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中国経済、前半は無難に折り返したが後半に課題
梅澤 利文
2025/07/18

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概要

中国の25年4-6月期GDPは前年同期比5.2%増で、市場予想や政府の経済成長目標を上回ったものの、1-3月期をやや下回った。工業生産は好調だが、固定資産投資や小売売上高、不動産投資は伸び悩みが目立つ。固定資産投資では製造業や不動産投資が伸び悩んだ。消費の年後半の課題として政策効果減少などが挙げられ経済成長に不安材料が多い。今後は当局の政策運営が注目される。




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中国4-6月期のGDP成長率は5.2%増と、経済成長目標は一応確保した

中国国家統計局が7月15日に発表した4-6月期のGDP(国内総生産)成長率は、物価の変動を調整した実質で前年同期比5.2%増と、市場予想の5.1%増を上回ったが、1-3月期の5.4%増は小幅に下回った。ただし、中国当局の今年の成長目標である「5%前後」は上回った(図表1参照)。

同日(15日)には、6月の中国の主要月次経済指標である小売売上高、工業生産、固定資産投資が発表された。工業生産は前年同月比6.8%増と、市場予想、前月を上回った。しかし6月の小売売上高、固定資産投資は共に市場予想、5月の伸びを下回った。これらの経済指標の発表を受けた中国株式市場の反応は全般に小動きだった。

固定資産投資は製造業の伸び悩みと不動産投資の悪化に直面

中国の4-6月期GDPは5%前後の今年の成長目標を上回る水準を確保した。年初来のGDP成長率も5.3%増となり、25年前半の途中経過では目標達成となっている。しかし、GDP並びに6月の経済指標などを眺めると、中国の年後半の経済成長に不安を示唆する材料が多いように思われる。

まず、悪化が目立ったのは年初来前年比で2.8%にとどまった6月の固定資産投資だ(図表2参照)。減速の背景を構成指数で見ると製造業投資の伸び悩みと、不動産投資の低迷が挙げられる。

製造業投資は7.5%増と水準は高い。しかし5月までの8.5%を下回るうえ、昨年9%台後半で推移した頃の勢いは失われた。製造業の伸びを支えたセクターの一つである電気自動車(EV)などの新エネルギー車の生産は、6月に前年同月比18.8%と、5月の31.7%から急減速した。国務院(政府)の常務会議は7月16日にEV産業への監視を強めると警告した。過去30%~40%台という伸びで推移してきたセクターだけに、過剰生産への懸念があると見られる。AI分野など高い生産を維持しているセクターもあるが、製造業の中には勢いを失っているセクターもあり今後が気がかりだ。

低迷が長期化しているのが不動産投資だ。6月は前年比11.2%減と前月の10.7%減からマイナス幅が拡大した(図表3参照)。中国の(主要70都市)住宅価格は新築、中古ともに下落傾向だ。中国では昨年、中央政治局会議などで不動産問題対策として、未完成住宅(在庫)の買取支援策などが発表され、住宅価格に持ち直しの動きがみられたが、足元では再び住宅価格は下落傾向だ。年後半に不動産対策の強化が必要だろう。

小売売上と、工業生産にも年後半に向け課題が残されているようだ

6月の小売売上高は前年同月比4.8%増と、5月の6.4%増を下回った。6月は米中が関税引き下げで合意した5月の伸びの反動とも見られるが、この2ヵ月を均してみれば消費(小売売上高)水準は悪くない(図表4参照)。ただし、内容には年後半に向け不安が残る。個別品目をみると、外食を含んだ食料は6月が0.9%増と、5月の5.9%増から大幅に低下した。この背景は、中国当局が5月中旬に改定した「倹約と浪費反対に関する条例」であろう。公務員が接待の会食で高級料理や酒、たばこを提供するのを禁じたものだ。これに対する過剰反応が外食を抑制させたようだ。不健全な接待が汚職などの温床ということが背景のようだが、年後半も続けるとするなら影響は残りそうだ。

小売売上で問題なのは消費財下取りプログラムなど、これまで消費を押し上げてきた政策の効果が低減する可能性だ。中国乗用車協会によれば、7月第1週の乗用車販売台数は急減速した。他の政策の下支え対象商品は堅調な売れ行きを概ね維持しているようだが、持続性に注意は必要だ。

工業生産は前年同月比で6.8%増と、市場予想の5.6%増、前月の5.8%増を上回った。中国の工業生産は輸出の堅調さと連動する傾向があるが、6月の輸出は前年同月比で5.8%と、前月を上回り堅調だった。輸出は3月も駆け込み輸出が拡大した堅調であったが、これと似た動きだった可能性がある。発電量の伸びも同様のパターンを見せており、押し上げ要因となったようだ。しかし、輸出動向は米国の関税政策に左右されるため不確実性が高い。そのうえ、中国当局は過剰生産を抑制する姿勢であることも年後半の注意点だ。

年後半の中国経済には課題が多いと思われる中、中国当局の政策運営方針が注目される。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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