Article Title
米国は欧州向けLNGを追加供給することで合意 今後の展開は?
田中 純平
2022/03/28

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

欧州はロシア産の天然ガスからの脱却を図る一環として、米国からLNGを追加調達することで合意した。しかし、LNGを増産するには多額の設備投資と数年単位の期間を要するうえ、ロシア産の天然ガスを米国だけで代替することも困難だ。また、米国の石油・ガス会社は増産のための積極的な設備投資を躊躇する可能性があり、当面は天然ガス需給が逼迫するおそれがある。



Article Body Text

米国はEU向けに150億立方メートルのLNGを追加供給することで合意

米国は2022年に少なくとも150億立方メートルの液化天然ガス(LNG)を追加供給することで欧州連合(EU)と25日に合意し、2030年まで年間500億立方メートルのLNGを追加供給する方針も掲げられた。また、欧州は2027年までにロシア産化石燃料への依存解消を図る具体策として、LNG輸入インフラの認可迅速化や、毎年11月1日の段階でエネルギーの貯蔵率90%を満たす貯蔵義務やEUによる天然ガスの共同調達、太陽光発電・風力発電の推進と水素技術の開発、室温調整機器(スマート・サーモスタット)やヒートポンプなどの省エネ技術の導入拡大などを挙げている。この合意を受けて、25日の米国天然ガス先物価格(期近物)は前日比+3.15%と続伸する展開となった(図表1)。

欧州が輸入するロシア産の天然ガスを米国だけで補完することは困難

しかし、米国産LNGの増産は短期的には困難であり現実的ではない。LNGの供給を増やすには輸出する米国側と輸入するEU側で多額の設備投資を行う必要があり、数年単位の期間も要する。また、500億立方メートルの追加供給を行うには、米国LNGの輸出量を2020年対比で81%も増やさなくてはならない(図表2)。少なくとも今年の追加供給については、他国向けに供給する予定だったLNG輸出分の一部をEU向けに再配分する対応にとどまる可能性がある。さらに、2020年に欧州がロシアから輸入したLNGは172億立方メートル、天然ガス(パイプライン経由)は1677億立方メートルにもなる。仮に米国がEUに対して500億立方メートルのLNGを追加供給できたとしても、EUのロシア産輸入量(LNG+天然ガス)の27%程度しか代替することができない。

米国の石油・ガス会社は多額の設備投資を抑制する可能性がある

米ダラス連銀が石油・ガス会社を対象に行った最新のアンケート調査では、全体の59%が資本配分政策における規律維持を求める投資家からの圧力によって、成長投資を抑制している実態が明らかになった(図表3)。天然ガス価格が急上昇したとはいえ、それがすぐさま設備投資の増額(=供給増)という経営判断には至りにくい状況がうかがえる。天然ガス需給は当面逼迫した状態が続く可能性がある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?

なぜ生成AI(人工知能)関連株は急落したのか?

S&P500指数が急反発した理由と当面の注目点

日経平均株価が乱高下 パニック相場の真相

米中小型株の復活か?ラッセル2000vsナスダック100