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中国の10月主要経済指標は総じて弱い結果に
梅澤 利文
2025/11/17

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概要

中国国家統計局が発表した10月の主要経済指標は、消費、工業生産、固定資産投資のいずれも前月を下回り、景気の弱さが浮き彫りとなった。小売売上高では、耐久財の売り上げが低迷した。工業生産は輸出の減少や中秋節の影響で軟調となり、固定資産投資も不動産やインフラ投資の減速が続いている。中国当局は景気対策を講じているが、効果は限定的で、内需拡大の戦略が求められている。




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10月の中国の主要経済指標は全般に軟調だった

中国国家統計局は11月14日に10月の主要経済指標を発表した。消費動向を示す小売売上高は前年同月比2.9%増と、市場予想の2.8%増を上回ったものの、9月の3.0%増を下回るなど内需の弱さが示された(図表1参照)。

10月の工業生産は前年同月比4.9%増と、市場予想の5.5%増を下回り、比較的堅調だった9月の6.5%増を大幅に下回った。9月の工業生産は外需が押し上げ要因だったと見られるが、10月は堅調さを維持できなかったようだ。

10月の固定資産投資は年初来前年同期比1.7%減と市場予想の0.8%減、9月の0.5%減を下回り、マイナス幅を拡大させた(図表2参照)。

10月の小売売上高は市場予想ほどには悪化しなかったが、それでも低水準

10月の中国主要経済3指標は、いずれも前月を下回った。その背景は各指標ごとに違いはあるが、全体に景気の弱さが示された。10月20日に発表された中国の7-9月GDP(国内総生産)は年初来で5.2%と25年の成長目標(5%前後)を確保した。しかし、10月の経済指標は中国経済先行きに懸念を残す内容で、これまでの中国当局の景気対策の繰り返しでは不十分となる恐れもあろう。

まず小売売上高に注目すると、一部に明るい兆しが見られた。外食など飲食店の収入を反映する食料品目は前年同月比で3.8%増と、9月の0.9%増を上回った。5月に「倹約令」が強化されてから食料は伸び悩んでいたが、10月の伸びは、倹約令前の水準に近付きつつある。

また、金および宝飾品は37.6%増と、9月の9.7%増を大幅に上回った。通信用品も23.2%増と高い伸びを維持した。

しかし、懸念要因も多い。耐久財の売り上げを見ると、家電製品は14.6%減、自動車は6.6%減と、それぞれ9月の3.3%増、1.6%増を下回った。これらの品目は中国当局の景気下支え策として補助金による購入を促進してきたが、需要先食いの影響がありそうだ。本格的な消費回復は、補助金だけでなく、安定した雇用と所得が欠かせない。

中国の10月の全体の失業率は5.1%と低水準だが、実態を反映しているとは思えない。注目すべきは若年層の失業率で9月分は17.7%と高止まりしている(図表3参照)。8月の18.9%からは小幅改善したが、10月分の結果に注意が必要だ。

なお、通販各社は毎年恒例の秋のオンラインセールを前倒しで開始したが、家電製品などの売り上げは伸び悩んだようだ。そもそも、セールの前倒しをすること自体が、各社とも消費の弱さを実感している表れではなかろうか。

工業生産はテクニカルな背景もあり軟調、固定資産投資は不振が続く

次に、10月の工業生産は市場予想を下回るなど軟調だった。9月は好調、10月は軟調だったが、輸出についても9月は好調、10月は軟調のパターンが見られる。中国の工業生産は輸出に連動する傾向はあるが、今回の短期的なパターンの相似の背景は中秋節の後ずれが10月の押し下げ要因の1つと見られる。

しかし、工業生産を品目別にみると、セメントや鉄鋼、さらには太陽光パネルなど過剰生産が懸念される品目が軟調であった。中国当局の生産調整の影響も押し下げ要因であろう。

最後に、10月の固定資産投資は年初来同期比で1.7%減と2か月連続でマイナスとなった。内訳を図表2で確認すると、不動産投資は14.7%減と、9月の13.9%減からマイナス幅を拡大させた。住宅関連指標も軒並み悪化しており、問題の根深さがうかがえる。

公共投資を反映するインフラ投資も軟調で、公共投資には手詰まり感が見られる。

製造業投資は過剰生産への懸念から投資は積極性を失いつつある。米中摩擦による不透明感も投資を手控えさせる要因だろう。米中摩擦については10月30日の米中首脳会談での合意内容の詳細が公表された。レアアースなど重要鉱物の輸出規制を「中国側が事実上撤廃する」とのコメントもあるが、実態は1年間の先送りに過ぎない。合意そのものは米中対立の緩和要因であるが、対立の火種は残る中、投資への影響が懸念される。

中国当局も固定資産投資の減速に対し対策がないわけではない。例えば、中国国家発展改革委員会(発改委)は9月29日に景気支援策の一環として投資プロジェクトを加速させるため、5000億元(約10.9兆円規模)政策金融ツールを導入すると発表した。特定のプロジェクトへの支援と位置付けている。ただし、このような対策の効果は十分とは言い難い。おそらく、規模が不十分なのだろう。

先の第20期中央委員会第4回全体会議(4中全会)では「内需拡大の戦略を堅持する」ことが表明された。市場は次の一手に注目している。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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