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インドの金融政策にも中東情勢の影響が重荷に
梅澤 利文
2026/04/09

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概要

インド準備銀行は4月の金融政策決定会合で政策金利を5.25%に据え置いた。中東情勢の悪化を受け、インフレ見通しを引き上げ、景気の下押しリスクを警戒している。足元のインフレ率は上昇傾向だが目標範囲内に収まり、国内景気は消費と投資が下支えしている。問題はこれからで、中東情勢のインド経済への影響やルピーの動向が懸念される。インド中銀には慎重な金融政策運営が求められそうだ。




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インド準備銀行(中央銀行)、中東情勢悪化で状況を見極める姿勢を強調

インド準備銀行(中央銀行)は4月6日~8日に開催した金融政策決定会合(以降、会合)で市場予想通り、政策金利(レポ金利)を5.25%に据え置くことを決定した(図表1参照)。据え置きは2会合連続で、全会一致の決定だった。また、金融政策の方針も中立姿勢とした。

インド中銀のマルホトラ総裁は声明文で据え置きの理由について、中東情勢の悪化前のインド経済は比較的堅調であったことを指摘した。また、リアルタイムデータでもインフレやインド景気に著しい変化がないことも指摘した。そのうえで、中東情勢によるインフレと景気への影響を冷静に判断するため、待ちの姿勢が適正と説明した。

インド中銀はインフレ率は足元の水準を上回ると見込んでいるようだ

インド中銀は声明文で、中東情勢の悪化(米国とイスラエルが2月28日にイランへの軍事作戦を開始したことによる)前のインド経済の状況について、インフレ率は落ち着き、国内景気も底堅かったと指摘した。しかし、中東情勢の悪化を受けインフレ見通しを引き上げ、景気の下押しを想定した。今後はこれらを踏まえた政策運営が求められ、インド中銀は当面据え置きを維持しそうだ。

まず、インドの経済状況を確認する。インドの消費者物価指数(CPI)は2月が3.2%上昇と、前月の2.7%上昇を上回った(図表2参照)。しかし、依然としてインド中銀の物価目標(4%±2%)に収まっている。昨年後半から足元までのインフレ率の上昇は、主にそれまで低下していた食品価格のベース効果(前年価格からの反動)などが背景とみられる。一方で食品やエネルギーなど変動の大きい項目を除いたコアCPIは1月から2月にかけて比較的落ち着いていた。

ただし、インド中銀は今回の会合で2026/27年度(26年4月~27年3月)の物価見通しを4.6%とした一方で、26/27年度の7-9月期の物価見通しを前回の会合から引き上げた。中東情勢の悪化によるエネルギー価格押し上げとその波及効果や、エルニーニョによるモンスーンへの影響が農産物価格を押し上げることなどを懸念しているようだ。

なお、インドのエネルギー構成をみると、石炭が大半を占めている。発電ベースでは石炭の割合がより高まる。しかし、中東情勢の悪化を受け石油価格だけでなく石炭価格も上昇した(足元では急落)。中東情勢の長期化と影響の深刻さがインドの今後の物価動向を大きく左右するだろう。

もっとも、米国とイランの間で2週間の停戦合意が浮上している。交渉の行方は定かではないが、中東情勢を判断するうえで当面は最大の注目点だ。

次に経済成長率について、インド中銀は26/27年度のGDP(国内総生産)成長率を6.9%増とした。前年度見通しの7.4%からやや引き下げた。インド経済の輸出は軟調だが、個人消費と投資などが景気を支えてきた。 26/27年度の四半期ごとの成長見通しを見ると、年度前半は6%台後半に鈍化するものの、年度後半に7%台に回復する想定となっている。当面は中東情勢が景気の下押しとみており、ホルムズ海峡の事実上の封鎖の影響から輸出の回復は鈍いと見込んでいる。一方で、財政政策の支援もあり、国内需要は比較的堅調と、インド中銀は見込んでいるようだ。

インド中銀は為替支援策を実施したが永遠に続けられる策ではない

インドでは4月13日に3月のCPIが発表予定で、市場予想は前年同月比3.4%上昇と2月を上回ることが見込まれている。インド中銀の26/27年度のインフレ予想が4.6%であることから、物価目標の範囲内ながらも、じり高傾向が見込まれている。インド中銀としても追加利下げ(昨年12月が現段階では最後の利下げ)には相当慎重だろう。

利下げを慎重にさせる別の要因もある。ルピー安だ。図表1にあるように米国との通商問題悪化や資本逃避を受けルピー安が進行し、中東情勢がさらなる押し下げ要因となった。ただし、4月から急速にルピー高に転じている。この背景として為替介入も考えられるが、効果が大きかったのはポジション規制だ。為替介入は外貨準備高の減少から推察される(図表3参照)。中東情勢悪化に伴う初期のルピー安対策だった。一方、インド中銀は4月1日、認可銀行に対し、ルピーに関連するノン・デリバラブル・デリバティブ取引(NDF、現物の受渡しをせず、将来のあらかじめ定めた日に定めたレートで取引するフォワード取引)を、インドの居住者及び非居住者の双方に提供することを禁止した。この決定を受けてルピーは上昇に転じた。

インド中銀による一連の為替政策は、景気悪化を懸念し、利上げを回避したうえでのルピー安抑制政策とみられる。ただしインド中銀は今回の会合後にこのような政策は永遠ではないと説明した。インド中銀は内外情勢に加え、ルピーの動向にも配慮した金融政策運営が求められる。当面は慎重な様子見を続けると筆者はみている。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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