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米ISM景況指数などを利用して米国経済を占う
梅澤 利文
2025/11/06

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概要

米ISM非製造業景況指数は10月に52.4と好調で、新規受注指数も改善した。一方、製造業景況指数は48.7と軟調で、関税やレアアース規制が影響したようだ。サービス業は消費が堅調で、雇用指数は底打ちの兆しが見られる。年末商戦では消費増加が予測されるが、インフレ懸念や市場動向には注意が必要だ。また、政府機関閉鎖の影響も懸念される。




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10月の米ISM景況指数は製造業が軟調ながら、非製造業は堅調だった

米サプライマネジメント協会(ISM)が11月6日(0時)に発表した10月の米ISM非製造業景況指数(サービス業)52.4と、市場予想の50.8、前月の50.0を上回り、好不況の分かれ目となる50を上回った(図表1参照)。項目別では新規受注指数が56.2と、前月の50.4から大幅に改善した。

一方、4日に発表された10月の米ISM製造業景況指数は48.7と、8ヵ月連続で50を下回り、市場予想の49.5、前月の49.1を下回った。10月に活動が縮小したのは、繊維や衣料、家具など12業種に上った一方で、拡大したのは輸送機器など6業種にとどまった。

10月の景況感には米中対立の悪化などが影響した面もありそうだ

米政府機関閉鎖の影響で米政府からの経済指標の発表が限られる中、民間のデータに注目が集まっている。利用可能なデータなどから米国景気を占うと、関税の影響など懸念はあるものの、全般に底堅いと思われる。ただし、それでも米政府機関からのデータの公表が待ち望まれる。

まず、米ISM景況指数を参照して、製造業と非製造業(サービス業)の動向を見ると、10月の製造業は軟調であった一方、サービス業は堅調だった。 ISM景況指数は調査ベースのデータで回答者の代表的なコメントも紹介されている。製造業では関税の影響を懸念する声が多かった。中には具体的にレアアースへの懸念も含まれていた。中国が10月9日に発表したレアアース規制導入の影響から米中対立への懸念が再燃、製造業のセンチメントに影響した可能性が考えられる。

もっとも、トランプ米大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は10月30日に、双方が関税を引き下げ、輸出規制を緩めることで一致した。レアアース規制の導入は「1年間延期する」と、期間限定ながら停止された。製造業の景況感は11月のデータも確認する必要があるだろう。

サービス業は10月堅調だった。回答者のコメントには関税の価格転嫁の動きや、雇用を懸念する声などはあるものの(図表2参照)、小売りなどからは消費が堅調であることがうかがえた。業種別では宿泊・飲食サービス、小売業、卸売業など11業種が回復したが、消費関連に堅調さが見られた。こうした中、雇用指数は10月が48.2と依然50を下回る縮小圏ながら、底打ちの兆しが見られた。

一方で、仕入れ価格は10月が70と3年ぶりの水準で、インフレ圧力には注意が必要だろう。ただし、製造業の価格関連指数である支払価格指数は年初来の低水準である58.0に低下した。支払価格指数は物価動向に先行する傾向があるだけに、今後の動向に注目したい。

ISM非製造業景況指数を下支えしたと思われる消費について、他の指標を参照する。ジョンソン・レッドブックが発表したレッドブック小売売上高(月初来前年同期比)は5.4%増だった(図表3参照)。

夏から9月ごろまでの好調から、通常の水準に戻ったとみている。クレジットカードなどの高頻度データなど他の指標でも同様に9月までの過熱気味の消費から通常モードに戻っているようだ。

なお、政府機関閉鎖で小売売上高のデータは9月16日に発表された8月分を最後に停止されているが、8月は前月比0.6%増と堅調だった。

米年末商戦は堅調な消費が見込まれてはいるが、懸念要因に注意が必要

米国の個人消費にとって、主に11月から12月の年末商戦(ホリデーシーズン)の動向が重要だ。調査機関から様々な予測が発表されている。各調査で特色が異なるため、多くのサーベイを集め、傾向を見ると、米消費者は年末商戦で支出を増やす意向のようだ。例えば、ビザのVBEU(Visa Business and Economic Insights)によると、ホリデーシーズンの出費予定額は24年の669ドルから約10%増えて736ドルが見込まれている。

しかし、調査の中には24年を下回るとする調査もある。サンプルや調査時期などが違いに影響している可能性もあるが、サーベイだけで今後を把握するのは、やはり難しいといえるだろう。

ただし、サーベイの中に米国の消費についていくつか注意点も浮かび上がった。例えば、出費額を増やす背景として、将来のインフレへの懸念があるため、安売りが期待できる年末商戦での支出を増やすといった消極的な支出増もあるようだ。また、堅調な消費意欲の背景に株高などの資産効果もあるため今後の市場動向には注意が必要だ。

なお、政府機関閉鎖の影響は、これまでのサーベイでは比較的影響は限定的という声が多かったように思われる。しかし、いつまで続くのかにもよるが、今後は影響が無視できなくなる恐れもある。筆者もデータの公表が停滞していること、トランプ政権の議会に対するコントロールに不安を覚える。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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