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ようやく発表された9月の米CPIが教えてくれること
梅澤 利文
2025/10/27

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概要

米労働省が発表した9月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比・前月比ともに市場予想を下回り、物価上昇圧力は限定的であることが示された。ただし、エネルギーや食品を除くコア指数が鈍化したのは住居費の減速などが大きな要因だった。一方で、関税の影響が一部品目に見られ、物価上昇圧力への懸念は残る。年内の利下げは支持されるが、来年の追加利下げは物価動向を見守る必要がある。




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米政府機関閉鎖で公表が延期されていた9月のCPIはようやく発表された

米労働省は10月24日に、公表が延期されていた9月の消費者物価指数(CPI)を発表した。前年同月比の上昇率は3.0%と、市場予想の3.1%上昇を下回った。8月は2.9%上昇だった(図表1参照)。エネルギーと食品を除いたコア指数は3.0%上昇し、市場予想、8月(ともに3.1%上昇)を下回った。

短期的な動向を示す前月比の伸びは0.3%上昇と、市場予想、8月(ともに0.4%上昇)を下回った。コアCPIは前月比で0.2%上昇と、市場予想、8月(共に0.3%上昇)を下回った。9月のCPIで前年同月比、前月比ともに市場予想を下回ったことを受けて米国債利回りはCPI発表直後に急低下したが、取引終了時点ではほぼ前日の水準に戻った。

9月の米CPIは市場予想を下回り、年内追加利下げの確度を高めたようだ

9月の米CPIの結果は、10月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げを妨げるような要因は数字上は見当たらない。9月のCPIは前年同月比、前月比の伸びは市場予想をすべて下回り、市場が懸念していた物価上昇圧力が見られないからだ。

ただ、内容を見ると、物価の下押し要因は住居費の鈍化など特殊要因で、これでは年内利下げは支持できても、来年の追加利下げに疑問も残る。今後の金融政策はこれからの物価動向次第だろう。

総合CPIの前月比の伸び(9月は0.3%上昇)を、エネルギー、食品、財、及びサービスの4項目に分けて寄与度に分解した(図表2参照)。9月のCPIの伸びを項目別にみると、エネルギーを除き、他の3項目は鈍化した。 9月のエネルギー上昇はガソリン価格がCPIベースで前月比4.1%上昇したことでほぼ説明される。ただし、リアルタイムデータを見ると、ガソリン価格は10月下落している。エネルギーはあくまで変動要因と位置付けるべきだろう。

サービスは9月が前月比0.2%上昇(小数点以下2位では0.24%)と8月の0.3%上昇から鈍化した。しかし、鈍化の主因は構成割合の大きい住居費の減速の影響が大きい(図表3参照)。

米CPIの構成割合を項目別にみると、サービスは約6割を占め影響力が大きい。次に、サービスの構成割合をみると住居費が6割弱(約58%)で、住居費の大半は家賃である「賃貸」と、持ち家に対する家賃として産出する「帰属家賃」で占められる。9月の鈍化は、住居費の中でウェイトが大きい帰属家賃が前月比0.14%と、前月を大幅に下回ったことが影響している。帰属家賃等は、コロナ禍後の住宅市場の活況で高騰したが、最近はコロナ禍前の水準(前月比で0.25%前後)に戻る正常化の過程にあると筆者は見ている。鈍化そのものは自然だが、9月単月の鈍化はやや特異と見ている。

サービスの中でも、住宅関連以外の品目で鈍化したものもあった。航空運賃は9月が前月比2.7%上昇と水準は高いが、8月の5.9%上昇から鈍化した。自動車維持費も0.2%上昇と、前月の2.4%上昇を下回った。自動車保険は0.4%減と下落した。

一方で、医療費、娯楽費などは再加速した。

関税の影響が懸念される財も9月に鈍化したが、内容には注意が必要

次に、関税の影響を反映しやすい財こ注目すると、9月は前月比0.2%上昇と、8月の0.3%上昇から鈍化した。数字からは物価上昇懸念は見出しにくい。

しかし、品目別にみると、中古車(図表4参照)や情報機器などが主な要因となり、財指数を押し下げたと見られる。特に中古車は市場での取引価格は概ね横ばい(やや下落)だっただけに、意外感はあるが、個別品目の単月の価格下落について深堀りはせず、今後の動きを見守りたい。

そうした中、米国が海外からの輸入に依存する商品である玩具、衣料品、家電、家具などは8月に比べ9月の伸びが加速した。関税による価格押し上げの影響が想定される。もっとも、価格転嫁のタイミングは品目、企業により差がある。関税前の駆け込み輸入在庫に違いがあること、企業業績が好調な企業は価格転嫁を抑えているケースもあるなど要因は様々で関税の物価への影響を特定することは困難だ。そうした中、9月の財の品目の中に関税の影響が見られることは、物価上昇圧力への警戒を維持する必要性が示唆されている。

9月のCPIは市場予想を下回ったことなどから、年内の利下げを支持する数字と見られよう。しかし、来年の利下げについては、価格動向や労働市場など幅広く見守る必要がありそうだ。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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