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米・イスラエルのイラン攻撃と市場動向アップデート
梅澤 利文
2026/03/04

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概要

イランが核兵器を放棄しない姿勢を示したため、米国とイスラエルはイランへの空爆を開始し、ハメネイ師の殺害も発表された。市場はリスクオフとなり、ダウ平均は大幅に下落した。ホルムズ海峡封鎖や軍事行動の長期化懸念が高まり、原油・天然ガス価格も上昇。トランプ大統領は軍事行動の目標を明示したが体制転換は目指さないとした。インフレ懸念を受け日欧米の金融政策見通しに影響が及んでいる。




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米国とイスラエルのイランに対する軍事攻撃の市場への影響が続く

イランが核兵器を放棄する姿勢がないとして、それまでの外交から一転、米国とイスラエルはイランへの空爆を2月28日に開始した。3月1日にはイランの最高指導者ハメネイ師の殺害が発表された。週明けの2日の市場は株安などリスクオフが支配的だった。

3日の米株式市場では米国とイスラエルのイランへの攻撃が長期化するとの懸念や、ホルムズ海峡封鎖が現実的となってきたことからダウ工業株30種平均(ダウ平均)は一時1200ドルを超えて下落した(図表1参照)。ただし、ダウ平均は結局、前日比403ドル(0.82%)安の4万8501ドルで引けた。他の米国株価指数も軟調だった。

イランへの軍事行動、長期化やホルムズ海峡封鎖が懸念材料

米軍とイスラエル軍が開始した大規模なイランへの軍事行動(以後、軍事行動)は、イランの反撃もあり先行きが読みにくい。この軍事行動が市場に与える影響を見るうえでは停戦時期やホルムズ海峡の封鎖、経済への影響が主な注目点だ。ホルムズ海峡封鎖の影響を3日の米株式市場を例に確認する。3日の米株式市場はホルムズ海峡封鎖懸念を受け当初は売り優勢だったが、終値にかけて戻りも見られた。原油価格の伸び悩みに加え、トランプ大統領がホルムズ海峡を航行する石油タンカーやその他の船舶の安全を確保するため、米国が保険と海軍による護衛を提供すると表明したことなどが主な下支え要因だった。

もっとも、原油価格は日本時間4日早朝には再び上昇に転じるなど落ち着かない。また、ホルムズ海峡航行に対する保険の提供は内容が明確ではない。トランプ大統領は米国際開発金融公社(DFC)がペルシャ湾岸地域における商業取引の流れを確保するため、「非常に妥当な価格」で保険を提供すると自身のSNSに投稿した。しかし、SNSもしくはDFCのメディア向けリリースを見ても詳細な内容は見当たらない。

ホルムズ海峡封鎖といえば、25年6月にイスラエルとイランが交戦した時も話題となった。このときは交戦が12日間続いたが、結局、イランにも影響が及ぶ海峡封鎖については、宣言などは報道されたが、完全な封鎖はおおむね回避された。しかし、今回はホルムズ海峡のタンカーへの被弾が報告されている。あくまで筆者の感想だが、DFCによる保険には唐突感もある。それがかえって、昨年のイランとイスラエルの交戦より深刻な事態であることを市場に認識させた面もあるように思われる。

次に、軍事行動の停戦時期を占う。トランプ大統領は2日に「4-5週間を想定しているが、それよりはるかに長く継続できる能力がある」と述べた。ベネズエラに対する軍事攻撃のような短期間での作戦終了は米国も想定していないうえ、長期戦もしさされたことが市場センチメントを押し下げたようだ。

なお、軍事行動終了時期について賭けサイトのポリマーケットを参照すると、データの変動が大きい点に注意は必要だが、3月末の停戦が37%程度に対し、4月末の停戦は54%程度が見込まれている。トランプ大統領の4-5週間より長期化を見込む声が多い可能性もあり、この点も市場センチメントの押し下げ要因ではないだろうか。

軍事行動の停戦時期を占う別の材料として、トランプ大統領はその目標として次の4点を挙げた。①イランのミサイル能力排除、②同国海軍の破壊、③核兵器取得の道を断つこと、④イランが国外のテロ組織に武器や資金提供をできないようにすること、と指摘した。③や④は時間が必要かもしれない。なお、特筆すべきは、トランプ氏が体制転換を作戦目標に挙げなかったことだろう。体制転換を目標とした場合、軍事行動の長期化が見込まれるためだ。先のポリマーケットでもイランの体制は軍事行動でも生き残るとの見方が過半となっており、体制転換は簡単ではないとの見立てだ。

軍事行動の影響として、各国金融政策見通しに影響を与え始めている

実体経済への影響は軍事行動が長期化した場合に表面化するだろう。足元では金融政策への見通しなどに変化が表れている。

ユーロ圏では原油価格の上昇と、天然ガス価格の上昇からインフレ懸念が高まっている(図表2参照)。欧州の天然ガス指標のオランダTTF先物は3月の2日間(営業日)に急上昇した。

欧州は原油の1割程度、天然ガス(LNG)も1割程度が中東産でホルムズ海峡を経由している。軍事行動の長期化はインフレ懸念を高めるだろう。欧州中央銀行(ECB)は政策金利を相当期間2%に据え置いた後、市場は次のアクションとして利下げを見込む声もあった。しかし、今回の事態を受け、次は利上げを見込み始めたようだ。

米国は、インフレ懸念を背景に、軍事行動前は年内2回とみられていた利下げ見通しが若干後退した。米連邦準備制度理事会(FRB)高官の中で、軍事行動後に発言した人は少数だが、不確実性が高まったことを受け金融政策の変更に慎重姿勢を強めた印象だ。

利上げ姿勢を示していた日銀からも、軍事行動を踏まえた情報発信は見当たらない。日本国債市場の方向感も定まりにくい。リスクオフは金利低下要因だろう。ただし、ユーロ圏同様、軍事行動の長期化は日本にインフレ懸念をもたらす可能性がある。その場合財政政策でエネルギー価格を抑制する政策が長期化する可能性から長期金利は下がりにくい面もある。利上げ見通しは不確実性の高まりを受け、目先後退するように思われる。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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