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- 12月FOMCを前にした米労働市場の現状と今後
米ADPが発表した11月の全米雇用報告によると、非農業部門雇用者数は3.2万人減となり、労働市場の軟化が顕著となった。特に小規模事業所での雇用減少が目立った。ISM製造業景況指数は低下したが、生産は拡大傾向を示した。新規失業保険申請件数は低水準だが、祝日による変動もあり慎重な判断が必要。全体として米労働市場は微妙なバランスで支えられており、今後のデータに注目が必要だ。
ADP雇用報告で、非農業部門雇用者数の伸びは前月比でマイナスに
米民間雇用サービス会社ADPが12月3日に発表した11月の全米雇用報告によると、非農業部門雇用者数(政府部門は除く)は前月比で3.2万人減と、市場予想の1万人増、10月の4.7万人増(速報値の4.2万人増から上方修正)を下回った(図表1参照)。労働市場の軟化が一段と鮮明になってきた。
ADP統計で賃金動向をみると、同じ職場にとどまった労働者(同職者)の賃金は前年同月比で4.4%増と、前月の4.5%から小幅鈍化した。一方、転職した労働者の賃金は6.3%増と、21年2月以来の低い伸びにとどまり、10月の6.7%増を大幅に下回り賃金上昇圧力は明確に鈍化した。
12月FOMCでは利下げの公算が高いが、来年の道筋には不確実性も残る
ADP雇用報告などを受け、今月開催される12月の米連邦公開市場委員会(FOMC、 9日~10日)前の主だった経済指標は概ね発表済みとなった。発表されたデータなどを振り返ると、12月の利下げ予想には影響はない一方で、来年の金融政策については不確実性が残されているようだ。
ADP雇用報告では雇用の伸びがマイナスとなったということに加え、賃金動向やデータの中身からも米労働市場の鈍化がうかがえる。
部門別に雇用の伸びを見ると、比較的堅調であったのは「教育・医療」などに限られ、「専門職・ビジネス」、「情報」、「製造業」など幅広い部門で雇用の伸びが軟調だった。
規模別にみると、従業員500人以上の大企業では雇用者数が3.9万人増と底堅かったが、従業員50人未満の小規模事業所は12万人減と押し下げ要因であった。ADPは発表文で、小規模事業の雇用縮小を指摘している。米労働市場は全体的には落ち着いているように見えるが、微妙なバランスに支えられている面もある。仮に大企業で雇用縮小が進んだとしたら、市場全体が悪化するリスクがある点に注意は必要と思われる。
12月に発表された他の経済指標では、米ISM景況指数にも注目したい(図表2参照)。
米サプライマネジメント協会(ISM)が発表した11月のISM製造業景況指数は48.2と、10月の48.7を下回った。内訳をみると、先行きを示唆する新規受注が47.4と前月の49.4を下回った。ただし、生産は51.4と拡大圏で、4ヵ月ぶりの高水準となった。ISM製造業景況指数の回答者のコメントを見ると、生産指数の改善が示唆するように足元の景況感はそれほど悪化していないようだ。一方で、懸念要因として、関税政策による不確実性を指摘する声は根強い。新規受注や、11月は44と10月の46をさらに下回った雇用指数悪化の背景には先行きへの不安が残っているようだ。
次に、ISM非製造業(サービス業)景況指数をみると、11月は52.6と、前月を上回った。回答者のコメントでは小売りなど消費関連は比較的ポジティブなトーンであった。政府機関閉鎖が終了し、年末商戦は比較的堅調と伝えられていることなどが背景と思われる。しかし、関税政策への不満はサービス業でも根強いなど回復の妨げとなっている要因も散見される。米景気の底割れは考えにくいが、同時に回復ペースも緩やかにとどまりそうだ。
米労働市場の底堅さを示すデータもあり、今後の確認作業が大切だろう
米労働市場について米労働省が発表する雇用統計で確認したいところだが、肝心の11月分が発表されるのは12月16日が予定されており、FOMCには間に合わない。26年の米経済指標の公表予定を見ると、正常化するのは来年1月発表分からとなりそうだ。そこで他の労働市場関連指標として新規失業保険申請件数をみると、先週(11月29日週、図表3参照)は19.1万件と、市場予想を大幅に下回り、約3年ぶりの低水準だった。労働市場は悪化していない可能性もある。ただし、新規失業保険申請件数データは祝日(今回は感謝祭)を含んだ週の数字は上下にぶれる傾向もあり、過度に労働市場悪化懸念を和らげることなく慎重に判断すべきであろう。
なお、長期失業者を反映する継続受給者数も前週を下回ったが、依然高水準であるとみられる。
最後に、先月一部で注目された米民間再就職支援会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの数字を確認する。先月発表された10月分で人員削減の急増が示され労働市場の悪化が懸念された。しかし、12月4日に発表された11月の人員削減数は7万1321人で、10月分の約半分に縮小した。11月分の数字を見る限り、人員削減は正常化したようだ。
ただし、先のADP雇用報告で見られたように、米労働市場は「微妙な」バランスで下支えされている面は、やはりありそうだ。今後発表される米雇用統計など新たなデータで確認したいポイントだ。
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