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- イラン戦争の影響:ユーロ圏からのメッセージ
3月のユーロ圏消費者物価指数(HICP)は前年同月比2.5%上昇した。エネルギー価格上昇が主な要因だ。ECBは中東情勢の悪化を受け、ベースライン、悪化、深刻の3つの経済シナリオを策定した。悪化シナリオではインフレ率が3.5%、深刻シナリオでは4.4%に達し、エネルギー価格や経済成長率への影響が懸念されている。今後の中東情勢次第で、ユーロ圏の経済見通しは大きく変動する可能性がある。
3月のユーロ圏のインフレ率はイラン戦争の影響を背景に上昇した
欧州連合(EU)統計局が3月31日に発表した3月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は速報値で前年同月比2.5%上昇と、市場予想の2.6%上昇は下回ったものの、2月の1.9%上昇を大幅に上回った(図表1参照)。価格変動の大きいエネルギーや食品などを除いたコアHICPは2.3%上昇と、市場予想、2月(ともに2.4%上昇)を下回った。
項目別にみると、エネルギーは前年同月比4.9%上昇と主なインフレ押し上げ要因だった。エネルギー価格の前年比の伸びは25年3月から26年2月までマイナス圏で推移していたが、イラン戦争を背景に急激にプラスに転じた。一方、サービスは3月が3.2%上昇と前月(3.4%)から鈍化した。
ECBはベースシナリオとは別に、2つのシナリオを用意していた
3月のユーロ圏のインフレ指標は中東情勢の悪化を反映し始めた点で注目される。結果はエネルギーなどを含むHICPが前年同月比で2.5%上昇し、コアHICPは2.3%上昇した。
欧州中央銀行(ECB)は3月19日に理事会を開催するとともに、ECBスタッフの経済見通しを発表した(図表2参照)。3月のユーロ圏のインフレ指標はECBが発表した26年の予想値であるHICPに近いもしくは、コアHICPは一致した。ここまでの話だと、想定内の動きということになる。しかし事態は悪い方向に向いている。ECB政策委員会メンバーでフランス銀行(中銀)のビルロワドガロー総裁は4月2日に、「ユーロ圏は『ベースシナリオ』よりも、『悪化』に近づいている」とコメントした。
ECBは3月理事会の日に、図表2に示した『ベースシナリオ』とは別に、『悪化』とさらに悪化したシナリオである『深刻』を発表した(図表3参照)。
図表3に則り説明すると、ベースラインは図表2とは縦表記、横表記の違いはあるが、同じものだ。ただし、ECBのラガルド総裁によると、今回のベースラインは通常の3月4日締切の見通しではなく、期限を3月11日まで延長して、市場動向を反映させたと説明している。見通しの前提となる原油価格や天然ガス価格は3月前半の中東情勢をある程度反映させたベースシナリオとなっている。
しかし、さらに事態が悪化した場合に備えて、ECBは『悪化』と『深刻』の2つのシナリオをECBは用意していた。1日の米国トランプ大統領の演説は新鮮味に欠け、中東情勢の今後の展開が見通しづらい内容だった。停戦の意向(希望)はあるようだが、戦闘の激化も示唆するなどトランプ大統領の本意が分かりにくい。ビルロワドガロー総裁が指摘する次のシナリオを見据える必要がありそうだ。
イラン戦争はベースラインから悪化シナリオに近づいているようだ
結局、ECBは中東情勢を前に3種類のシナリオを作成した(ベースラインは期限が3月4日と11日の2つ用意されたが、11日分が基本)。イメージとしては、ベースライン<悪化<深刻の順番で石油や天然ガス価格が上昇、状況が悪くなる想定だ。
各シナリオの特色を述べると、最初にベースシナリオは3月11日までに観察される商品価格を所与として作成されたものである。
次に悪化シナリオについて、「石油、天然ガスなどエネルギー供給」と、「エネルギー施設の破壊状況」についてみると、エネルギー供給の混乱は26年7-9月期まで続くと想定している。一方、エネルギー施設のこれ以上の重大な破壊は想定していないことなどが主に想定されている。
なお、悪化シナリオでは、26年のインフレ率を3.5%と見込んでおり、ベースラインより0.9%上方修正されている。物価目標(2%)を上回るインフレ率が想定される一方で、経済成長率は0.6%と低水準に落ち込むことが見込まれている。
商品輸送と価格の正常化は26年10-12月期に正常化し始めるとの想定がみられる。また、ホルムズ海峡が再開されれば商品輸送は比較的早く正常化することも想定している。
深刻シナリオは悪化シナリオより悪いという位置づけで、情勢が想定されている。エネルギー供給の深刻な混乱は26年10-12月期まで続くと想定し、加えて、大規模なエネルギー施設の破壊も想定されている。エネルギー施設が破壊されるため、停戦となっても、エネルギー物流の回復には時間がかかるイメージだ。そのため26年のインフレ率予想が4.4%、27年には4.8%と加速する点などが悪化シナリオと異なる。一方、深刻シナリオにおける成長率は26年が0.4%と大幅な落ち込みが想定されているが、28年の成長率は1.9%と悪化シナリオより高く、反動増が見込まれている。
シナリオは、どのシナリオが「当たり」、「はずれ」を意図したものではない。不確実性を前に、シナリオを用意してリスクを明確にすることに意義がある。こうした中、イラン戦争の現実は『悪化』シナリオに近づきつつあるようで、仮に情勢がこのまま悪化するようなら、インフレ対応が優先されそうだ。
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