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日銀12月会合、予想通りの利上げに対する評価
梅澤 利文
2025/12/22

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概要

日銀は12月18日~19日の会合で政策金利を0.25%引き上げ、0.75%とすることを全会一致で決定した。利上げの背景には、経済の不確実性の低下、賃金の上昇傾向、基調的物価上昇率の緩やかな上昇が挙げられる。植田総裁の会見後、円安がさらに進行し、日本国債利回りも上昇。中立金利の推計値は据え置かれ、市場に与えた今後の利上げの道筋への不透明感が円安の一因と考えられる。




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日銀:市場予想通りの利上げで、政策金利は約30年ぶりの高水準

日銀は12月18日~19日に開催した金融政策決定会合(以下、会合)で追加利上げを全会一致で決定した。政策金利である無担保コール翌日物レートの誘導目標を0.25%引き上げて0.75%とすることを決定した(図表1参照)。政策金利は1995年以来、約30年ぶりの高水準となる。

日銀は利上げの背景として3点を指摘した。まず、米国経済や通商政策の影響による不確実性は残るが、低下していると指摘した。2点目は賃金で、来年もしっかりとした賃上げ実施の可能性が高く、また企業の積極的な賃金設定行動が途切れるリスクは低いとした。最後に、物価は基調的な物価上昇率は緩やかな上昇が続いていると指摘した。

経済の不確実性の低下、賃上げ動向などが利上げを支持

日銀の今回の利上げは、植田総裁の12月1日の名古屋での発言や、マスコミの事前報道から、確実視されていたことは、繰り返すまでもないだろう。そのため、12月会合の注目点は、これから先の利上げの道筋をどこまで明確にするのかであったが、植田総裁の会見から、中立金利について新たな材料が示されなかったとして円安が進行した。この市場の受け止めに、筆者もそれほど異論はない。ただし、どこか違和感も残っている。

今回の利上げにあたり、日銀は参考資料として「2025年12月金融政策決定会合での決定内容」を公表した。先の日銀が指摘した利上げの背景の3点が参考資料にも記されている。これらについて簡単に振り返る。

まず、経済の不確実性の低下については、据え置きを決めた10月会合で発表された「展望レポート」で、海外経済の減速が下押し要因となって「成長ペースは伸び悩む」と指摘していた。しかし、今回の発表資料(金融市場調節方針の変更)では、「日本の景気は緩やかに回復、海外経済は緩やかに成長している」に改められた。この不確実性の低下に議論の余地は少ないだろう。

2点目の賃金動向については、植田総裁の名古屋での挨拶(発言)から26年は、今年に続き、しっかりとした賃上げが実施される可能性が高いことが明確に指摘された。加えて、日銀は12月15日に「2026年度賃上げスタンスの動向」を発表した。日銀のヒアリングなどを通じ、現時点(12月初時点)で判明している来年度の賃上げスタンスをまとめたものだ。それによると、25年度を上回るが企業が2社、横ばい29社、下回るが2社という結果だった。来年の賃上げ動向は今年を下回らないことが示唆された。少なくとも、来年は企業の積極的な賃金設定行動が途切れるリスクは低いとの判断なのだろう。

3点目の物価について、日銀は「賃金上昇の販売価格への転嫁の動きが続くもとで、基調的な物価上昇率は緩やかな上昇が続いている」と参考資料で説明している。12月会合同日に発表された消費者物価指数(CPI)を見ると、11月のCPIは前年同月比で2.9%上昇と、前月の3.0%上昇から小幅ながら鈍化した(図表2参照)。

植田総裁は会見で総合CPIによるインフレ率は26年前半に大きく低下し、2%を下回ると指摘した一方で、金融政策運営では、総合のインフレ率より基調的な物価上昇率がどうなるかを重視していると説明した。ガソリン暫定税率廃止や、前年比でみた(生鮮食品を除いた)食品価格の低下などを受けCPIが押し下げられると見込んでいる。10月の展望レポートによればコアCPIは26年度に1.8%まで鈍化すると見込んでいる。しかし、金融政策運営で重視する基調的な物価上昇率は緩やかな上昇という評価だ。基調的な物価上昇率が何を指すのか具体的ではないが、筆者は賃金動向を反映しやすいサービス価格を基調的な物価上昇率の参考指標として以前から重視しているが、11月は1.6%上昇と、前月から横ばいながら、図表2にあるように緩やかな上昇といえそうだ。しかもサービス価格のうち、公共サービス(0.1%減)を含まない一般サービスは11月が2.1%上昇と2%台の伸びを確保した。利上げを支持する要因ではあるが、やや違和感が残る説明のように思えた。円安の物価への影響について踏み込んだ発言を控えたことが違和感の背景の1要因とみている。

用意周到の利上げにおいて、関心は今後の道筋等にすでにシフトしていた

12月会合、植田総裁の会見を終え円安が進行した。しかし1ドル=157円台まで円安が進行したのは会見が終わってしばらくしてからだった。円安を見てから日本国債利回りが上昇したようだ。

植田総裁の会見が特段ハト派(金融緩和を選好)だったとは思わないが、円安に転じたのは、用意周到に利上げの準備をしたことがかえって、市場に今後の利上げの道筋などに関心を向かわせてしまったことが背景だろう。また、基調的インフレ率に影響を与えるほどの円安に対し、利上げだけで対応するなら、景気への影響は深刻で実施は難しいとの印象を市場に与えた可能性もありそうだ。

中立金利については推計値を変えるという市場の期待に反し据え置かれた。中立金利の説明の中で植田総裁は政策金利を変更した後の経済への反応を見ると説明したが、これは中立金利の概念は活用するが、完成された推計方法はまだ確立されてないと述べたに等しいだろう。もっとも、中立金利の推計方法が確立してないのは、米国はじめ他の中央銀行も同じ状況だ。このような中、金融政策の参照値として中立金利使うのは問題含みで、少なくとも表現に工夫が必要だろう。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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