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ブラジル中銀の次回の利下げ示唆とその背景
梅澤 利文
2026/02/03

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概要

ブラジル中央銀行は1月の会合で政策金利を15%に据え置いたが、インフレ率や経済成長率の鈍化を背景に、次回以降の会合での利下げを示唆した。インフレ率は目標範囲内で推移し、今後の見通しも下方修正した。GDP成長率も鈍化傾向だ。失業率は低いが、雇用者数は伸び悩んでいる。ただし、10月の大統領選挙は波乱要因となる可能性もあり、市場、ブラジル中銀はともの注視が必要だろう。




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ブラジル中銀、1月も据え置きながら、今後は利下げに転じる可能性を示唆

ブラジル中央銀行は1月28日に開催した金融政策決定会合で、政策金利を市場予想通り15%のまま据え置くことを発表した(図表1参照)。ブラジル中銀は2025年6月の会合で政策金利を15%に引き上げた後、7月会合から5会合連続で政策金利を高水準で据え置いている。

しかし、ブラジル中銀は次回以降の会合で政策金利を引き下げる可能性がある。ブラジル中銀は今回の声明文でインフレが物価目標に向かって収束するならば、「次回の会合では金融政策の緩和を開始する」可能性があることを示唆した。前回の会合の声明文では据え置きが明確に示唆されていたことに比べ表現を変更した。

インフレ率の鈍化などがブラジル中銀の金融政策の今後に影響しそうだ

市場はブラジル中銀が利下げにかじを切ることをある程度想定していたようだ。為替市場等にサプライズを示唆する反応は見られない。先週末からのレアル安は米連邦準備制度理事会(FRB)にウォーシュ氏が指名された影響が大きく、これはブラジルだけでなくメキシコやインドネシアなど他の主要新興国通貨にも同様の動きがみられた。

ブラジル中銀は今回、次回の会合(3月)での利下げの可能性を示唆したが、慎重姿勢であることも強調した。この背景を経済指標で確認する。

まず、利下げを示唆した最大要因はおそらくインフレ率の落ち着きだ(図表2参照)。ブラジルの消費者物価指数(IPCA-15)の1月分は前年同月比で4.5%上昇と、前月の4.41%上昇を小幅ながら上回ったが、ブラジル中銀のインフレ目標である3%±1.5%(1.5%~4.5%)に収まっている。

なお、ブラジル中銀が参照する月全体のデータで算出するIPCAは25年12月が前年同月比4.26%上昇、11月が4.46%上昇と、過去2ヵ月インフレ上限内で推移していた。

インフレ見通しについても下方修正された。12月会合では、26年のインフレ見通しを3.5%としていたが、今回3.4%へ引き下げた。インフレ率の足元の落ち着きと見通しの改善が今後の利下げを指示した要因だろう。ただし、ブラジル中銀は物価目標の中心値は3%で、さらなる鈍化の必要性も強調しており、慎重な利下げ姿勢が想定される。

次に、景気鈍化も今後の利下げ要因と指摘した。ブラジルのGDP(国内総生産)成長率は25年7-9月期が前年同期比で1.82%増と、前期の2.36%増を下回り鈍化傾向だ(図表3参照)。ブラジルのGDP成長率は過去には4%台だったこともあり、ブラジル中銀は成長ペースの調整に高水準の政策金利を維持してきた。しかし、市場のGDP成長見通しを見ると、26年前半は成長率の鈍化が続き、26年4-6月期には1%台前半にまで低下することが見込まれている。これはブラジルのGDP成長率の長期平均を大幅に下回る水準で、そろそろ下支えに切り替えるタイミングだろう。

最後に、ブラジルの労働市場について、ブラジル中銀は底堅いと指摘している。労働市場の堅調さは特に失業率に示されている。1月30日に発表された25年12月の失業率は5.1%と、ブラジル地理統計院(IBGE)が2012年に現在の方法で失業率を計測して以来の最低水準だからだ。足元まで商品市場が活況だったことから、一部セクターは好調なのかもしれない。

しかし、失業率と同日に発表された雇用者数データは弱めの数字だった。幅広くブラジル労働市場が活況というわけではなさそうだ。ブラジルの失業率低下の背景には若年層の労働人口減少という構造問題など、需要ではなく供給サイドに原因がある可能性に注意が必要だろう。

ブラジル中銀は経済に加え大統領選挙を注視しての政策運営となりそうだ

ブラジル中銀が今後は利下げにかじを切る可能性が出てきたのは、インフレ率や成長率の鈍化が背景だが、労働市場の動向次第などでは緩やかな金融緩和となることを声明文は示唆しているように思われる。一方、今回の声明文に書かれていない要因にも市場の関心が高い。最大の関心事は10月に予定されている大統領選挙(10月4日に第一回投票、25日:決選投票)だ。選挙はまだ先の話で、現時点で候補者は確定していない。だが、市場では現職で4選を狙う左派のルラ大統領と、右派の候補としてボルソナロ前大統領の長男、であるフラビオ・ボルソナロ上​院議員を有力候補とみられる(他にはサンパウロ州知事)。

過去のブラジル大統領選挙を思い起こせば、選挙が近づくにつれ、財政政策の拡大が左派のみならず、右派からも起こり、レアル安となったこともあるだけに注意が必要だ。世論調査ではボルソナロ上​院議員とルラ大統領の差が縮まりつつあり、選挙動向は読みにくいのも厄介だ。ブラジル中銀はインフレなど経済だけでなく、選挙も視野に入れながらの金融政策運営が想定される。筆者は3月の利下げ開始後、比較的慎重なペースで利下げの機会を模索する展開を想定している。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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