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FOMC:予想通りの利下げ、予想が難しい来年
梅澤 利文
2025/12/11

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概要

FRBは12月のFOMCで政策金利を0.25%引き下げたが、意見対立が残った。声明文や会見内容は予想よりもタカ派的ではなく、経済見通しを見るとインフレ懸念は多少和らいだようだ。一方で、今後出るデータやリスクのバランスに基づいて追加の調整の規模と時期を検討すると述べたことから、金融政策は据え置きを基本としつつ、利下げを慎重に検討する姿勢にシフトする可能性もありそうだ。




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12月FOMCは市場予想通り利下げが決定されるも反対票は増えた

米連邦準備制度理事会(FRB)は12月9日~10日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、市場予想通り政策金利(フェデラルファンド(FF)金利)の誘導目標を0.25%引き下げ、3.50%-3.75%とした(図表1参照)。

利下げを決定したものの、今回のFOMCでも意見対立が残り、3人が反対票を投じた。前回のFOMCで据え置きを支持し反対票を投じたカンザスシティー連銀のシュミッド総裁に加え、今回はシカゴ連銀のグールズビー総裁も据え置きを支持した。ミラン理事は3会合連続で0.5%の利下げを求めて反対票を投じた。

短期国債購入再開で流動性の改善は期待されるがテクニカルな側面が強い

今回のFOMCは「タカ派的(金融引き締めを選好)利下げ」になる、との事前予想が市場では多かったように思われる。しかし、声明文や会見など発表された内容は、思ったほどタカ派的ではなかったことから米国債市場では2年債などを中心に利回りが低下した。まず、発表内容の中でタカ派的でなかった点を確認する。

1点目はインフレ懸念が高まらなかったことだ。四半期に一度発表されるFOMC参加者の経済見通しによると(図表2参照)、個人消費支出(PCE)価格指数の25年と26年予想は小幅ながら下方修正された。今回のFOMC前、シカゴ連銀のグールズビー総裁など複数の地区連銀総裁がインフレ再燃懸念を指摘した。しかしFOMC参加者全体のインフレ見通しを平均してみると懸念が高まったとは言い難く、この点でタカ派化は回避された。関税によるインフレ率の押し上げに対する懸念は多少後退した可能性もありそうだ。

次に、利上げ反対票が2票にとどまった点もタカ派化が抑えられたと見られよう。大幅利下げを主張するミラン理事は別として、据え置き支持は投票権を持つ地区連銀総裁の2票にとどまった。反対に、執行部(ここでは議長、副議長、理事の意味で用いている)は利下げ支持でまとまった。執行部の中にはウォラー理事のように12月FOMCでの利下げを事前に明確に指示していた人もいたが、一部執行部メンバーのスタンスは明確でなかった。例えば、バー理事などは利下げに慎重だった時期もあったが、最終的に利下げで賛同したようだ。

財務省短期国債の購入(いわゆる「ミニQE」)を12月12日から月額400億ドル規模で開始すると発表したことも市場の一部は好感したようだ。複数のFOMC参加者が準備金管理のためTビル購入の必要性を予告していたので、開始の発表自体に驚きはないが、QT(量的引き締め)終了直後に早くも手を打ってきた印象だ。

購入額について、パウエル議長は会見で当初のペースを4月ごろまで続け、その後は月間200億~250億ドル程度に減らす考えを示した。米短期金融市場では秋ごろから資金不足を示唆する様々なサインが示されていたことが、対応を急がせたのかもしれない。

ミニQEは、不安を抱える短期金融市場に流動性を供給することで、懸念を和らげる効果が期待される。しかし、ゼロ金利制約の下で、他に金融緩和の選択肢が乏しいことから、大量に長期国債を購入したQEと異なり、今回の短期国債の購入は準備預金残高を管理するためのテクニカルな対応の色合いが濃いと筆者は考えている。

インフレと労働市場の今後は不確実で、来年の見通しはたてにくい

ここまで、今回のFOMCの発表内容でタカ派的でない発表内容を振り返ったが、タカ派的な要因もいくつか見られた。

まず、政策金利の水準についてパウエル議長は妥当と思われる中立金利の上限に収まっていることを示唆した。加えて、「今後発表されるデータやリスクのバランスに基づいて追加の調整の規模と時期を検討する」と指摘した。この文言は利下げ休止を決めた24年12月のFOMCでの「政策金利の追加的な調整の程度と『タイミング』を検討する上で、今後入手するデータや変化する見通し、リスクのバランスを慎重に見極める」を思い起こさせるものだ。次回のFOMCは据え置きになる可能性もあるということだろう。

なお、パウエル議長は「誰も現時点で利上げをベースケースとして考えていないと、目先の利上げには否定的であった。図表2の経済見通しで経済成長率(GDP(国内総生産))は上方修正されているが、その一部は政府機関閉鎖の影響を反映させたとも述べており、利上げの材料とはなりにくい。やはり、据え置きか、追加利下げかの選択が当面のメインシナリオのようだ。

ただし、図表1のドットチャートを見ても明らかなように、26年からの政策金利の予想はばらつきが大きい。不確実性が高く、今後の金融政策の先行きが読みづらいことを示唆している。インフレ見通しは下方修正されたといっても小幅で、水準は27年でも2.1%と物価目標を上回っている。インフレは沈静化すると見てはいるが、政策金利をやや引き締め的な水準にとどめる声が急激に弱まるとは考えにくい。一方で、パウエル議長は労働市場についても下振れリスクがあるとの見方を維持している。決め手がない状況は来年も続きそうだ。FOMCでは今年3回の利下げを決定された。来年は誰が議長かという不確実性はあるが、利下げペースは落ちると考えるのが自然と筆者は考えている。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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