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米国のイラン大規模攻撃と市場の反応からの教訓
梅澤 利文
2026/03/02

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概要

週末に米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始した。イラン最高指導者の死亡報道も重なり、地政学リスクが急速に高まった。日本市場では株安や為替の不規則な変動、小幅ながら国債利回りの低下が見られた。原油価格は一時急騰した。日本は石油備蓄があるものの、ホルムズ海峡の封鎖や軍事行動の長期化が懸念材料で、今後は事態の推移や市場の反応、原油価格の動向に注視が必要だ。




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米国とイスラエルが週末にイランに対する軍事攻撃を開始した

週末、地政学リスクが急速に高まった。米国とイスラエルが現地時間2月28日(土曜日)、イランへの軍事攻撃を開始した。 3月1日にはイラン国営メディアが最高指導者ハメネイ師の死亡を伝えた。27日には欧米でイランやイスラエルから大使館職員を一部退避させる動きもあり、きな臭さは感じられたが、週末に一気に事態が動いた。

週明けの日本市場は軍事攻撃の影響が懸念され注目された。主な市場の反応を見ると、株式市場では株安が見られた(図表1参照)。為替市場では当初小幅ながら円高だったが、2日午前は円安が進み、その後円高方向と方向感が定まりにくい展開だった。

週明けの東京市場は幅広くリスクオフを反映した動きだった

週末に地政学リスクが発生した場合、日本市場は(常時取引されるビットコインなどを除けば)当初の反応の試金石となる。各市場の反応を振り返りながら今後の注目点を確認する。

米国株式市場が開けるのは東京時間の後だが、米株式先物は取引されている。シカゴマーカンタイル取引所で取引されるミニS&P500先物は日本時間正午で前日比0.7%前後安の下落だった。米国の軍事行動は必ずいつも株安というわけではないが、今回は押し下げ要因だ。ダウ工業株30種平均指数やナスダック総合指数の各先物も同様に当初の反応は下落だった。そして何よりも今晩の米株現物市場には細心の注意が必要だろう。

日本株式市場は日経平均株価の午前の終値は前日比1.5%安の5万7950.76円だった。中東から原油の9割以上(アラブ首長国連邦約43.6%、サウジアラビア40.1%、他にクウェート、カタールなど:数字は24年度の輸入国別シェア)を輸入していることが日本への懸念を増大させたようだ。

イラン産原油の輸出先は9割程度が中国と言われる。筆者には実態はわからないが、イランは西側の制裁を回避して中国と貿易を行っているようだ。もっとも、日本や欧州にとって問題なのはホルムズ海峡が実質的に封鎖となっていることだ。

日本の海運大手3社(日本郵船と商船三井、川崎汽船)は安全面を考慮し、ホルムズ海峡の通航を断念するなどの影響がすでにみられている。

もっとも、日本は国と民間が石油備蓄を進めてきており、25年末に官民合計で消費量の254日分に相当する備蓄があるようだ。国会で2日に高市総理が使った数字も同じだ。これはある程度の安心材料といえよう。したがって、今後の注目点は、事態がどこまで長期化するかであろう。

為替市場では当初の想定ではリスク回避の円高を想定する声もあったが、円安方向に傾きつつあるようだ。原油に依存する日本売りへの思惑や、利上げシナリオ後退への影響が背景ではないか。

日本国債市場はリスク回避を反映して国債利回りが小幅ながら低下した(図表2参照)。今後、軍事行動の激化などで不確実性が高まれば、日銀が利上げペースを緩める可能性も考えられる。

もっとも、金融政策を反映しやすい2年国債利回りの変動は小幅であった。短期金融市場における利上げ見通しにも、今のところ大きな変化は見られない。原油価格の上昇がセンチメントを悪化させ景気を冷やす側面がある一方で、原油価格上昇はコスト高を通じて物価を押し上げることも考えられる。今は情報収集の段階かもしれない。

なお、日銀の氷見野副総裁は2日に講演を行ったが中東情勢を前提にしていない内容だった。

米国は軍事行動を終えてイランとの交渉に進むことができるのだろうか

原油価格は、急上昇した(図表3参照)。米国の指標WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は、前週末の終値に比べて一時約12%上昇した。北海ブレント原油先物も2日早朝に、1バレルあたり80ドル超まで急上昇した。

ただし両先物とも、急上昇後はやや価格上昇の伸びが鈍った。週末の軍事行動に対する初期的な反応から、現状の判断と今後の動向へと視点がシフトしたようにも見える。今後の注目点は米国とイスラエルの軍事攻撃がいつまで続くかだ。トランプ大統領は軍事作戦は4週間程度と述べたが明確なゴールはわからない。一方でイランと交渉を再開する可能性も示唆している。このように現時点でゴールははっきりしない。イランに体制転換を求めている面れば事態が落ち着くまで時間がかかる懸念もある。軍事行動の期間にも関連するが、ホルムズ海峡の事実上の封鎖がいつ終わるのかも重要だ。航行の安全確保が何よりも重視されることが必要で、こちらも当面は情報収集が必要だ。

米軍のイランに対する軍事行動の今後の展開は様々な情報が交錯しており読み切るのは困難だ。地政学リスクが高まる中、比較的堅調だったのは金(ゴールド)などだ。一方、デジタル・ゴールドなどと呼ばれるビットコインは、少なくとも地政学リスクのヘッジには向かないように思われる。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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