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7-9月期GDPのマイナス成長と政策のバランス
梅澤 利文
2025/11/20

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概要

2025年7-9月期の日本の実質GDP成長率は前期比0.4%減、年率換算で1.8%減と6四半期ぶりにマイナス成長となった。主な要因は輸出と住宅投資の不振だが、個人消費や設備投資は底堅さを見せた。与党からは20兆円超規模の補正予算の声も上がっている中で、市場の日銀の追加利上げ見通しは後退した。円安が進行する中で、補正予算を伴う物価対策等には金融政策とのバランスが課題だろう。




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日本の7-9月期実質GDP成長率は6四半期ぶりにマイナス成長

内閣府は11月17日に2025年7〜9月期のGDP(国内総生産)速報値を発表した。物価変動の影響を除いた実質GDP成長率は前期比0.4%減と、市場予想の0.6%減を上回った。4-6月期は0.6%増だった(図表1参照)。前期比の成長率を年率換算すると1.8%減だった。

主な構成項目の前期比の伸びを見ると、輸出は1.2%減だった。また住宅投資は前期比で9.4%減と大幅なマイナスとなった。一方で、消費を示唆する民間最終消費支出は前期比で0.1%増と、市場予想と一致した。4-6月期は0.4%増だった。また民間企業設備投資は1.0%増と、市場予想の0.1%減、4-6月期の0.8%増を上回った。

日本の7-9月期のGDP成長率はマイナスだが、内容はそれほど悪くない

日本の7-9月期のGDP成長率は6四半期ぶりにマイナスとなった。しかし、主な下押し要因は輸出と住宅投資の不振で、ある程度の悪化は市場にとっては織り込み済みだったと思われる。むしろ、前期比の成長率は市場予想ほどには悪化していない。個人消費や設備投資などは底堅いと評価も出来ると思われる。

しかし、さりとてマイナス成長だ。タイミングが良いのか、悪いのか政府は総合経済対策の検討を進めている。与党自民党の有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は18日、経済対策の裏付けとなる補正予算の規模を25兆円とするよう高市早苗首相に求めたとの報道もある。そうした中、日銀の追加利上げ見通しも後退し、為替市場では円安が進行している(図表2参照)。

市場が織り込む追加利上げ確率は11月月初に5割程度であったが、足元では2割程度にまで低下した。追加利上げ見通しが後退したのは7-9月期のGDP成長率だけではないだろう。台湾発言をめぐる日本と中国の対立を受けた渡航への影響や日本産水産物の輸入停止なども影響している可能性もあるが、まずは7-9月期のGDPを振り返る。

図表1から明らかなように、7-9月期のGDPを押し下げた主な要因の1つは住宅投資だ。この背景は4月から住宅の省エネルギー基準が厳しくなり、3月に生じた駆け込み需要の反動減が7〜9月期にマイナスの影響として表れたことは市場である程度共有されていると思われる。また、住宅市場の悪化とまでは判断されないであろう。

輸出はトランプ関税の影響により自動車輸出などが抑えられた。また、輸出に分類されるインバウンド(訪日外国人)消費は1.6%減だった。おそらく日本で7月に地震との噂が広まったことが客足に影響を与えたようだ。しかし、先日発表された10月の訪日外国人客数(推計値)は約390万人と、単月としては過去2番目の多さとなった。7-9月期の減速は一時的の可能性もあろう。

次に、個人消費と設備投資には底堅さがみられる。個人消費は7-9月期が前期比0.1%増と、前期は下回ったが、これで6四半期連続プラスの伸びを確保した。内容でも、外食がプラスとなるなど資産効果なのか出費に底堅さがうかがえる。アウトバウンド(日本人の海外旅行者数)も1-9月期の累計は前年同期比で14%超となった。円安が今後の海外旅行の抑制要因となる懸念はあるが、意外(?)と底堅い。

設備投資は人手不足に対応した省力化投資などを受け市場予想を上回る伸びを確保した。10月月初に公表された日銀短観でも設備投資は、少なくとも大企業は、強めの上方修正であった。今為替市場では円安圧力が高まっている。高市政権からは相応に急激な円安をけん制するコメントも出ている。

また、18日には高市首相と日銀の植田総裁が官邸で初めて会談した。植田総裁は、物価と賃金が共に上昇するメカニズムが復活してきているとし、「インフレ率が2%で持続的・安定的にうまく着地するように徐々に金融緩和の度合いを調整している」と伝えたと説明した。また植田総裁は高市首相の反応として「それはそういうことかなと了解されていた」とも説明したうえで、金融政策への要請は「特になかった」と述べている。日銀の独立性には配慮を見せているようだ。

しかし、今後の展開では補正予算が大型化する可能性があることや、経済財政諮問会議のメンバーに金融緩和を支持するメンバーを組み入れたことから、政策の緩和方向への偏りに対する懸念はぬぐえない。そのしわ寄せは日本の長期国債利回りにやんわりと示されているようだ。インフレ対策として取り組んでいる補正予算が、仮に円安などによりインフレを加速させるとするならば、政策のバランスが良いとは言い難い。少なくとも大幅なマイナスとなっている実質金利のマイナス幅を縮小することには早めに手を打つべきで、12月の追加利上げは、あくまで条件がそろえばだが、可能性ゼロではないだろう。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
シニア・ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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