Article Title
インドネシア中銀、利下げしたくても出来ない
梅澤 利文
2026/01/23

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インドネシア中央銀行は、1月の会合で政策金利を4.75%に据え置き、ルピア安抑制重視の姿勢を示した。25年後半の利下げが市場と対話不足でルピア安の要因となったが、今後も景気下支えのための利下げ姿勢を維持した。インフレ率は目標範囲内だが、ルピア安が物価上昇圧力となる懸念もある。財政赤字拡大や中央銀行の独立性への懸念もあり、今後の金融政策運営には慎重な対応が求められる。




Article Body Text

インドネシア中銀、通貨安抑制を背景に4会合連続の据え置きを決定

インドネシア中央銀行は1月20-21日の金融政策決定会合(以下、会合)で政策金利を市場予想通り4.75%で維持した(図表1参照)。インドネシア中銀は不確実性の高まり(米国の利下げ余地の縮小観測や地政学懸念)に懸念を示し、通貨ルピア安抑制姿勢を維持した。

インドネシア中銀は2024年9月に0.25%の利下げを行った後、25年は5回で合計1.25%の利下げを決定した。昨年後半の利下げは、市場との対話が不十分だったことがルピア安の背景となった。7月から9月の会合では、市場予想に反してインドネシア中銀は利下げを決定した。昨年9月後の会合では、4会合連続で政策金利を据え置いている。

インドネシアのインフレ率が想定通りなら、利下げ支持要因かもしれない

インドネシア中銀の今回の会合における据え置きの理由は、声明文などから明らかに、ルピア安抑制だ。ただし、今後の金融政策の方針(フォワードガイダンス)では景気の下支えのための利下げ姿勢も維持した。金融政策はタカ派(金融引き締めを選好)というよりハト派(金融緩和を選好)よりであるとみられる。

インドネシア中銀は会見でルピア安の国外要因と国内要因に分け、国外要因として米国の利下げ余地縮小や地政学リスクなどを指摘した。インドネシア中銀が指摘した国外要因がルピアの下押し要因であることに異論はないが、主な新興国通貨の動向をみると(図表2参照)、国により強弱がみられる。国外要因に含まれる米国の関税政策の違いが新興国通貨のパフォーマンスに影響した面はあろう。例えば、インドルピー安はロシア産原油の輸入拡大を理由に課されている関税の影響が大きかった。しかし、図表2で過去1年に通貨高となっているブラジル(レアル)、メキシコ(ペソ)、タイ(バーツ)は米国の関税問題に、程度の差はあれ直面した。また、地政学リスクは幅広い国に影響が想定される。国外要因だけが通貨の動向差異を生じさせたとは考えにくい。インドネシアの通貨であるルピアを取り巻く国内要因を振り返る。

経済について、インドネシア中銀は、インフレが落ち着いている一方で、経済成長率の底上げの必要性を示唆している。経済環境はフォワードガイダンスで利下げを示唆する背景でもある。潜在的な利下げ姿勢がルピアの下押し圧力と考えられる。

インドネシアの消費者物価指数(CPI)は25年12月が前年同月比で2.92%上昇と、天候の影響を受けた食品価格の上昇を受けやや上昇傾向だが、変動の大きい項目を除いたコアCPIは2.38%上昇だった(図表3参照)。いずれのインフレ指標も、インドネシア中銀の物価目標(2.5%±1%)に収まっている。インドネシア中銀は26年、27年についてもインフレ率は物価目標の範囲に収まる見込みであると声明文で示唆している。ただしルピア安が続けば物価押し上げ要因となることが懸念され、インフレの安定が利下げ期待、そして通貨安への連想となっている点に注意は必要だ。

経済成長率も将来の利下げを支持する要因とインドネシア中銀は指摘している。潜在成長率を下回ることから、(通貨安が落ち着けば)利下げが必要だと述べている。しかし、25年7-9月期のGDP(国内総生産)成長率は前年同期比5.04%増と、主に財政政策に支えられ堅調な結果だった。インドネシア中銀は昨年8月と9月の会合では大半の市場予想に反する利下げでサプライズとなる判断を行い、結果としてルピア安が進行した。当時の成長率も5%超であったことから、数字の上で利下げは正当化しにくいなど市場に理解されなかった。

インドネシア経済以外にもルピアの動向を左右する要因がみられる

インドネシア中銀の成長下支えを擁護するとすれば、経済成長のドライバーを財政政策から金融政策にシフトさせる必要性だろう。インドネシア財務省が26年1月に発表した25年の財政赤字対GDP比率は約2.9%と、24年の2.3%から大幅に悪化した。同比率の上限は法律で3%となっており、景気押し上げ余地は限られるからだ。ただし、財政赤字拡大自体がルピア安要因となっており、安易に金融緩和へシフトすることは、必要であるとしても、リスクが高い。市場との慎重な対話が必要だ。

なお、新たなルピア安要因にも注意が必要だ。インドネシア中銀は19日に任期満了で退任した副総裁の後任としてジワンドノ財務副大(プラボウォ大統領のおい)が3人の候補者のうちの1人に浮上した。この報道だけで、金融政策の独立性に対する懸念が広がりルピア安要因となっている。

インドネシア中銀は伝統的にルピア安に配慮した金融政策運営をする傾向がある。足元でも、インドネシア中銀は積極的な為替介入でルピア高に誘導している。筆者は、インドネシア中銀は年内、ルピアの動向次第で利下げの余地が生まれるとみている。ただし、中銀の独立性維持については姿勢を明確にする必要があると思われる。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


日本国債利回り急上昇の背景と今後の注目点

中国、経済成長目標達成の中身と今後の課題

クラリティ法案の延期とステーブルコインの課題

12月の米CPI、どちらかといえば利下げ支持要因

12月米雇用統計、総じてみれば底堅い面もある

米雇用統計を前に、求人件数、ADPなどを一気見