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FRB次期議長候補ウォーシュ氏指名と市場の反応
梅澤 利文
2026/02/02

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概要

トランプ大統領は次期FRB議長にケビン・ウォーシュ元理事を指名すると発表した。ウォーシュ氏は一般的にタカ派とされるが、最近は利下げ支持の発言もあり評価が分かれる。市場はこの指名に反応し、ドル高や長期債利回りの上昇などが見られた。なお、ウォーシュ氏は金融政策に加えて、FRB改革にも積極的な姿勢であることから、今後の承認プロセスなどを通じて同氏の見解に注目が集まりそうだ。




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トランプ大統領、次期FRB議長にウォーシュ元FRB理事を指名

米トランプ大統領は1月30日、次の米連邦準備制度理事会(FRB)議長として、ケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名すると発表した。ウォーシュの政策スタンスは過去の経緯からタカ派(金融引き締めを選好)という評価が一般的である一方、最近は労働生産性の改善などを背景に利下げを支持するハト派(金融緩和を選好)としての側面もあり、評価が定まりにくい面もある。

タカ派と評価されるウォーシュ氏が指名されたことを受け、ドル指数は上昇した(図表1参照)。米国債利回りも長期債については、小幅ながら上昇した。しかし、金融政策を反映する傾向がある2年国債など短期国債利回りは小幅ながら低下した。

ウォーシュ氏の指名を受け、市場の変動性が高まった

次期FRB議長に指名されたウォーシュ氏は、1月末に任期満了となったFRBのミラン理事が示唆していたこともあり、後任となる可能性が高い。その後米議会上院での承認手続きに進む展開が想定される。FRB議長就任にはまだステップが残されるが、市場はウォーシュ氏指名の報道を受け大きく反応した。

通貨市場ではドル高が見られた。1月後半、ドルは通貨ディベースメント(価値下落)取引やFRBの独立性維持に対する懸念、地政学リスクなどを受け下げが加速した。ドルの悪材料が完全に消滅するには程遠く、ドルの上昇は小幅だが、変化の兆しは見られた。

これに大きく反応したのは金や銀、ビットコインに代表される暗号資産だ。金はドル不安の逃避先として上昇傾向が続いていたこともあり、利食い売りが出た格好だ。銀は記録的な下落となった。銀は金と異なり、中央銀行が外貨準備として購入するなど明確な需要がなく、筆者の見解では銀価格の最近の急騰は投機色が強かったとみている。揺り戻しは不可避だったように思われる。

デジタル・ゴールドとして通貨代替を期待された暗号資産は、すでに昨年後半から下落傾向で、金とは大幅に水をあけられていた(図表2参照)。図表2にあるように、ビットコインは年初から上昇の兆しもみられていただけに、回復機運がいったん後退した格好だ。

米国債市場の変動は小幅だったが金利動向に興味深い動きがみられた。図表1にあるように30年国債など長期債の利回りは、「タカ派」とみられるウォーシュ氏の指名で素直に上昇した。一方で短期国債利回りは小幅ながら低下した。単純化してウォーシュ氏の今後を占えば、目先ハト派的に利下げを支持する一方で、中長期的にはタカ派の色合いが濃くなる、とも読み取れそうだ。

ウォーシュ氏の政策スタンスに対する評価は様々でこれからの課題だろう

ウォーシュ氏の評価には様々な論点がある。金融政策運営についてはタカ派というイメージがあるが、その背景は、2006年~2011年のFRB理事としての経歴に関係がありそうだ。2008年のリーマンショック(世界金融危機)への対応として、当時のバーナンキ議長は量的緩和(QE)を打ち出した。ウォーシュ氏は継続的なQEに懸念を抱き、2011年に自ら辞任した。ウォーシュ氏の最近のスピーチでも一貫してQEに対して批判的だった。ウォーシュ氏のインフレ抑制姿勢など他の要因や考え方があるものの、金融緩和とみられるQEへの反対姿勢もタカ派イメージに一役買ったのだろう。もっとも、QEに対するウォーシュ氏の疑念は金融緩和という側面より、財政政策との関連や、政治との結びつきを危惧する面が大きいようだ。この政策の拡大によりFRBのプレゼンスが金融政策を超えて高まったとの指摘もある。これを懸念する共和党保守派とは少なくとも波長が合いそうだ。

FRBは昨年12月にQT(量的引き締め)を終え、新たなバランスシート戦略が開始されたばかりだ。仮にウォーシュ氏が新たなFRB議長に承認されても、バランスシート戦略が同氏の思い通りとなるかはわからないが、不確実性は高まりそうだ。

一方、最近のウォーシュ氏の発言は利下げを支持する内容もあり、その点ではハト派的だ。住宅市場の下支えには利下げが必要というのはトランプ大統領の考えに近いようだ。また、AIによる生産性の改善がインフレを低下させ利下げ余地が生まれるといったことも指摘している。なお、利下げとは相性が悪そうなバランスシートの縮小については、これにより過剰流動性が吸収され、資産効果を通じてインフレ圧力が緩和されたことから利下げ余地が生まれるといった趣旨の発言もしている。利下げ支持が求められる時期となるFRBの選定段階ならではのことなのだろうか。

ウォーシュ氏はFRBに対する改革の必要性を多く提言している。その内容は、FRBが使用する経済モデルに対するものから、市場に対するコミュニケーションの方法、スタッフの数まで幅広い。パウエル議長も会見などで、市場とのコミュニケーションの方法の改善を述べたこともあり、共通点も一部に見られるが、ウォーシュ氏の提案を既存のメンバーがどこまで受け入れるかは未知数だ。

FRB新議長の承認プロセス(公聴会)では、ウォーシュ氏は具体的に提言の内容を説明することが想定される。期待と不安が入り混じるウォーシュ氏に対し、市場は今後も、注意を払う展開が続くことになりそうだ。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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