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- ようやく発表された米雇用統計は決め手に欠ける
米労働省は9月の雇用統計をようやく発表した。非農業部門の就業者数が市場予想を上回った。ただし、過去データの下方修正や人材派遣の伸び悩みが懸念材料となった。一方、失業率は4.4%と上昇し、米労働市場の悪化が懸念された。ただし、労働参加率の増加やU6失業率に改善は見られた。12月のFOMCでは、最新のデータは揃わないことが想定され、利下げ判断に影響することも考えられる。
9月の米雇用統計は1ヵ月半遅れでようやく公表された
米労働省は11月20日、通常より約1ヵ月半遅れで9月の雇用統計を公表した。非農業部門の就業者数は前月比11.9万人増と、市場予想の5.3万人増、8月の4000人減(速報値の2.2万人増から下方修正)を上回った。7月の伸びも7.9万人増から7.2万人増に小幅下方修正された。部門別では「教育・医療」や「娯楽・宿泊」などがけん引役となった(図表1参照)
9月の失業率は4.4%と、市場予想、8月(ともに4.3%)を上回った。失業率は約4年ぶりの高さとなった。平均時給は前月比が0.2%増と市場予想の0.3%増を下回った一方で、前年同月比では3.8%増と、市場予想の3.7%増を上回った。
失業率が4.4%に上昇したことなどは懸念されるが、決め手とはなりにくい
9月分と古いデータながら、ようやく雇用統計が発表された。非農業部門の就業者数は市場予想を大幅に上回り、部門別でも過去に雇用の伸びを押し上げてきた「教育・医療」や「娯楽・宿泊」部門は健在であった。ただし、20日の米国債市場で利回りは小幅低下したが、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における追加利下げ確率は小幅な回復にとどまるなど評価の決め手に欠く内容だった。
9月の雇用統計は強弱まちまちだったことが、決め手を欠く内容の背景だ。9月は11.9万人増と雇用は伸びたが、7月、8月の過去分は下方修正された。また、雇用に先行する傾向がある人材派遣も伸び悩むなど懸念材料は見られた。
次に、9月の米雇用統計で注目されたのは4.4%へと上昇した失業率だろう(図表2参照)。9月のFOMCで示された25年の失業率予想は4.5%であったことから、おおむね予想通りになっただけと言えなくはないが、23年4月の3.4%から失業率はじりじりと上昇傾向なことが懸念される。
また、4.4%という水準も4年ぶりという高さであるうえ、先のFOMCの経済見通しにおける失業率の長期見通しである4.2%を上回っている。9月の失業率に警戒感が高まったのはもっともだ。
ただし、図表2にあるように労働市場への参入度合いを示唆する労働参加率は62.4%に上昇した。新規参入者の増加に伴う失業率の上昇であれば質が悪い失業率の上昇でない可能性がある。また、経済的理由によるパートタイムなどを含んで算出するU6失業率は8.0%と低下(改善)した。失業率全体で見ると、悪い話ばかりではなさそうだ。
9月の米雇用統計は、そもそも古いデータであるうえ、失業率にせよ非農業部門の就業者数にせよ、良い点、悪い点が含まれており決め手とはなりにくかった。12月FOMCでの利下げ見通しに大きな変化がなかった。
政府機関閉鎖は終わってもデータの公表の正常化には時間が必要
12月のFOMC(12月9日~10日開催)に向け、米労働市場の動向を判断するうえで今後どのような指標やイベントに注目すべきだろうか。
米労働省は雇用統計の11月分は12月16日に発表すると表明した。12月のFOMC終了後の発表となるため、参照されるのは、来年1月のFOMCからとなりそうだ。
なお、10月分の雇用統計については、同じ16日に就業者数など事業所調査は公表される予定だ。しかし家計調査に基づく失業率は発表されない方針であることが表明された。10月と11月の雇用統計は12月のFOMCでは参照されないことになる。
求人件数や解雇件数などを含む雇用動態調査(JOLTS)は9月分と10月分の一部データが12月9日に発表される予定だ。FOMCではぎりぎり参照可能だが、市場が事前に参照するには時間が短く使いづらそうだ。
一方で、政府機関閉鎖の解除を受け利用しやすくなったデータに新規失業保険申請件数がある(図表3参照)。政府閉鎖期間中も州別データは公表されていたが、20日に全米の失業保険申請件数を示す統計が発表された。最新の申請件数は22万件だった。一部大手企業の人員削減が相次いで報道されているが、失業保険の申請件数は比較的落ち着いた水準とみられよう。
ただし、新規申請後に失業保険の申請を継続している人数を測定する指標である継続受給者数は197.4万人と上昇傾向かつ高水準となっている。失業期間長期化のサインとして注意は必要だ。
なお、10月~11月分の消費者物価指数(CPI)は発表が未定で今後の方針を待つ状況だ。
政府機関閉鎖は終わったが、データの公表が正常化するには少々時間が必要だ。12月のFOMCでは民間データも含め利用可能なデータを使うこととなりそうだ。微妙な判断が求められる12月のFOMCではデータが揃うのを待つという意味での据え置きも選択肢として考えられそうだ。
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