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- 年末年始の気になる動き:ベネズエラへ軍事行動
トランプ米大統領はベネズエラに軍事攻撃を行い、マドゥロ大統領夫妻を拘束した。これにより、ロドリゲス副大統領が暫定大統領に指名されたが、米国の行動の正当性やベネズエラの今後の政権運営に不確実性が残る。原油市場や為替市場の反応はこれまでのところ限定的だ。しかし、軍事行動などに対して国際社会からの非難が高まるなど不確実性も残っている。今後の展開には注視が必要だ。
米国、ベネズエラを攻撃、マドゥロ大統領を拘束した
トランプ米大統領は1月3日、反米左派政権が率いるベネズエラに対して大規模な攻撃を実施、マドゥロ大統領は妻とともに拘束され、同日、米ニューヨーク市の連邦拘置所に収容された。
ベネズエラ最高裁は3日、マドゥロ氏が拘束されたことを受け、憲法に基づいてロドリゲス副大統領に暫定大統領として職務を代行するよう命じた。ロドリゲス氏は、今回の攻撃を軍事侵略だと非難するとともに、マドゥロ氏が唯一の大統領だと述べ、即時解放を求めている。
このような状況を受けた市場動向をみると、原油価格は小幅な動きにとどまっている(図表1参照)。
将来的にはベネズエラの石油利権に米石油企業の関与の可能性を示唆
米軍によるベネズエラ攻撃や大統領夫妻の拘束されたことは驚きで、マスメディアその動向を詳しく報道している。ただし、市場は事態を冷静に受け止めている面もある。日本時間での反応ではあるが原油や為替市場は小動きで、株式市場の勢いに陰りは見られない。もっとも、ベネズエラの今後の国家運営や、今回の米国による攻撃の正当性など、不確実性が残る点に注意は必要だろう。
ベネズエラは世界最大級の原油埋蔵量を誇るが、原油市場の反応が限定的なのは、ベネズエラの石油生産の世界全体に対するシェアが1%程度に過ぎないからだろう(IEA:国際エネルギー機関のデータを参照)。なお、ベネズエラで産出される原油はアメリカ石油協会(API)の比重指数基準の分類で、精製コストが高い超重質油が多い。それでも精製コストなどが安い軽質原油が少なくなりつつある中、超重質油への注目が高まっている。
ベネズエラの石油生産施設は老朽化したものも多く、新たな投資が求められるが、米石油大手は投資には及び腰だ。ベネズエラは1999年に反米左派のチャベス氏が就任した。2013年3月にチャベス氏が死去した後を受け継いだのが、同じく反米左派路線のマドゥロ氏だ。チャベス政権(当時)は2006年ごろから資源関連産業の(再)国有化を進めたが、これを嫌って一部の例外を除き米石油大手企業はベネズエラへの投資から手を引いた。トランプ大統領は軍事行動の後に行われた会見でベネズエラの石油事業に米国企業が深く関与することを示唆したが、トランプ大統領の口ぶりからは、失った利権を取り戻しただけと正当化しており、石油利権が本音のように筆者には響いた。
なお、図表1にあるようにベネズエラ債券(国債)は額面100に対し30台で足元推移しており、デフォルトを意識した水準だ。しかし、昨年秋に米国がベネズエラに、麻薬輸出を理由として同国の艦船を攻撃するなど、圧力をかけてから債券価格は回復傾向だ。圧制を続けるマドゥロ政権の転覆を市場が織り込んでいたと筆者は見ていたが、今後のベネズエラ債券の動向にも注目したい。
用意周到の米軍の軍事行動であったが、今後の課題は山積み
今回のベネズエラに対する米国の行動を振り返ると、いくつか注意すべき問題点がある。
まず、米国の軍事行動の正当性だ。国際的には5日に開催が予定されている国連安全保障理事会の緊急会合で、米軍によるベネズエラのマドゥロ大統領を拘束したことの合法性が目先の焦点となろう。ベネズエラと友好関係にあるロシアや中国は米国が国際法に違反していると非難している。南米ではブラジルやメキシコも米国を非難している。欧州からはスペインやフランスなどが非難する姿勢だ。スペインのサンチェス首相は「マドゥロ政権を認めてはいないが、(米国のように)国際法に違反した介入も認められない」と述べている。国際社会からの風当たりは強そうだ。
国際法上、他国の領内でその国の政府の同意なく、一方的に国内法を執行することは主権の侵害と考えられている。トランプ政権はマドゥロ政権を正当な政府と承認していないため、同意の必要性がないとトランプ政権は主張するが、このようなことが認められるのかなど問題点は多い。そもそも、マドゥロ氏の拘束は同氏の影響下にあるとされる犯罪組織「太陽のカルテル」などを通じた麻薬取引が米国にとっての危機であることが軍事行動の表向きの理由と思われるが、関与の証拠など法的な正当性についても見守る必要がありそうだ。
次に、ベネズエラの今後の政権運営はおそらく最大の問題点となるだろう。トランプ大統領は3日の会見で、「安全で適切、賢明な政権移行が実現するまでベネズエラを運営していく」といった主旨の発言をした。あとから思うと、米国石油企業による石油施設への投資や運営を国家の運営と表現したのかもしれないが、マスコミでもこの点を懸念するコメントが多かった。イラクやアフガニスタンの例からも明らかだが、政権転覆後の国家運営は簡単な話ではない。
もっとも、ベネズエラを米国が「運営」するとしたトランプ大統領の発言の意図について、米国のルビオ国務長官は4日に直接統治ではなく、米国が望む政策をベネズエラ側に推進させることと説明している。そうであるなら、米国の思惑通りに運ぶかは、ベネズエラの次の政権の姿勢に大きく依存しそうだ。暫定大統領に指名されたロドリゲス氏は当初、高速を誘拐と表現するなど米国に激しく抗議したが、4日、米政府に対し、政策課題への協力を呼び掛けるなど協調路線の姿勢も示している。協調路線の可否には注視が必要だ。
米国はマドゥロ大統領を拘束したとはいえ、政権側はマドゥロ体制で占められている。米国の現実的な選択は、暫定政権が米国に協力的ならば、当面はロドリゲス氏ということなのだろう。ただし、これがベネズエラ国民の民意と整合的なのかは、公正な選挙の実施を待つ必要と思われる。
最後に、米国の軍事行動の影響が懸念される点として、すでに多くの論者が指摘していることではあるが、ウクライナへ軍事侵攻したロシアや、台湾問題を抱える中国に誤ったメッセージとならないか、という問題がある。筆者もこの点を最も懸念している。
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