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外国為替市場:円相場の変動と為替介入の現状
梅澤 利文
2026/01/27

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概要

外国為替市場では、円買い介入への観測や日米のレートチェック実施の報道を背景に円相場が乱高下した。1月23日は急激に円高が進行したが、実弾を伴う為替介入実施の可能性は低い。為替介入による市場への圧力は、短期的な円安抑制が期待されるものの、長期的な効果は限定的だろう。円買い介入では、外貨準備の制約もある。今後は日銀の利上げや財政政策の動向が重要性を増しそうだ。




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為替介入観測をめぐり、外国為替市場では円が乱高下した

外国為替市場で円買い為替介入への観測などを背景に円相場の変動性が高まっている(図表1参照)。 1月23日には、日銀の植田総裁による金融政策決定会合後の記者会見が終了した後、1ドル=159円台前半に下落した。しかし、同日、日米両政府が為替介入の準備段階にあたる「レートチェック」をしたとの観測を背景として急激に円高が進行、 1ドル=153円台後半にまで上昇した局面もあった。

日銀は1月26日に、「日銀当座預金増減要因と金融調節」の予想値(27日分)を発表した。為替介入など反映する傾向がある財政等要因はマイナス6300億円だった。

報道や公表されたデータに基づけばレートチェックであった可能性が高い

現段階では、日米金融当局は為替介入を実施したかどうかやレートチェックの有無について発言を控えている。片山財務相は23日、為替介入について「お答えできない」と述べるにとどまった。為替介入の実務にあたる三村淳財務官も同日、記者団の取材に対し、為替介入を実施したかどうかやレートチェックの観測に「お答えするつもりはない」と述べた。

報道などから、レートチェックが行われた可能性が高い一方で、実弾を伴う為替介入(米ドル売り・日本円買い)は実施されていない可能性が高いようだ。仮に実施されたとしても小規模だろう。実弾を伴う介入は総額を毎月公表されているため、来月には有無が確認できる運びだ。

2022年以降の為替介入の実績を見ると(図表2参照)、取引としては米ドル売り・円買い介入が実施されてきた。1回の介入額は2兆円~5兆円台であることが多い。市場にインパクトを与えるには、この程度の規模が必要なのだろう。

日銀が26日に発表した「日銀当座預金増減要因と金融調節」の財政等要因は市場予想とは数千億円の差異だった。仮に実弾による為替介入が実施されていれば、数兆単位での差異が想定されるだけに、今回の介入はレートチェックにより行われ実弾による為替介入ではなかった可能性が高そうだ。

これまでの為替介入に一定の効果は見られたが、重要なのはこれから

次に、今回の為替介入の効果や今後の展開を確認する。なお、口先介入やレートチェックも含めて「為替介入」と呼んでいるが、外国為替資金特別会計の資産(預金)を原資に円売り・ドル買いを実施する介入などを区別する場合は「実弾を伴う為替介入」と表現することとする。

今回の為替介入はレートチェックであったとしても、急速な円高を演じたことから、それなりの効果はあったと評価できよう。23日の為替介入の効果を高めた背景はレートチェックを行ったのが日銀だけでなく、米国当局も参加した可能性が報道されていることだ。市場関係者の話ではあるがニューヨーク連銀が財務省の代理としてレートチェックを行ったという観測報道もある。仮に日米で円高・ドル安にむけた協調があったとしたらサプライズだ。

図表2で最近の円買い・ドル売り介入を見ると、為替介入に冷ややかなバイデン政権(当時)ということもあり、日本の単独介入であった。その分、効果は弱い。しかし、仮に日米で実弾を伴う為替介入ということになれば、インパクトは大きいだろう。(報道が正しいと仮定して)米国はレートチェックへの協力にとどまるのかは今後の注目点だろう。筆者は例外的な円安状況でもない限り、実弾を伴う日米協調介入の可能性は高くないと考えている。

なお、レートチェックは過去においては実弾を伴う為替介入の準備(介入可能レートの確認)の意味合いが大きかったが、最近はレートチェックが市場圧力の手段として使われることもあるようだ。レートをチェックして市場が落ち着きを取り戻したらそれ以上の行動は控える局面も多い。今回がレートチェックだけで終わるのかは現時点で判断できない。今後の為替市場の展開が次の一手を左右するのではないだろうか。

今回の為替介入で、市場は160円を介入ラインと(勝手に)意識していることなどを受け、短期的には円安が抑制されることも期待される。

しかし、このような効果は短期にとどまる可能性が高い。たとえ実弾を伴う介入であったとしても、長期的な円安抑制効果を介入だけで実現するのは難しいだろう。円安に対しドル売り・円買い介入を実施する場合、介入原資は外貨準備を活用することになるが、2022年や2024年のドル売り・円買い介入の時も話題となったことだが、外貨準備のうち為替介入に使えるのは預金(約1600億ドル、日本円で25兆円弱)に限られる。預金もすべて使い切ることはないだろうから、資金はさらに限られる。一方、為替市場における2025年の1営業日の平均取引高(日本集計分)は4403億ドル、日本円で約68兆円と巨額だ。短期的な効果はあっても持続的な抑制効果は期待できないだろう。

問題は、為替介入に頼らない円安抑制に即効薬は見当たらないことだ。円安要因とみられる財政悪化懸念は与野党ともに(内容は異なるが)消費税減税を訴える中、出口は見えない。日銀の利上げによるマイナス実質金利の解消は有効と思われる。景気の実態に即した利上げペースである必要がある中、緩やかな金利上昇圧力が続くように思われる。筆者は次の追加利上げの想定時期を、4-6月期としている。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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