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- 政府閉鎖で延期の米雇用統計を代替する指標
米連邦政府の予算失効により一部政府機関が閉鎖され、米雇用統計などの発表が延期された。ADP雇用報告やJOLTSなど活用可能な民間・政府データを参照すると、米労働市場には安定の一方で弱さが見られる。代替データとして民間調査会社のデータも活用可能だが、信頼性の判断は自己責任となる。なお、シカゴ連銀の推定では9月の失業率は安定しているようだが、公式統計での確認が必要だ。
米政府機関閉鎖で主要な経済指標の発表が延期された
米連邦政府の予算が10月1日すぎに失効し、一部の政府機関が同日朝から閉鎖した。米連邦議会下院は9月19日に、新会計年度に入る10月1日以降も予算執行を続ける「つなぎ予算案」を可決したが上院は同案を即日で否決した。結局、期限となってもつなぎ予算は可決せず、政府機関閉鎖となった。
この結果、10月3日に予定されていた米雇用統計の発表は延期された(図表1参照)。労働省が発表する米雇用統計は非農業部門雇用者数や失業率など重要な指標を含む。市場では代替指標が模索され、非農業部門雇用者数はADP雇用報告などが参照されているようだ。
発表された雇用関連指標をみると、労働市場は安定化の裏で活況度は低下
政府機関閉鎖がどの程度続くのか予測は困難な一方、10月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は予定通り開催される公算だ。利用可能なデータで米労働市場の現状を検討する。
最初に米民間雇用サービス会社のADPが発表するADP雇用報告を取り上げる。ADPは米スタンフォード大学と協力して雇用者数を集計、発表している。このデータはADPを利用する顧客をベースに算出することから、米政府機関の影響は受けにくい。ADPはオンラインベースで集計しており、50万企業、2600万人程度のサンプルサイズは米雇用統計より大きい。しかし、ADPに政府部門は含まれないが、米雇用統計は政府部門も含めた調査であるなどの違いはある。一般にADPの雇用者数は単月では米雇用統計の雇用者数と食い違うこともしばしばあるが、図表1にあるように両指標の動きを傾向的にみると、似ている面もある。
10月1日に発表された9月のADP雇用報告によると非農業部門雇用者数は前月から3.2万人減少と、市場予想の5.1万人増を下回った。8月分も0.3万人減に下方修正され、2ヵ月連続のマイナスとなった。雇用の軟調さは幅広い部門に見られるとADPは発表文で指摘している。プラスを確保したセクターは「教育/ヘルスケア」、「情報」などに限られ、他のセクターは多くがマイナスだった。3日の発表が延期された米労働省の雇用統計の非農業部門の雇用者数は発表を待つしかないが、仮にADPと同様であったら、それほど強い数字ではないのかもしれない。
ADP雇用報告は賃金データも発表しているが、転職者の賃金が伸び悩みやや弱い印象だ。
次に、労働省発表ながら9月30日が公表日であったため利用可能だったのが求人件数などを含む雇用動態調査(JOLTS)だ(図表2参照)。8月の求人件数は722.7万人と、前月の720.8万人からほぼ横ばいだった。ただし、失業者数に対する求人数の割合(U/V比率)は0.98と前月の1.0を下回った。まだ心配する水準ではないが、同比率が1を大きく下回ると、求職者が仕事を探しにくいことを示唆する、もしくは失業率が急上昇する懸念もある。同比率の低下傾向が続くことはないのかに注意が必要だ。
JOLTS統計では解雇者数(レイオフ)にも注目したい。8月は172.5万人と、前月の178.7万人を小幅に下回る程度でおおむね横ばいが続いている。米国企業は求人件数の鈍化傾向から新規採用に慎重な一方で、解雇にも慎重なようだ。よく言えば安定だが、労働市場の活況度が高くないとも表現できる。JOLTS統計の自発的離職率(転職市場の活況度を示唆)の8月分は前の月に比べ低下しており、労働市場の動きは鈍いようだ。
米労働市場の評価に代替指標の活用は有用だが確信度は高くはない
米雇用統計の失業率も注目度が高いが、9月分の発表は延期となっている。ただし、シカゴ連銀がリアルタイムの失業率予測を9月から発表しており、こちらが利用できる。シカゴ連銀によると、9月の失業率の推定値は4.3%だ。10月3日に発表されるはずであった失業率の市場予想は4.3%前後であり、シカゴ連銀の推定値と同水準だ。あくまで予想ベースではあるが、失業率は安定していた可能性がある。
しかし、シカゴ連銀のグールズビー総裁はリアルタイム失業率の信頼性を評価しつつも、それでも政府閉鎖で公式統計が得られないのは「問題だ」と指摘している。リアルタイム失業率のモデルは公表される失業率を推定することに意味があるのであって、ターゲットとなる失業率が発表されないのでは有用性は低いだろう。9月分については、代替として目安にはなるものの、米雇用統計が長期的に公表されないのは不健全と思われる。
他にも、米労働市場は様々な調査でカバーされている。調査(アンケート)ベースのデータとして米ISM(製造業と非製造業)景況指数の構成指数である雇用指数や、コンファレンス・ボードが発表する消費者信頼感調査のうち、「職が豊富にある」との回答と「職を探すのが困難」の差で示される「職の探しやすさ」などは筆者も毎月参照している指数であり、民間調査会社の提供であることから、政府機関閉鎖の間も利用が可能と思われる。
さらに、米国には民間の調査会社が幅広く米雇用統計の代替データをカバーしている。これらを利用するのも一案ではあるが、データの信頼性などの判断は自己責任である点に注意が必要だ。
代替データを参照すると、9月の米雇用統計で労働市場は「安定的だが、弱さも見られる」という評価になるのだろうと想像はしているが、本当のデータに比べ確信度は高くない。
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