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OECD、社債市場に警告の中身
梅澤 利文
2019/02/26

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リーマンショック以降、グローバル社債市場が拡大しています。金融当局が長期資金調達手段として社債を後押しした面もありますが、長引く金融緩和政策における利回り追求の動きも社債市場を活発化させたとOECDのレポートは述べています。ただ、社債市場には過熱感も見られ、特にハイイールド債とも呼ばれる非投資適格債市場への懸念を指摘しています。



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OECD:グローバル社債市場に関するレポートを公表

経済協力開発機構(OECD)は2019年2月25日にグローバル社債市場に関連するレポートを公表しました。

レポートの中でOECDはグローバルの社債残高は2008年のリーマンショック頃から、低金利と利回り追求が続く中で急増し、足元では約13兆ドル(約1440兆円)となったと(図表1参照)指摘しています。

 

 

どこに注目すべきか:社債、信用格付け、非投資適格債

リーマンショック以降、グローバル社債市場が拡大しています。金融当局が長期資金調達手段として社債を後押しした面もありますが、長引く金融緩和政策における利回り追求の動きも社債市場を活発化させたとOECDのレポートは述べています。ただ、社債市場には過熱感も見られ、特にハイイールド債とも呼ばれる非投資適格債市場への懸念を指摘しています。

社債市場の現状について、OECDは目先懸念は高く無いようです。社債市場の健全性の(大雑把な)指標である投資適格債と非投資適格債の発行比率が通常(投資適格が7~8割、残り2~3割が非投資適格債)の水準であると指摘しています。債務不履行(デフォルト)率が上昇した90年、 2000年、08年に非投資適格債の発行比率は急低下し、社債市場の健全性との関連が示されました。足元の非投資適格債の発行比率は2割程度であり、通常の範囲とも見られますが、OECDは市場の質の点を懸念しています。

例えば、信用格付けの構成割合を投資適格債に限って見ると、最も信用力の低いBBB格の構成割合が53.8%で、 2000年年初の20%程度から急上昇する一方、信用力の高いA格以上(A、AA、AAA)の割合の低下が進行しています。

信用格付けの構成割合を非投資適格債についてみると、 BB格が53.9%と、2000年年初の3割程度から上昇傾向です。投資適格から非投資適格債への格下げ(フォーリンエンジェル)が主な背景と見られます。

投資家の中には格付けに対する投資制約により非投資適格債は取引が制限されるなど、投資家層が限られるため、非投資適格債市場の拡大は取引相手の減少により流動性リスクを高める可能性があります。

また、昨年後半から世界的に成長率予想が下方修正される傾向にあります。景気減速は格下げの可能性を高めることも懸念されます。特にフォーリンエンジェルの場合信用リスクを反映して利回りが上昇し、資金調達コストが高まるリスクがあります。

また非投資適格債で大半を占める緩やかな財務条項などでの発行(コベナンツライト)も気がかりです。
なお、年初にBBB格の債券が同じ年の年末に非投資適格社債となった比率を見ると足元2.8%と過去平均に比べ低水準となっています(図表2参照)。その点は安心材料にも見えますが、仮に同比率が景気悪化などにより09年の水準となれば5000億ドル程度が非投資適格債市場に流入するとOECDは算出し懸念を示しています。
今回のOECDのレポートを通じてみると、社債市場、とりわけ非投資適格債などへの懸念を指摘したと見られます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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