Article Title
ウクライナ情勢の緊張続く 今後のシナリオは? 
田中 純平
2022/02/21

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

ロシア政府が2月15日にウクライナ国境付近から軍隊を一部撤収させると発表し、世界株式市場は一時的にリスクオンになった。しかし、翌日に米政府とNATO(北大西洋条約機構)がロシア軍の撤収を否定、17-18日には親ロシア派武装勢力とウクライナ軍との紛争が続くウクライナ東部で砲撃が相次いだと報道、世界株式市場は再びリスクオフに転じた。今後のシナリオは?



Article Body Text

米シンクタンクは6つのシナリオを提示

米シンクタンクのCSIS(戦略国際問題研究所)が先月発表したレポートでは、ロシアのウクライナ侵攻を巡って6つのシナリオが提示されている。

①交渉が成功した場合、地上軍の一部をウクライナ国境から少なくとも一時的に撤収させるが、東ウクライナの親ロシア派反政府勢力への支援は継続。

②ドネツク州とルハンスク州の分離独立地域にロシア軍を一方的な「平和維持軍」として送り込み、和平交渉が成功し「ミンスク合意」の履行に同意させるまで撤退しない。

③ドニエプル川以東のウクライナ領土を獲得し交渉の材料とするか、この新しい領土を完全にロシア連邦に編入する。

④ドニエプル川までのウクライナ領土を確保し、さらにロシア領と離脱した沿ドニエストルを結ぶ帯状の土地(オデッサを含む)を確保し、ウクライナを黒海へのアクセスから切り離す。ロシア政府は、これらの新しい土地をロシアに編入し、残りのウクライナが経済的に存続できないようにする。

⑤ロシアと沿ドニエストルの間にある帯状の土地(マウリポリ、ヘルソン、オデッサを含む)のみを確保し、クリミアへの淡水供給を確保するとともにウクライナの海へのアクセスを遮断、キエフやハルキウでの大規模戦闘は回避する。

⑥ウクライナ全土を占領し、ロシア、ウクライナにベラルーシを加えた新スラブ連合の結成を宣言。

CSISの同レポート執筆者は、シナリオ②(親ロシア地域に派兵)と③(ウクライナ東部を占領)の可能性が高いと考えていることが報道されており、残念ながらマーケットが期待するシナリオ①(地上軍の一時的撤収)はメインシナリオとはなっていない模様だ。

マーケットでは積極的なリスクテイクが手控えられる

米国は2月21日(月)が「大統領の日」で3連休になることもあり、17-18日の世界株式市場ではウクライナ情勢が緊迫化する中、積極的なリスクテイク(リスクを引き上げて売買する動き)が手控えられたと推察される。

当面の注目材料としては、今週後半に開催される予定の米国のブリンケン国務長官とロシアのラブロフ外相との会談だろう。米国側はロシアがウクライナに侵攻しないことを会談の条件としているものの、米国のカーペンターOSCE(欧州安保協力機構)大使は18日、ウクライナ国境付近に集結したロシア軍が「16.9万人から19万人」に達し、1月30日時点の10万人から増員されたとの見方を示しており、先行き不透明感が高まっている。

また、ロシア下院は15日、親ロシア派武装勢力が実効支配するウクライナ東部のドネツク州とルハンスク州を独立国家として認める法案について、プーチン大統領に承認を求めることを決議した。プーチン大統領がこの法案を承認するかは定かではないが、ウクライナ侵攻の「大義名分」としてカードが切られる可能性を指摘する声もある。さらに、18日には親ロシア派武装勢力がウクライナ軍の攻撃が差し迫っているとし、ドネツク州とルハンスク州の住民をロシアに避難させ始めたと報じられ、よりいっそう緊張感が高まっている。 

2014年3月のロシアによるクリミア併合直後に、ドイツのメルケル首相(当時)はプーチン大統領のことを「(我々とは)別の世界に住んでいる」と述べたと言われるなど、ロシアの論理は欧米とは大きく異なっていることがしばしば論じられている。プーチン大統領の次の行動が(誰にも)読めないのであれば、マーケットが期待する(地上軍の一時的撤収)シナリオも確度が低い可能性がある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、14年間一貫して外国株式の運用・調査に携わる。主に先進国株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。アメリカ現地法人駐在時は中南米株式ファンドを担当、新興国株式にも精通する。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場をカバー。レポートや動画、セミナーやメディアを通じて投資戦略等の情報発信を行う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBCに出演中。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら

MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。



関連記事


原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動

超長期の上値抵抗線を突き抜けたS&P500指数

最高値更新のS&P500均等加重指数が示唆するもの

いまはバブルなのか?米IPO市場からヒントを探る

米株高の「資産効果」で個人消費は上振れか?

米国株の上値余地は?利益成長率から考察