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ブラジル中銀は政策金利をいつまで維持するのか
梅澤 利文
2025/11/10

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概要

ブラジル中央銀行は11月5日の会合で政策金利を15%に据え置くことを決定した。インフレ率が物価目標を上回る中、利下げを求める声があるものの、インフレ抑制を優先する姿勢を維持している。ブラジルの労働市場は堅調だが、GDP成長率は伸び悩んでいる。そうした中、インフレ率は鈍化傾向にあるが、物価目標を下回るのは2026年と予想されている。利下げもその時期が1つの目安なのでは考えている。




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ブラジル中銀、高水準の政策金利を市場予想通り据え置いた

ブラジル中央銀行は11月5日に開いた金融政策決定会合(以下、会合)で、市場予想通り、政策金利を15%のまま据え置くと発表した(図表1参照)。据え置きは3会合連続で、前回の会合(9月17日)同様、9人の委員の全会一致で決定した。ブラジル中銀は声明文で、インフレ率が引き続き物価目標を上回るとの認識を示し据え置きの必要性を指摘した。

ブラジル中銀は24年9月から7会合連続で利上げを続け、金利は約20年ぶりの高水準に達している。政府の一部や産業界から「景気への影響がある」などとして、利下げを求める声が高まっている一方で、利下げ支持の声も少なくないようだ。

ブラジルの政策金利は高水準だが、物価対策を求める声もあるようだ

ブラジル中銀は11月の会合で政策金利を据え置いた。実質金利の高さから、利下げを求める声もあるが、ブラジル中銀はインフレ抑制への姿勢を崩していない。ブラジルのインフレ率は足元5%前後で推移しており(図表2参照)、物価目標(3%±1.5%)の上限を超えている。今回の会合におけるブラジル中銀のフォワードガイダンス(将来の金融政策の方針)を見ると、次回会合(12月)についても「据え置きもしくは必要なら利上げ」というタカ派(金融引き締めを選好)を維持している。ブラジル中銀の利下げは26年となりそうだ。

ブラジルの物価動向を消費者物価指数(IPCA-15)で見ると、10月は前年同月比で4.94%上昇と、節目の5%は下回ったが、物価目標上限(4.5%)は上回ったままだ。ブラジル中銀のインフレ予想を見ると物価目標を下回るのは来年が想定されている。

図表2にあるように、23年以降のブラジルのインフレ率は今年の4月から5月ごろをピークに緩やかながら鈍化傾向だ。足元までレアル高も進行しており、今後もインフレ率の低下が想定される。市場コンセンサス予想を見ると、26年1-3月期にインフレ率は物価目標の上限を下回ることが見込まれている。米国との貿易政策の安定や健全な財政政策が条件とはなるが、市場の一部は26年1-3月期の利下げを見込んでいるようだ。

一方で、利下げはまだ先となる可能性もある。ブラジル経済は大丈夫なのだろうか。これはどの経済指標に注目するかで印象が変わりえる。GDP(国内総生産)成長率は4-6期が前年同期比2.2%増と、前期を下回りやや伸び悩んでいる。

労働市場に目を移すとブラジル経済に底堅さも見られる。ブラジルの9月の失業率は5.6%と、8月から横ばいで歴史的低水準での推移となっている(図表3参照)。ブラジル中銀は声明文で、GDP成長率の鈍化傾向を指摘する一方で、労働市場の堅調さを指摘している。政治家や産業界からは利下げ圧力が強いものの、サービス業界からは雇用の底堅さを背景に、物価対策を優先する姿勢に理解もあるようだ。 

ブラジルの高金利政策は景気を徐々に押し下げている

ブラジル中銀が利上げを開始したのは24年9月で政策金利を足元15%まで引き上げた。ところが、ブラジルの銀行貸出は24年に約11.5%伸び、社債発行は30%程度伸びた。ブラジルの高金利は効果的なのかという疑問もある。この疑問に対する回答は国際通貨基金の4条報告に見られる。

結論を述べるなら、利上げにより、貸出金利は押し上げられており効果はあると述べている。IMFによるとブラジルで政策金利が1%上昇すると、貸出金利も4か月後に0.7%程度上昇するという推定が示されている。なお、貸出金利の中には政策金利と連動しないものもあり、感応度が低い理由の1つとなっているようだ。

そうした中、なぜ貸出額が増えたのかについて、短期的と構造的理由をIMFは指摘している。

短期的には先の堅調な失業率で確認したように労働市場は堅調で所得も増加していることが貸出しの伸びを支えた理由のようだ。

構造的理由としてはブラジルのフィンテックの発展などを背景に、金融サービスを利用できる人が増えた(金融包摂の)可能性を指摘している。

ブラジル中銀の高金利政策はやはり、景気を冷やす方向に作用するようだ。そこで、再度、ブラジル中銀が利下げを開始する時期について考えると、インフレ率が物価目標の上限を下回る時期が1つの目安であろう。また、ブラジル中銀が重視しているのは期待インフレ率の安定化とみている。筆者はブラジルの期待インフレ率が年後半ごろから安定化の兆しが見え始めたと考えている。したがって、来年前半には利下げを開始するとみている。

しかし、国内の不確実要因として26年の大統領選挙が挙げられる。今の段階で選挙の予測はできないが、ブラジルの選挙は過去において財政拡大競争が繰り広げられたケースもある。利下げ開始を占ううえではリスクシナリオの1つと思われる。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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