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インド準備銀行の据え置きと米印関税合意の背景
梅澤 利文
2026/02/10

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概要

インド準備銀行は2月の金融政策決定会合で政策金利を5.25%に据え置いた。インフレ率の鈍化や経済の安定、対外関係の改善が背景にある。米国との関税交渉合意や欧州との自由貿易圏交渉の進展、26/27年度予算案による成長支援策も景気を下支えすると想定される。これらの要因から、インド中銀の年内の利下げ回数は当初予想より減るとみている。




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インド中銀は2月の会合で政策金利を全会一致で据え置いた

インド準備銀行(中央銀行)は2月4日~6日に開催した金融政策決定会合(以後、会合)で、市場予想通り政策金利(レポ金利)を5.25%で据え置くことを決定した(図表1参照)。今回の決定は全会一致だった。金融政策のスタンスについては中立姿勢を維持することも決定した。

インド中銀は2025年2月の会合で、利下げに転じた。これまで4回の利下げで合計1.25%、政策金利を引き下げた。前回会合(25年12月)までの利下げでは外部環境や、インフレ率の低下などを背景としていた。しかしインド中銀はインドのインフレ率や経済の状況、外部環境改善への期待などから今回の会合は据え置きとした。

インドの足元の低インフレ率は一時的ながら、来年度の見通しは目標前後

図表1にあるように、インド中銀は25年6月会合で政策金利を5.5%にまで引き下げた後、12月会合まで据え置きを続けた。通貨ルピー安が利下げを抑制する要因であった。12月会合時点でもルピー安傾向だったが、インド中銀は利下げを行った。インフレ率の鈍化が利下げを支持する主な要因だった(図表2参照)。今回(2月)の会合でインド中銀は景気、物価動向が程よい状況だとして据え置きを決定した。何が変わったのかだろうか。

図表2でインドのインフレ動向を消費者物価指数(CPI)で確認すると、12月は前年同月比で1.33%上昇だった。前月を上回ったものの、インド中銀の物価目標(4%±2%)を十分下回っている。CPIの数字だけなら、今回も利下げできそうな水準だ。しかし、インドのCPI鈍化の背景は変動の大きい食品価格の下落と、25年9月の消費税に相当する「物品・サービス税(GST)」の引き下げが含まれている。これらの影響が減衰するとみられる今後のインフレ見通しを確認すると、インド中銀は26/27年度(26年4月~27年3月)の前半を4.0%~4.2%と見込んでいる。足元の数字より、先行きも含め物価は程よい状況と判断したようだ。

米印関税引き下げ合意などはインド経済の下支え要因とみられる

次にインド経済を見ると、25年7-9月期GDP(国内総生産)は前年同月比8.2%増と前期の7.8%増を上回り、堅調に推移した(図表3参照)。所得減税や物価の落ち着きにより内需が堅調であったことが主な押し上げ要因だった。

純輸出は前期を小幅に下回った。米国政府は8月27日、ロシア産原油を購入しているインドに対して25%の追加関税を発動し、同月7日に課した25%の相互関税に上乗せされることから、対象品目の関税税率は合計50%となった。こうした中、インドの米国向け輸出は減少したが、事前の駆け込み輸出や、輸出相手国の分散などで、ある程度減少はカバーされたものの、影響は残った。

インドは物価安定による消費回復や政策対応で景気を支えており、前回会合では景気下支えとして政策金利を引き下げた。しかし今回の会合では利下げを見送った。ここには2つの要因があると思われる。

1つ目は対外関係の改善だ。米国は2月2日に、インドとの貿易交渉が合意に達したと発表した。インドがロシア産原油の購入をやめる見返りに、追加関税の撤廃と相互関税の引き下げで、インドへの関税は50%から18%まで下げることを示唆した。

この税率引き下げで、インドへの関税は他のアジア諸国と同水準となったこともあり、景気押し上げが期待され、インド中銀が政策金利を据え置き、様子見をする支援材料の一つだろう。

なお、インドは1月27日に欧州と、自由貿易協定(FTA)交渉の妥結を発表した。長年の懸案が解決に向かい前進した。協定が発効となれば巨大な自由貿易圏が生まれることとなるうえ、おそらく今回の欧州との関係改善は、米国との貿易交渉を進めるうえで、有利に働いた可能性がある。

2つ目は国内財政で、インド景気を下支えする要因とみられる。インド政府は2月1日に26/27年度予算案を発表した。米国との貿易交渉の先行きが不透明な中での予算案であった。歳出総額の伸びを6%増の53兆4731億ルピーとした。予算配分からは、成長支援を優先した内容とみられる。

26/27年度予算案では製造業に対する配慮が見られた。減税など政策対応を受け、消費は比較的堅調な一方で、製造業の回復が遅れていたため下支えが必要と判断したようだ。公共投資先として鉄道、道路、電力などの整備が挙げられている。ただし、インド政府は今回財政赤字対GDP比率を4.3%に設定し、25/26年度の4.4%からの改善を示したが改善ペースは緩やかだ。財政悪化への懸念が残る点には細心の注意が必要だ。

関税合意や財政政策は景気押し上げ要因とみられ、インド中銀への利下げ圧力は減りそうだ。これまでは、年内2回の利下げを見込んでいたが、1回の引き下げにとどめると見通しを変更した。

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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