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10月FOMCのメッセージ、「既定路線でない」とは?
梅澤 利文
2025/10/31

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概要

米連邦準備制度理事会(FRB)は10月28-29日のFOMCで政策金利を0.25%引き下げ、QTを12月1日で終了することを決定した。パウエル議長は12月の利下げが「既定路線ではない」と述べ、FOMC内での意見の相違を認めた。労働市場の悪化の見方をやや緩め、データ不足の中での利下げにやや慎重なトーンだった。QT終了は市場の予想通りで、短期金融市場にストレスの兆しがあったようだ。




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10月FOMC、市場予想通りの据え置きだったが、見解は分かれる

米連邦準備制度理事会(FRB)は10月28-29日に米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、市場予想通り政策金利(フェデラルファンド(FF)金利)の誘導目標を0.25%引き下げ、3.75%-4.00%とした(図表1参照)。雇用の勢いが失速するリスクへの対応を優先した。また、FRBはバランスシートの縮小(償還に伴う保有証券減少、量的引き締め、QT)を12月1日で終了することも明らかにした。

今回のFOMCでは2名が反対票を投じた。ミラン理事は前回会合と同様に0.5%の利下げ幅を主張して反対票を投じた。一方で、カンザスシティー連銀のシュミッド総裁は追加利下げをすべきではないとして据え置きを支持した。

10月のFOMCは金融政策の今後を巡り見解の相違が鮮明となったようだ

10月のFOMCでの注目点は①パウエルFRB議長の12月の利下げは「既定路線ではない」との発言と、②幅広く予想されていたことではあるが、QTの終了だろう。

まず、①のパウエル発言の背後にあるのは、FOMCの内部で金融政策をめぐり対立の構図があることに他ならないだろう。対立の構図を9月のFOMCで公表されたドットチャートで再確認しよう(図表2参照)。図表2で25年の赤丸(中央値を含む)は、9月の利下げを含め年内3回の利下げを9名が支持していることを示唆する。一方、赤丸から上のFOMC参加者も合計すれば同じ9名となる。この後者の9名は10月と12月の2回のFOMCについて、据え置きか1回のみの利下げを支持していた。

市場は10月と12月の利下げを支持する前者の9名にFRBの執行部が含まれていると見ており、12月利下げを当然視する見方が多かった。しかし、パウエル議長が会見で「非常に異なる見解」があるという指摘は12月を含め今後の利下げを巡る見解に相違が大きいことを素直に認めたものだ。

なお、ドットチャートで25年末のFF金利が最も低い見通しなのはミラン理事だ。同氏によると、移民や関税政策が中立金利を低下させたと主張されているがFOMCの中では独特の見解で、他のメンバーの支持は得られていないと筆者は見ている。

再度、対立の構図に戻ると、10月のFOMC後の会見でパウエル議長は「既定路線ではない」としてあらかじめ決められたコースをたどるよう市場の利下げ期待をけん制したが、これ以外にも12月の利下げに不確実性があることを次のように指摘した。

米国労働市場については、下方(悪化)リスクを指摘している。10月は利下げを決定していることから、このような見解は当然であろう。しかし、米労働市場は懸念するほど悪化していない可能性についても言及した。データとして、ADP雇用報告や、民間の求人指標などが底堅い点を指摘している。また、州別で発表される失業保険申請件数も悪化していないと指摘している。政府機関閉鎖でデータ公表が停止される中、主に民間が発表するデータにより労働市場を分析すると、著しい悪化は見られないと判断しているようだ。

このような中、利上げの見送りが適切と考える「声が大きくなっている」との指摘もあったようだ。

また、政府機関閉鎖を念頭に「不確実性が高い状況では、今後の動きについて慎重な姿勢が求められる」とパウエル議長は述べた。データが不十分な局面で利下げを続けることにやや懐疑的なこともタカ派(金融引き締めを選好)的と市場では受け止められているようだ。

パウエル議長は今後の金融政策について見解が大きく異なると指摘することなどでタカ派色を匂わせた。しかし、インフレについては関税の影響で押し上げられているものの、影響を取り除けばコア消費者物価指数(CPI)は2.4%程度であることを示唆した。物価目標から遠くないことを指摘し、ハト派(金融緩和を選好)的な面ものぞかせている。

市場は10月のFOMC前まで、12月の利下げを当然視したうえで、来年の利下げも複数回見込んでいた。結局、パウエル議長の発言は、そのような市場の見通しに対する警告の意味合いが強かったのではないだろうか。筆者は12月と、必要なら来年もう1回の利下げ、という見通しを維持しているが、今後の当局の情報発信によっては修正の必要があるかもしれず、注意を払い続ける姿勢だ。

パウエル議長の10月の予告通り、量的金融引き締め(QT)は終了へ

次に、②のQTを12月1日で終了させることについては、終了のタイミングはわからなかったが、パウエル議長は10月14日の講演で終了を示唆していたことから驚きはない。また、住宅ローン担保証券(MBS)を米国債に置き換えること、保有米国債の満期構成をより短期化することなどは、これまでにも多くのFOMC参加者が講演などで説明してきたことと整合的で、共通認識と思われる。

QT終了を決めた背景は、バランスシート、とりわけ負債項目の準備預金の規模が「潤沢」から「十分」を少し上回る水準になったということだろう。別の背景は短期金融市場にストレスの(流動性不足)の兆しが見えたためとパウエル議長は説明している。一部レポレートが上昇したこと、スタンディング・レポ・ファシリティ(SRF)が10月に期末でもないのに利用が急増した日があったことなどが懸念材料だったのではないかと筆者は見ている。今後FRBは準備預金の規模を維持する政策運営をすると見込まれるが、短期金融市場のストレスには注意を払い続ける必要があるのだろう。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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