Article Title
IMF最新世界経済見通しとリスクシナリオの勘所
梅澤 利文
2026/04/15

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

IMFは2026年の世界経済成長率見通しを3.1%に下方修正し、中東の戦争による原油ショックなどを反映した「参照予測」を採用した。さらに「悪化」「深刻」シナリオも用意し、戦闘の長期化が世界経済に深刻な影響を及ぼす可能性を指摘した。現状は参照と悪化のどこかにあるが、最近の停戦期待を受け市場の期待は参照シナリオに近そうだ。中央銀行はインフレ抑制を重視しつつ、慎重に見守りそうだ。




Article Body Text

IMFの世界経済見通しは中東情勢の悪化を背景に成長率を下方修正した

国際通貨基金(IMF)は4月14日、世界の経済見通しを公表した。最新の世界経済見通し(WEO)では2026年の世界経済の成長率見通しを1月時点の3.3%から3.1%に引き下げた(図表1参照)。中東での戦争が大規模な原油ショックを引き起こしたことなどを反映した。

なお、IMFは今回の世界経済見通しでは通常の「ベースライン予測」に代えて、「参照予測」を採用した。図表1は参照予測であり、戦争の期間や地理的広がりは限定的で、26年半ばまでに混乱が沈静化するとの仮定に基づいた見通しだ。加えて、IMFは「悪化」、「深刻」シナリオも用意した。

中東情勢の不確実性を前に、IMFは経済見通しにシナリオを用意した

IMFの予測シナリオを最初に確認する。中東情勢悪化前の経済状況を前提とする「ベースライン予測」では、26年の世界成長率は、3.4%となっていた可能性が高いとIMFは説明している。

しかし、中東情勢の悪化はすでに起きていることであり、これを前提とした見通しの信頼性は低い。そこで、IMFは代替として、26年半ばまでに混乱が沈静化するなどの仮定とともに、3月10日時点の商品先物価格と整合的なシナリオとして「参照予測」を採用した。報道などで一般に使われているIMFの経済見通しはこの参照予測が使われている。

なお、中東情勢をめぐって、米国とイラン両政府は4月11日〜12日にパキスタンで和平交渉を行ったが、合意には至らなかった。もっとも、トランプ米大統領は14日にイランとの戦闘終結に向けた交渉を2日以内に再開する可能性を示唆した。市場は比較的早期の戦闘終結を見込んでおり、「参照予測」の前提に近い状況ではある。

しかし、戦闘をめぐる交渉は複雑で、今後の展開に不確実性も残る。こうした中、IMFは別に2つのシナリオである「悪化」と「深刻」を用意した。IMFは「ベースライン予測」、「参照予測」、「悪化」、「深刻」のうち、すでに紛争が始まっていることから最初のシナリオを除いた3つのシナリオを中心に今回の分析を行っている。欧州中央銀行(ECB)も3月会合に伴う経済予測では3通りのシナリオ分析(場合分けの条件は異なるが)を行っている。

IMFのシナリオでは参照、悪化、深刻の順で戦況や経済への影響が大きくなるとしている(図表2参照)。参照シナリオは一時的混乱で、紛争は数週間で終結し、今年半ばには混乱が収まることを想定している。景気後退のリスクは限定的で、インフレは上昇するが短期的であるため金融政策への影響も限定的とみているのが特色だ。

悪化シナリオでは原油価格が落ち着くのは来年でインフレ率は一時的に大幅な上昇が懸念されている。金融政策としても引き締め姿勢を強めることが想定されている。

深刻シナリオでは戦闘が長期化するうえ、エネルギー生産施設への影響も想定していることから、高水準のインフレが持続するシナリオで、26年の原油価格が110ドル前後に急騰し、27年も約125ドルに達すると見込んでいる。各シナリオから想定されるGDP(国内総生産)成長率とインフレ率は図表3の通りである。深刻シナリオでは26年のGDP成長率は2.0%と見込まれており、世界的な景気後退の水準だ。インフレ率は26年が5.8%、来年も6.1%を見込んでいる。今回のIMFの世界経済見通しのメッセージは中東情勢の長期化は世界経済に深刻なダメージをもたらすということだ。

リスクシナリオは用意されたが、もうしばらくは様子見が続きそうだ

中東情勢のように不確実性が高く、経済への影響が大きいイベントに対して、シナリオ分析がしばしば用いられる。シナリオ分析はシナリオの「当たり」、「はずれ」を競うというより、現状はどのシナリオに近く、またそのシナリオの場合の経済への影響に対する知見を得られる点で有用だ。筆者は、現状は参照と悪化の間のどこかにいると見ている。非難の応酬が続くも、戦闘終結に向けた交渉継続ならば、参照シナリオに近いと思われる。

参照シナリオに近いと考えられる理由として、IMFの金融政策に対する提言が参考になろう。図表2にあるように、悪化や深刻シナリオでは中央銀行はインフレ抑制を優先、もしくはそれ以上の物価対策が早急に求められる。しかし、IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は、会見で政策金利の見通しを問われて、「日銀を含む主要な中央銀行が政策金利を引き上げる差し迫った必要性はない」との認識を示した。

IMFの会合に出席するためワシントンを訪れているECBのラガルド総裁は、現地のインタビューで金融引き締めに傾いているかとの質問に対し、これを否定した。最近まで見られた利上げに対する前のめり姿勢から後退した印象だ。

日銀は、円安への懸念があることから利上げ姿勢を全く崩してはいないが、最近の発言では4月利上げに対しやや慎重なトーンになった印象だ。

今回のIMF経済見通しは、このような中央銀行の姿勢変化を補完したようにも見える。


梅澤 利文
梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●投資信託は値動きのある有価証券等に投資するため、基準価額は変動します。外貨建資産の場合は為替変動リスクもあります。したがって、投資者の皆さまの投資元本が保証されているものではなく、基準価額の下落により損失が生じ、投資元本を割り込むことがあります。運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性、特定の目的への適合性を保証するものではありません。記載内容は作成日現在のものであり、予告なく変更される場合があります。また、過去の実績は、将来の運用成果等を示唆・保証するものではありません。
●投資信託は預金等ではないため、元本および利回りの保証はなく、預金保険機構または保険契約者保護機構の対象ではありません。また、登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料の内容は、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を目的としたものではありません。
●当資料に掲載されている内容に関する著作権その他の知的財産権は、原則として、当社、ピクテ・グループまたは正当な権利者に帰属します。無断での使用、複製、転載、改変、翻訳、配布等は禁止されています。マーケット・データのご利用に関する詳細は、当社ウェブサイト 「会社情報」の「運用・方針等」内の「マーケット・データ利用規約」をご参照ください。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


3月米CPI、ガソリン価格の影響が明確となった

インドの金融政策にも中東情勢の影響が重荷に

日銀短観と日銀支店長会議:まだ決め打ちできない

3月米雇用統計は中東情勢を反映したのだろうか

イラン戦争の影響:ユーロ圏からのメッセージ

中東情勢混乱の中、メキシコ中銀は利下げを決定