くものと思われます。

インフレ率は8月からの「酷暑乗り切り緊急支援」(電気・ガス代の負担軽減策)の効果が9月からみられると想定されます。実質賃金の安定的推移は秋以降になる可能性もありそうです。

6月の家計調査:可処分所得の増加に比べて消費が活況とは言い難い

総務省が6日に発表した6月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は実質で、前年同月比1.4%減少しました(図表3参照)。5月の1.8%減を上回ったものの、2ヵ月連続でマイナスとなりました。

家計調査で可処分所得を確認すると名目で前年同月比12.1%増と、前月の8.8%増を上回りました。夏のボーナスに加え、定額減税が可処分所得を押し上げた要因とみられます。

しかし、可処分所得に対する消費支出の割合である「平均消費性向」は36.9%と、23年6月の消費性向41.1%を下回りました。可処分所得は増えたものの、消費を活発化させる勢いに乏しいようです。インフレ率が高止まりするなか、支出を抑制する動きが背景とみられます。

家計調査にあるように、物価高が消費活動を抑制しているとするならば、日銀の利上げには一理あるように思われます。また、植田総裁が会見で「幅広い地域・業種・企業規模で賃上げの動きに広がりが見られている」と述べていますが、実質賃金がプラスに転じたことからも先見の明があったように思われます。ただし、米国の景気悪化懸念などの偶然が重なったこともあり、利上げ後に円や日本の株式市場に大きな変動がみられました。仮に変動が長期化した場合、消費がさらに縮小する懸念もあります。あと少しだけデータの改善を待って、利上げのコンセンサスを形成してからの実施という選択肢も悪くはなかったかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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